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第9話 これは私のものよ

 ナルキッソスさんが目覚めたと連絡を受け、捕獲作戦に参加した全員で部屋へ向かう。看病はバンダさんが買って出てくれたけど、やっぱり始祖だから男嫌いの対象にはならないのかな。



「うぅ……良かったです。生きてたんですね、始祖様」


「生き残った一族をほったらかしにして、悪かったのである。血を流しすぎた反動で、吾輩の存在がウーサンに縛られているのであるよ」



 良かった、ちゃんと話ができてるみたいだ。それに変にお姉さんぶった口調にもなってない。やっぱりこっちが素の話し方なんだろうか?



「失礼します。ナルキッソスさんが目覚めたと聞いたので、先ほどの説明と謝罪に来ました」


「ひぃっ!? 人魚族と変な服を着た幽霊! それに幼女化した始祖様が、男を連れて……ガタガタガタ」


「落ち着くのである、ナルキッソス。こやつらは幽霊ではないのである」


「ナルキッソスお姉さまが怯えるから、下僕(げぼく)はこれをかぶっておきなさい」



 えー、またウィッグを付けないとダメなの?

 やっと外すことが出来たのに……


 とはいえ、話も出来ないんじゃ困る。



「はうぁ! あなたは私の王子様!!」



 ちょっと待って。髪型を変えるだけで、どうして平気になるのさ。あなたの個体識別能力、一体どうなってるんです?



「なんか面白い子だね、バンダ君」


「あの……始祖様。隣りにいる女性は誰?」


「吾輩の愛する妻なのである!」


「名前はカトレアっていうの。百年くらい眠ってたんだけど、つい最近そっちにいるダイチ君たちのおかげで、目覚めたんだ。よろしくね」


「それに王子様の近くにいる子、よく見たらアイリスちゃん?」


「お久しぶりねナルキッソスお姉さま。やっと思い出していただけて嬉しいわ」


「始祖様が結婚してたり、アイリスちゃんがいたり、情報が多すぎて処理できない……」



 あー、うん。やっぱりあなたもそうなんですね。



◇◆◇



 というわけで、全員でリビングへ移動してきた。あれから修行と称してイルカ島に滞在してるノヴァさんとバードックさんは、離れで待機中だ。他国の最高戦力が集結しているのは、パワーバランス的にどうかと思う。でも一緒に鍛えてるカメリアも楽しそうだし、僕自身もいい鍛錬になっている。



「王子様の血を吸って、始祖様以上の力を……」


「ダメよ。いくらお姉さまでも、下僕の血は吸わせないわ」



 隣りに座っているアイリスが、ナルキッソスさんから守るように、僕にしがみついてきた。普段は落ちつている彼女だけど、やっぱり血が絡むと感情的になるみたい。



「もしかしてアイリスちゃんって、その子のことが好きなの?」


「なっ、なにを言ってるのかしら。下僕は私の所有物だから、誰にも渡したくないだけよ」



 僕が本当に女だったら、こうしたセリフにキュンと来るのかな。壁ドンされながら「俺のものになれ」とか言われる姿を想像してみたけど、いまいちよくわからないぞ。


 ただ、こうして独占欲みたいな感情を向けてもらえるのは、ちょっと嬉しいかも。反面くすぐったくもあるけどね。



「そもそも僕は男ですし、吸血行為自体無理なんじゃ」


「その姿なら平気かも。できればさっきみたいにスカートを履いて、お化粧もしてほしいかな」



 嫌ですよ、もうあんな格好をするのは!

 だからスズラン、残念そうな顔しないで。カトレアさんがニヤニヤ顔で、こっちを見てるじゃないか。今日はデイジーさんがいなくて良かった。この二人が揃うと、やたら悪乗りするからな。



「そのウイッグは坊やにあげるから、有効活用しておくれ」


主様(ぬしさま)、そのときはもっと柔らかい胸にして」


「胸など飾りだ。大きければいいってものじゃない」


「シアの言うとおりだぜ。偽物の胸なんざ、いくら大きくても価値はねえ!」



 スカートもそうだけど、そっちもすごく違和感があって落ち着かない。なにせバランスが変わって、ついつい猫背になってしまう。女の人って、ほんと大変だよ……



「そういえばさ、クロウって声や性格は男だけど、それは平気なんだね」


「声が男でも見た目は鳥だから」



 カメリアの疑問に、よどみなく答えている。どうやらナルキッソスさんがトラウマにしてるのは、男の姿だけみたい。ウイッグさえかぶってれば、僕が普通に話しても平気なのはそのせいか。



「お化けや幽霊を怖がったり、ナルキッソスお姉さまは苦手のものが多いわね」


「それなのにナルキッソス様は、どうして暗い夜に出歩くのでしょうか」


「だって昼間は男の人が多いから……」



 よくよく話を聞くと、以前はそれほど怖くはなかったそうだ。ところが最近、黒い服を着た背の高い男性と、夜道でちょくちょく遭遇するらしい。その横には闇に溶け込むような、存在感の薄い少女がいる。無表情で言葉も話さず歩く姿が、とても不気味で恐ろしかった。それでここのところ、ナーバスになってたそうな。



「それにね一度だけしか見てないんだけど、男の人の隣に黒い精霊みたいなのが浮いてたの。だからあの二人は人じゃないのかもって」


「もしかしてお姉さまが見たのは、この二人じゃないかしら」



 アイリスが幻影の耳飾りで、ロータスさんとカローラちゃんを作り出す。



「あっ! そうだよ、この二人。もしかしてアイリスちゃんの知り合い?」


「知り合いと言えなくもないわね」


「どこに住んでいるとか、わかりませんか?」


「私が住んでる地区の外れに大きなお屋敷があって、そこに出入りしてたよ」



 意外なところからカローラちゃんの居場所がわかってしまった。もしあの子が迷宮解放同盟に関わっているのだとすれば、その家がアジトなんだろうか。


 ただ、なんの確証もなしに家を訪ねたり、無理に連れ出すようなことは避けたい。かといってこのまま手をこまねいているのも嫌だ。せっかくの手がかりだし、人魚族の諜報網を頼りにしつつ、どうにしかして接触する機会を探ろう。


 なんとなくだけど、いま動かないとダメな気がする。そんな焦燥感みたいな漠然とした不安が、僕の中で大きくなっていく。


重大な局面へ向け、様々なピースが集まってきました。


次回は「第10話 リナリアとデート」です。

ちゃんと物語は進みますので!(笑)

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