表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/237

第11話 魔皇と待ち合わせ

 二人で手をつなぎながらモニュメントの場所まで行くと、独特のオーラを放つ人が立っている。待ち合わせ場所として有名らしいんだけど、そこにいるのは一人だけだ。周りに人は大勢いるものの、遠巻きに眺めるだけで誰も近づこうとしない。


 僕たちはサクラのスキルを切ってモニュメントを目指す。



「こんにちは、バードックさん」


「お待たせしましたなの」


「儂もさっき着いたばかりでな、全く問題ないのだ」



 まさかこの人から、待ち合わせの定番セリフが聞けるとは思ってなかった。だけどさすがに有名人だけあって、周りからの視線がすごいな。更にリナリアまでいるものだから、広場全体が騒然としている。隣りにいる男は誰だ、なんて声が聞こえるけど無視しておこう。ただの兄ですので!



「今回は色々協力してもらって、ありがとうございます」


「気にしなくてよいのだ。これはお前たちだけの問題ではないのだからな」



 ナルキッソスさんがロータスさんとカローラちゃんを見たという屋敷は、数ヶ月前まで空き家だったそうだ。そこを投資家と名乗る人物が買い上げ、自宅兼事務所にしているとのこと。



「サクラちゃんありがとうなの。少しだけお別れなの」



 リナリアの胸元からそっと顔を出したサクラが、手を振りながら消えていく。これで準備は整った。



「ところでダイチよ」


「なんでしょうか?」


「どうしてあの格好で来なかったのだ?」


「嫌ですよ! 人の多い場所であの格好をするのは。それに今日はリナリアとデートしてるんです、無理に決まってるじゃないですか」


「リナリアは可愛いお姉ちゃんでも、かっこいいお兄ちゃんでも、どっちでも良かったの」



 ちょ!? リナリアまでなに言ってるの。あの時は夜だったからごまかせたけど、こんな昼間に女装なんかしたら、絶対にボロを出してしまう。そもそも喋った時点でモロバレでしょ……



「そっ、それより仕事の話をしましょうよ」


「非常に残念だが、仕方がないのだ。とりあえずこれをダイチに預けておくのだ」



 バードックさんが渡してくれたのは、円筒形の小さなアイテム。サイズ的にはポテチの入った、筒状のパッケージに近いだろうか。長さはロングタイプじゃなく、ショートな方。サワークリーム&オニオンとか時々無性に食べたくなるんだよね。



「アイテムボックスというから箱型かと思ってたんですが、こんな形のものもあるんですか」


「もちろん四角いものもあるのだ。他にも丸いものや袋なんてのもあるのだぞ」



 人魚族の情報網で調べてもらった結果、該当する住所から仲介ギルドに依頼が出ていた。それには特殊な条件が付けられており、運ぶ際には精霊の収納スキルを使わず、アイテムボックスを利用してほしいというもの。加えて実績があるクラン限定の条件もあったので、それを満たすバードックさんの協力を仰ぐことに。


 なにせこの国で活動している二大巨塔は、バードックさん率いる〝(くれない)に染まる地平線〟と、獣王が率いる〝(いかずち)咆哮(ほうこう)〟というクランだ。この名前を使わせてもらったおかげで、簡単に依頼を受けられた。


 バードックさんから使い方のレクチャーを受けつつ、心の中で感謝する。



「精霊と違って物の名前とかでなく、番号で管理してるんですね」


「これはスロットの数が三十二個しかないが、中には百個を超えるものもあるのだ」


「メモをとっておかないと、忘れちゃいそうなの」



 まあ今回の依頼は荷物の数も少ないし、メモなしでも大丈夫だろう。だけど精霊を使う運搬が禁止されていたのは謎だ。以前に迷宮内で使っていたような、精霊にとって不快な波動を出す道具とかだったりするのかな。ロータスさんもカレンデュラさんも、精霊を連れていなかった。その辺りにヒントがあるかもしれない。


 ただ依頼で受け取った荷物を勝手に持ち逃げするのは無理だ。いくら疑わしいからって、窃盗のマネだけはやめておこう。ギルドからかなり大きなペナルティーを受けるし、バードックさんのクランに迷惑がかかる。


 とりあえず考えるのを中断し、アイテムボックスの所有者を僕へ変更しておく。そして騒然とする広場を離れ、依頼主の待つ場所へ向かうことに。果たしてカローラちゃんには会えるだろうか……



