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第6話 人魚族も知らない噂話

 バンブーさんをエヨンまで送り届け、祖父が作ったという魔道具を預かってきた。それを受け取ったバードックさんは、分解したり組み立てたりしながら上機嫌だ。ああやって夢中になってる姿は魔人族最強の[魔皇(まこう)]ではなく、新幹線や車が変形するおもちゃをいじっている少年みたいで微笑ましい。



「ただいまなのー」


「リナリアが帰ってきたみたいですね、マスター」


「ホントだ。出迎えに行こうか」



 玄関ホールへ行くとリナリアとアプリコットさん、それにデイジーさんまでいる。今日は僕たちが迎えに行けなかったから、小型艇の運転手をやってくれたんだろう。



「お帰りなさいませ、リナリア、アプリコット様。デイジー様もお疲れさまでした」


「ただいまなの、お兄ちゃん、お姉ちゃん。レッスンがちょっと長引いちゃったの」


「ただいまなのじゃ」


「お帰り、リナリア、アプリコットさん。デイジーさんもいらっしゃい」


「ちょっと遅くなったから、ここまで送りに来たよ。今夜は泊めてもらうからよろしくね」



 カメリアの件で仲間外れにしたこと、やっぱりリナリアに怒られてしまった。でもカメリアが僕と結ばれたと聞き、我が事のように喜んでくれている。その時以来の再会になるけど、この笑顔を見る限り、もうわだかまりは無いみたいだ。



「ユグちゃんと遊べなかったの残念なの」


「それじゃあ今夜は、僕の部屋でユグと一緒に寝ようか。ニナも来てね」


「……うん。リナリアちゃんと寝るの、楽しみ」


「やったーなの!」



 三人を連れてリビングに戻ると、バードックさんも魔道具を一通り堪能し終えていた。ソファーから立ち上がって出迎えてくれる。



「久しぶりじゃな、バードック殿。わざわざウーサンまで来てもらって、申し訳ないのじゃ」


「久しいのだ、アプリコット。今日は実に有意義な一日だった。まったく問題ないのだ!」


「はじめましてなの、バードックさん」


「お主はリナリアではないか。先日のコンサートは、儂も見に行ったのだ」



 あの会場にいたのか、この人。これだけ目立つ人がいたのに、まったく気づかなかったな。まあユグやカローラちゃんの相手ばかりしてたし、仕方ないか。



「ねえダイチ君」


「どうしたんですか? デイジーさん」


「土地神様たちはもう帰っちゃったの?」


「ユグが眠るとフィギュアに宿る力も弱くなるので、安全のために帰ることにしてるんです」


「そっかー。じゃあ明日のお楽しみにしておくよ」



 この人、僕たちがバンブーさんの店を手伝う前に、四体のフィギュアを手に入れてたからな。すごく気に入ってるみたいだし、動く姿を見たかったんだろう。だけどコンサートの準備で忙しくしてた彼女が、いつ買いに行ったのか謎だ。



「それにしても、この家がこんなに人であふれかえる日が来るなんて、思わなかったわね」


「しかも有名人ばかりです、アイリスお嬢様」


「だよねー。大勇者と大賢者でしょ、それに魔皇もいるし。それから現役の歌姫や、国の代表者とか凄すぎだよ」


「……お嬢様のお姉さん、見つかるといいね」


「ねえバンダ君。純血の子ってどれくらい生き残ってるの?」


「吾輩にも正確な人数は、わからんのである。ただ血の繋がりは感じておるので、どこかにいるはずなのである」



 せっかくこんな島をもらえたんだし、吸血族の生き残りは見つけたい。供血の問題はあるけど、それはどこで暮らしていても同じだ。なら同族のいるこの島で暮らすほうが、安心して過ごせるはず。なにせここには種族の始祖がいるんだし。



「儂の聞いた与太話でよければ、吸血族の噂を聞かせてやるのだ」


「あら、それは面白そうね」


「我ら人魚族も知らぬ噂話とは、興味深いのじゃ」



 バードックさんの話してくれた内容はこうだ。ゼーロンの千二百六十番地区に、女性だけのクランがある。かなりの老舗クランで所属希望者も多く、とある試験をしてふるいにかけていた。試験内容は夜の地区内を一人で歩き、首に赤い斑点の付いたものが合格するという。


 曰くそれを〝吸血族の口づけ〟と呼ぶ。


 その印は本人もいつ付けられたのかわからない。夜道で誰かとすれ違ったわけでもなく、虫に刺された跡とも違う。そして不思議なことが起きる対象には一定の法則があり、身長の高いものに限られるそうだ。



