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第3話 そして宿屋へ

 探索ギルドで登録し直し、僕のリストバンドも銅色のものに変わった。無片(ノーン)なので止められそうになったけど、そこはシアが持つ中級探索者の地位と、4片(クアッド)スキル効果が発揮されている。


 仲介ギルドでもらった木目模様のもそうだけど、このリストバンドも一種の魔道具だ。本人にしか扱えないようになってたり、サイズなんかも自動で変わる特別製。危険な場所に行くことの多い探索者用の四色には、壊れないよう〝防壊〟の付与(エンチャント)もされてるんだとか。やっぱり凄いな、異世界の不思議技術!


 そういった特徴があるため、もし迷宮でリストバンドを拾ったら、必ず持ち帰るよう言われた。兵士が身に着けている認識票(IDタグ)と同じ扱いってわけだ。僕も迷宮で死にかけたけど、この先の行動は慎重にならないといけない。


 探索者のリストバンドは仲介ギルドでも使えるから、いつもの仕事もこなしつつ武器や防具の扱いに慣れていこう。まずは盾を使えるようになって、スズランやサクラそれにシアを守ってあげないと。



「私の姿について何も言われなくて驚いたよ」


「フードもかぶってたし、今の姿だって健康的に日焼けした感じだからじゃないかな」


「森に引きこもってただけだから、かなり不健康だと思うが……」



 白くてきれいな髪の毛は、臙脂色(えんじいろ)をしたローブの中に押し込んでるし、肌だって小麦色に日焼けしたって感じだ。本人も言ってたけど、サクラのスキルを受ける前はもっと浅黒かった気がする。夜と昼では見え方が全然違うし、勘違いしてるだけかな。でも、もしかしたらサクラのスキルが、呪いに多少影響してるのかも?



「スズランが近くにいてくれるし、髪の色だってあまり気にされないかもしれないね」


「シア様の髪はとてもお綺麗ですから、隠しておくのは勿体ないですよ」


「なんというか、君たちの感性にはまだ慣れないな」



 シアはエルフという種族に誇りを持ってる感じだから、今の状態を肯定しすぎるのは良くないかもしれない。だけど少しはにかんでる姿が可愛いし、つい口にしちゃうのは仕方ないよね!



「二人ともきれいで可愛いから、他の探索者に恨まれてる気がするよ」


「声をかけようと近づく人もいましたけど、シア様の左腕を見て去って行かれましたね。銀のリストバンドと4片(クアッド)のスキルに気がついて、怖気づいたってところでしょうか」


「私もまさか四つ目のスキルが発現するなんて、思ってなかったしな。これもダイチやスズランたちの、おかげだろう。感謝してるよ」



 成長期を過ぎてから新しいスキルが発現することも、ごくまれにあるらしい。俗説として言われてるのは、スキルに関連した経験を積むと発現しやすいっていう、ある意味お約束の修練法。


 シアはエルフ族だからまだまだ大丈夫そうだけど、僕にもスキルが発現したりするんだろうか。僕がこの世界で積んだ経験なんてほんの(わず)かだから、気長に色々やっていくしか無いだろう。


 そういえば前提となるスキルがあって、それを極めないと取得できないなんて、スキルツリー型のゲームではよくある。この世界的に途中参加の僕は、その影響でスキルが発現してないとか?


 もしそれが原因なら、ノービスからやり直したい……


 それはともかく、今は無理のない範囲で楽しくやっていこう。



◇◆◇



 ずっと利用している宿屋[静かな湖畔]に到着すると、僕とシアを見たおばさんがサムズ・アップしながら、ダブルベッドの部屋へ案内してくれた。さすがにそれはマズイと思って、ツインベッドの部屋に変更してもらったよ。だってシアが顔を真っ赤にしながら、プルプル震えてたし。


 この宿屋にあるベッドはセミダブルくらいの幅があるけど、案内された部屋にあったのは普通の二人用だった。スズランもいるんだから、さすがにダブルベッドでは狭すぎる。そもそもシアがそんな近くにいたら、緊張して眠れそうもない。



「なにも言わず泊めてくれたのには感謝するが、さっきのは何なのだ、まったく!」


「私はベッドが一つの部屋でも良かったんですよ?」


「スズランは慎みがなさすぎる!」


「私とマスターは一心同体なのですから、自制する必要性はありません」



 だからスズラン、言い方!

 微妙にシアを(あお)ってるように感じるのは、気のせいだろうか?


 【新生】スキルのこともあるし、僕とシアが仲良くなるために協力してくれてるんだろう。だけど逆効果の気もするんだよなぁ……



「そっ、それよりシア。清浄ってかけてもらってもいい?」


「おっとそうだった。ダイチに清浄をかけてやってくれ」



 緑の精霊が持っている生活補助は、体をきれいにしたり飲み水を出したりする、とても役に立つスキルだ。お風呂のない宿なので体は濡れた布で拭くだけだし、スズランがやたら張り切って手伝おうとするから大変だった。背中くらいなら任せられるけど、それだけで済みそうにないから絶対にダメです。


 身長十センチ位の小人型精霊が近づいてくると、僕のおでこにそっと触れてくれる。するとそこからアルコールで拭いたときのような清涼感が、体全体に広がっていく。初めて体験したけどこれはいい、髪の毛もサラサラになるなんて!



「ありがとうリョク、すごく気持ちいいよ」


「マスターのお世話ができないのは、ちょっと残念です」


「しかし、精霊に名前をつけるだけで、こんなに変わってしまうのか……」



 シアに名前を考えてほしいと言われ、いくつかの候補からリョクという言葉を選んでいた。緑という漢字の音読みだから、とても良く似合ってると思う。そして名前をつけてからは僕に懐いてくれ、今も頭をなでてあげたあと、指に抱きついてきたりするのが可愛い。さすがに僕の指示は聞いてくれないけど、触らせてくれたり甘えてくるようになった。



「シア様がずっと大切にしてこられましたから、リョクちゃんもすごくいい子ですね」


「長年一緒にいたおかげだと思うが、今日一日で精霊という常識がずいぶん変わってしまったよ」


「精霊だって家族のように大切にしてあげれば、きっとそれに応えてくれるんだと思う。スズランがそうだったし、サクラも同じだからね」



 肩の上に座ってるサクラをなでると、嬉しそうに頬をこすりつけてくる。リョクと初めて会ったとき、隠れるようにシアの後ろにいた。きっとこの子はシアに似て、恥ずかしがりなんだろう。うちのスズランとサクラは甘えん坊だしな。精霊にだって個性がある、一人の人間として扱ったっていいはずだ。



「以前ダイチの言っていたことが、今なら良くわかる。本当に君と出会えてよかった、改めて礼を言わせてくれ」



 そういってシアは頭を下げてくれた。僕だって知らない世界で、信頼できる仲間ができて嬉しい。しかもシアはファンタジーの定番、エルフ族。この出会いには、こっちのほうが感謝したいくらいだ。




 こうして僕たちは、一つの部屋で生活していくことになった。


次回は翌朝。

朝チュンなんてありませんよ?(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言]  「朝チュンなんてありませんよ」  余力がありましたら、ノクターンノベルズあたりで是非。
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