◇◆◇



 この地区を歩いた時は夜だったので気づかなかったけど、なんだかやたら古い家が多い。いわゆる歴史ある街並みとでもいうんだろうか。雑多な中央区とは違い、区画もある程度整然としている。



「なんだかこの辺りって、ずいぶん雰囲気の違う場所ですよね」


「街の喧騒(けんそう)を嫌った金持ちたちが、昔はこの区画に大勢住んでいたらしいのだ」


「今は空き家が多いみたいなの」


「この辺りは街の再開発から取り残されたのだ。なんでも一部の金持ちが変化を嫌ったそうでな、やがて公共の設備や施設が老朽化して、住む者が減っていったと聞いとるのだ」



 そんな事情があったのなら、ナルキッソスさんにとっては住みやすかったのかも。なにせ男嫌いなうえ、昼夜逆転の生活をしてて、暗くならないと起きてこない。ここは昼間でもかなり静かだもんな。



「あっ、この通りの先みたいですね」


「危なくなったら、儂の影に隠れるのだぞ」


「はいなの」



 仮にそんな事態になったら、アスフィーが顕現するだろう。それにクロウもどこかで監視しているはず。今のところ危険はないと思っておいて、良いかもしれない。



「門のところに呼び鈴があるから、鳴らしてみましょう」



 さすが立派な屋敷だけあり、高い塀と重厚な門で周りを囲っている。そして門の横には、鈴の形をした魔道具が。確かこれ片方を鳴らすと、ペアになったもう一方が反応するんだよな。


 その鈴を軽く揺らすと、リーンという澄んだ音が響く。そういえばスズランがまだ普通の精霊だった頃、こんな可愛らしい音で僕を癒やしてくれてたっけ。



「誰も出てこないみたいなの」


「留守なのかな?」


「儂らが来ることは伝わっとるはずなのだ。例え依頼者が留守でも、使用人くらいいると思うのだが……」



 確かにこれだけ大きな家を、家族だけで維持するのは難しい。従業員が多くいて、その人たちが管理してる可能性もあるけど、それならそれで誰かがいるはず。


 念のため何度か呼び鈴を鳴らしてみたけど、誰も出ては来なかった。



「なんか人の気配もしないですよね」


「すごく静かなの」


「門の鍵も閉まっておらんようなのだ」


「それはちょっと不用心すぎませんか?」


「儂らを応接できん何かが起きているのかもしれんのだ。これは上級クランとして見過ごすわけにいかん。家の中を覗いてみるのだ」



 そういえば上位クランには、街の治安維持に協力する義務があったっけ。住人同士のトラブル解決とか、警ら活動をするとか言ってたもんな。


 ピリピリした感じがしないので、家の中に危険なものはいないと思う。精霊たちやアスフィーをすぐ呼び出せるよう心構えをし、どこかで見ているクロウに合図を送っておく。


 バードックさんを先頭に門を開けて庭を横切り、ドアノブにそっと手をかける。やはりこっちも鍵はかかってないようだ。



「お兄ちゃん。多分だけどこれ、血の匂いなの」


「言われてみれば確かに僕にも感じられるよ」



 なにせ毎晩アイリスに供血してるから、嗅覚が鈍感になって気づくのが遅れてしまった。



「それはいかんのだ! 儂は上級クラン紅の地平線のリーダー、バードックなのだ。緊急事態ゆえ入らせてもらうのだ!!」



 大きな声で宣誓したバードックさんが、扉を開けて中へ入る。玄関ホールには誰もいないが、血の匂いは廊下の方から漂ってくるみたい。



「お兄ちゃん、あそこ。女の人が倒れてるの!」


「大丈夫であるか!? いま助けてやるのだ」



 駆け寄ったバードックさんが、うつ伏せに倒れている女性を抱き上げた。



「カレンデュラさんじゃないですか! なんで血まみれになって……」



 その女性はゼーロンでリナリアのコンサートがあった時、カローラちゃんと一緒にいたカレンデュラさんだ。息はまだあるようだけど、顔色はかなり悪い。




 ――この屋敷でいったい何がおこったというのだろう。


この場で一体何がおきたのか、そして屋敷にいた住人たちは?

更に新たな手がかりも見つかる。

次回は「第12話 捜索」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