「歴代のクランマスターが、好みのメンバーを選ぶためでっち上げた作り話、そう言われておるのだ」


「そうとも限らんのである、バードック」


「心当たりがあるのか?」



 あっ、ノヴァさんがやたらと乗り気になった。まさか修行相手が増えるとか考えてないよね? 今日だってバンダさんに挑もうとして、カトレアさんから思いっきり叱られたでしょ。



「もしあの(むすめ)の性格が変わっておらんのなら、それはナルキッソスの付けた目印なのである。元人魚族のあの子は、自分の身長にコンプレックスがあったのだ。背の高さが原因でふられ続けたナルキッソスは、人魚族の中で眠る本能と現実の狭間で押しつぶされそうになり、自ら命を絶とうとしたのである。そのとき我輩と出会い、新しい人生を送ると決めたのであるよ」



 どうやらその時の経験がトラウマになり、男性恐怖症になっているらしい。始祖の眷属になると記憶が消されるけど、深層意識に残ってたんだろう。そして自分より背の高い女性を好むようになった。彼女より背の高い女性は絶対数が少ないので、気に入った者に目印をつけるそうな。それが首筋の斑点なんだとか。



「私も一度だけお会いしたことがあるけれど、確かスズランより背が高かったわね」


「じゃあボクくらいだったのかな。それならその人をおびき出す役をやろうか?」


「襲われそうになったら、俺様が助けてやるからな」


「いや、カメリアでは少し身長が足らんのだ。目印を付けられる女性は、百七十セル(170cm)以上と言われておるのでな」



 僕の身長が百七十二センチだから、少し小さいカメリアは百六十八センチ位だろう。その次がイチカで、三番目がスズランだ。だとすればナルキッソスさんの好みに合う女性は、この場にいないな……



「ねえデイジー。いけるんじゃないかな?」


「私も初めて会ったときから、似合いそうだなと思ってたんです」


「だよねー。見た目がまだ十代だし、少しメイクするだけで化けるはずだよ」



 あのー、カトレアさんとデイジーさん。僕の方をチラチラ見ながら、なにこそこそ話をしてるんですか? まさか、良からぬことを考えてませんよね……



「さあダイチ君、ちょっと食堂まで行こうか」


「なにを企んでるんです、カトレアさん」


「痛くしたりしませんので、安心してください」


「デイジーさんのその顔、完全に悪巧みしてる表情じゃないですか」


「昔やたら大賢者って騒がれてた時、変装に使ってたウイッグがあるから、貸したげるよ」


「ありがとうございます、エトワールさん」



 あなたまでなに言ってるんですか!?

 この世界にもカツラがあったなんて初耳だよ!



「こんな事もあろうかと、ダイチ様のサイズに合う服も用意しております」


「さすがイチカちゃん」



 待って、ちょっと待ってイチカ。

 キミの頭の中では、一体どんな事態が想定されてるの!?



「さあさあダイチ君、おとなしくツラを貸してもらいましょうか」


「いつからデイジーさんは、放課後の校舎裏に呼び出す不良になったんですか?」



 敵がデイジーさんだけなら例の黒歴史で対抗できるけど、後ろにはカトレアさんとエトワールさんまで控えている。しかもイチカまで敵側についた。ノヴァさんとバンダさんは〝諦めろ〟とでも言いたげにこっちを見てるし、他の女性陣はなぜか誰一人として止めに入ってくれない。


 っていうか、どうしてスズランも傍観してるのさ。主人のピンチなんだよ?



「待ってください、嫌ですよ絶対に。探索者ギルドか仲介ギルドに依頼を出せば、協力してくれる人なんてすぐ見つかるでしょ?」


「キミは女の子に夜道の一人歩きをさせて、吸血族の餌食にしようなんて考える、薄情な人だったの?」


「そんな言い方は卑怯ですよ、カトレアさん」


「リナリアのメイクがいつでも出来るよう、必要なものは精霊に持たせています。目の前に素晴らしい素材があるのですから、活用しない手はありませんね」


「頑張ってなの、お兄ちゃん!」



 うわーん。僕の味方は一人もいないじゃないか!






 こうしてノリノリの女性たちに拘束され、僕は食堂へ連行されるのだった……


1260という数値は「ヴァンパイア数」と呼ばれています。

詳しくはウィキペディアなどで!


◇◆◇


次回、新たな扉が開かれる!w

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