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第13話 全てがつながっていく

 迎えに来てくれたアイリスと一緒に屋敷に戻ると、満面の笑みを浮かべたユグが駆け寄ってきた。天使のような笑顔を見るだけで、不安なんて吹き飛んでいくよ。抱きかかえたユグに頬ずりしていたら、焦った気持ちが()いでいく。



「おとーたん、おかえいなさい!」


「ただいま、ユグ」


「しあおねーたん、かめおねーたん、あいおねーたん、すずおねーたん、ばーおじたんも、おかえいなさい」



 それぞれ挨拶を交わしていたら、リビングの方からノヴァさんとエトワールさんが現れる。



「家の警備をお任せしてしまい、申し訳ありません」


「気にするな、ダイチ。有事の際にウイークポイントを一つでも減らしておくのは、基本中の基本だからな」


「ここには神樹様(しんじゅさま)の意識体までいるんだから、いくらこき使ったって構やしないよ」



 カレンデュラさんが負った怪我の原因はわからないけど、血痕は倒れていた場所にしかなかった。つまり何かしらの脅威は、消えたか別の場所へ移動したってこと。その推測を元に、ゼーロンの街はバードックさんのクラン〝(くれない)に染まる地平線〟と、獣王(じゅうおう)のクラン〝(いかづち)の咆哮〟が厳戒態勢を敷いている。


 まだ状況判断しか出来ないけど、ここで何かおきる可能性は低いと思う。でも、やっぱり心配だからね。



「とにかく寝室へ行くわよ。そろそろ話ができるくらいに、回復してるんじゃないかしら」



 意識が戻ったといっても、大怪我のショックが抜けてなかったらしい。できる限りの治療は施してるから命に別条はないにしても、どこまで回復したんだろう。


 そんなことを考えながら部屋へ入ると、ヘッドボードに背中を預けたカレンデュラさんがいた。



「調子はどうですか?」


「あの状況で生きていたことに、驚いているところよ。そこに控えている使用人はなにも教えてくれないのだけど、どうして私はここにいるのかしら」



 ベッドの横にいるイチカに視線を向けると、そっと頭を下げてくれる。僕たち全員が集まるまで情報を与えないよう、アイリスが指示してくれたんだろう。相手の質問を無視するような役を押し付けてごめんね、イチカ。



「僕たちは、あの家から出されていた依頼を受けました。誰も応対してくれなかったので、勝手に敷地内に入らせてもらったんですが、そこで倒れているカレンデュラさんを発見したんですよ」


「あれってかなり条件が厳しかったはずなんだけど、それを受理できるなんて凄いわね。そんなクランが、どうして私の耳に入ってこなかったのかしら……」



 ベッドの上でカレンデュラさんは、自嘲気味に下を向く。まあバードックさんのクラン経由で受けてるので、知らないのは当然ですよ。



「それより、お聞きしたいことがあります。あの家で暮らしていたカローラちゃんは、無事なんですか?」


「さあね、それはわからないわ。だってアレを管理してるのは、ロータスだもの」


「アレとか管理とか、酷いこと言わないでください。カローラちゃんは物じゃありません」


「ふん。なにも知らないくせに、変な倫理観を振りかざさないでくれる」


「それはカローラちゃんが精霊だからですか?」



 僕の言葉を聞いたカレンデュラさんの顔が驚愕に染まる。やっぱりあの子の正体を知っていたんだ。だとすればロータスさんもそれを承知の上で、カローラちゃんと行動していたはず。



「ふっ……あはははははは。アレの正体を見破れるなんて驚いたわ。大勇者と大賢者、それに魔皇(まこう)まで揃ってるのは、そういう意味かしら」


「単刀直入にお聞きします。あなた達は迷宮解放同盟という組織を作って、活動していますよね。モンスターを迷宮の外へ連れ出そうとしたり、精霊であるカローラちゃんを利用して、心を持たない黒の精霊を生み出している」


「そこまで知られていただなんてね。ロータスが焦って事を進めたがるはずだわ」


「あなた達が買い上げていた家の地下にある霊場、そこで神降ろしの儀式でもしたんですか? その時にトラブルが発生して、カレンデュラさんが怪我をした」


「興味深い話ね。続けてくれる?」


「儀式に必要なものは人と精霊、そして鍵になる器物(きぶつ)です。それらが一つになって、異界の神を人の身に宿らせる。しかし大きな力を得る代わりに、必ず対価を支払わねばならない。一体なにを呼び出したんです?」



 色々カマをかけてみてるけど、うまく情報を引き出せるだろうか。推測が折り混ざった僕の話を、カレンデュラさんはじっと聞いている。



「ロータスがあそこで何をしていたのか、私は知らなかったわ。それに最近の彼は、なにかに取り憑かれたようだった。焦りが目立つようになったのは、エーテルの研究をしていたラーチと、連絡が取れなくなってからかしら。ラーチと親しかった男の家にも行ってきたけど、そっちももぬけの殻だったし……」


「ビーンさんなら、今ごろ取り調べを受けてますよ」


「やっぱり潮時だったってことのようね」



 バンブーさんに祖父の技術を習得した人について調べてもらうと、とある魔道具職人が浮かび上がる。それが不世出の天才職人ビーンさんだ。なにせ世に出ている作品が一つもないので、イグニスさんすら知らない職人だった。


 だけどその人は迷宮解放同盟と、直接のつながりはない。金を積めばどんなものでも作るという、ある意味非常にわかりやすい人でもある。ただ、昔の軍事技術を蘇らせている辺り、倫理観には期待できないけど。



「もう言い逃れはできないみたいだし、諦めるわ」


「ここは外と隔離された空間だからね、逃げ出せるなんて思わないほうがいいよ」


「大賢者様に言われなくても、そんな事しないわよ。どうせ組織は抜けるつもりだったから、私の知ってることを話してあげる」



 何もかも諦めたという表情で、カレンデュラさんはため息をつく。カローラちゃんの付き人を任されるくらいだから、組織の上位にいる人物だろう。そんな人が協力してくれるなら、迷宮解放同盟の実態に迫れるはず。


 ここまでずっと僕中心で話をさせてもらったけど、ここからは専門家や人生経験豊富な人に任せないと。この先の会話次第で、カローラちゃんの運命が決まってしまうのだから。


次回は「第14話 ロータスの目的」。

カレンデュラ側から見た、ロータスの思惑です。

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