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第7話 スズランの成長

 目の前に映る可愛い女の子が、恥ずかしそうに視線をそらす。黒い瞳とストレートロングの黒髪は、元の世界で見慣れた日本人そのもの。目元は控えめで優しい印象を与え、薄く色づいた唇が可憐なイメージを際立たせる。


 僕の思った通りに動いてるんだけど、誰この美少女!?



「まさかここまで化けるとは、びっくりしたよ」


「リナリアとユニットを組ませてみたいです」


「いやー、すごいね坊や。オッゴに行ったらエルフの男どもが、ほっとかないよ」


「素晴らしい、素晴らしいです、ダイチ様!」



 確かに自分でもまだ目の前の光景を受け入れきれないけど、みんなちょっと大げさじゃないかな。周りにいる女性のレベルが高すぎて、これくらいの容姿だと埋もれちゃいそうだよ?



「よし、次は着替えだね」


「待ってくださいよ。これからゼーロンに行くわけでもないし、今日はもういいじゃないですか」


「ダメダメ。私の中で荒ぶるパトスが、最後までやれと言ってるの。中途半端に終わらせたりしたら、ここにいるみんなが泣くよ」



 カトレアさんの言葉に、他の三人がウンウンとうなずく。身の危険を感じて後ずさると、即座に背後へ回り込んできたエトワールさんが、いい笑顔で僕の肩を掴む。ちょっと!? チームワーク良すぎでしょ。


 イチカはいつの間にか用意していた服を広げてるし、デイジーさんが両手をワキワキさせながら近づいてくる。やばい、このままでは男として大切なものを失いかねない。強引に逃げ出そうとドアへ近づくと、不可視の壁に阻まれた。



「エトワールさん!? 結界を使うなんて卑怯すぎる!!」


「声も外に漏らさないやつだから、助けを呼んだって無駄だよ」



 なにシレッと超高度な結界魔法を使ってるんですか!



「さすが大賢者様だね。ってことで、もう諦めたほうがいいよ」


「弟から妹へクラスチェンジして、一緒にリナリアを見守りましょう」


「さあダイチ様。こちらの服へお召し替えください」


「いーやーだー」



 僕の叫びは結界に阻まれ、誰にも聞かれることなく消えてしまうのだった……



◇◆◇



 ニコニコ顔のカトレアさんとデイジーさんに両手を引かれ、僕はリビングへ連行されていく。後ろにはエトワールさんがいるので、逃げ出すことも出来ない。



「じゃじゃーん、化粧直し終了です!」


「渾身の出来に仕上がりました」



 手を握ったままの二人に押し出され、僕の姿がみんなに晒される。一身に注目を浴びるのが、こんなに恥ずかしいとは。アイドルはこれよりもっと大勢の視線を受け止めるんだよな。リナリアの苦労がちょっとだけわかったかも……



「かっ……可憐なのだ。ダイチよ、儂と結婚して子を()してくれんか!」



 なに言ってんですか、バードックさん。カメリアにフラれたからって、見境なさすぎでしょ!



「バードックの気持ちもよく分かる。気配はダイチだが、見た目はまったくの別人だ。正直ちょっと混乱しそうだぞ」



 えー、ノヴァさんまでそんな事を言うなんて。



「よく見るとダイチの面影はあるのだが、ここまで変わるとは驚いた。しかし胸を盛り過ぎなのは気に入らん!」



 面白がって色々詰められたんだから、仕方ないじゃないか!



「これならナルキッソスお姉さまにも見初められそうね。良かったじゃない」



 全然良くないよ! ニヤニヤした顔で、下から覗き込まないでほしいんだけど。



「自分より彼氏のほうが可愛いとか、ボクちょっと自信なくしちゃうな」


「ご主人さまが偽物のおっぱいに負けるはずねえだろ。心配しなくても大丈夫だぜ」



 クロウの言う通り、カメリアのほうが何倍も可愛いからね!



「お姉ちゃんが二人になって、リナリアすごく嬉しいの」



 僕にとってここはファンタジーな世界だけど、女体化したわけじゃないよ!? ちゃんとまだ持ってるから。



主様(ぬしさま)、抱っこして」



 トコトコと歩いてきたアスフィーが僕に抱きつき、すぐ離れていった。偽物はお気に召さなかったらしい。



「これはイチカじゃなくても興奮するね」


「わかりますかミツバ」


「ここの家族って美人揃いだけど、そこに新たな要素が加わるなんて思ってなかったよ」


「素質を見いだされたカトレア様には、感謝しないといけません」


「……ダイチさん、すごく可愛い」



 いやいや三人とも、言い過ぎだって。



「それだけの身長がありながら、庇護欲を掻き立てる可憐さがあるなど、反則なのじゃ。長年、大勢の学生や歌姫たちを見てきた私がそう感じるのじゃから、誇っていいのじゃ花嫁殿」



 どさくさに紛れて花嫁とか言わないでください!



「大人気であるな、ダイチは」



 傍観してないで助けてほしいんですが。言い出したのはあなたの妻なんですよ。



「マスター……」



 ずっと黙っていたスズランが、意を決したように話しかけてきた。なんかいつもの表情と違うんだけど、どうしたんだろう?



「この胸のときめきは、いったい何なのでしょう。マスターに捧げる信頼や愛情とは別の、心の奥底から湧き上がってくる情動を、どう表現したらいいのか私にはわかりません。ずっと見守っていたい愛おしさに、私の心がわなないています。もしかして病気なのでしょうか?」



 それ、きっと〝萌え〟って感情じゃないかな。また心が成長したんだね!

 この姿を見たことがトリガーになったというのは、とても複雑な気分だけど。






 とにかくこのままでは、場がカオスになる一方だ。こうなったらおとり捜査に協力すると約束して、とっとと解放してもらおう。それしかない。


はたして吸血族の生き残りは現れるのか。

次回は「第8話 囮」をお送りします。

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