第4話 情報が多すぎて処理しきれん
ショックで固まってしまったバードックさんをよそに、ノヴァさんとエトワールさんが興味深そうな顔でカメリアへ近づいてきた。
「どうやってスキルを進化させたんだ?」
「あっ……えっとね、そのぉ……」
「なんだ、恥ずかしい修行法でもやったのか?」
言葉に詰まったカメリアが、頬を染めながら僕の方をチラチラと見る。出会った頃は割と明け透けだったけど、心と体のギャプが埋まった今は、恥じらう姿を見る機会も多い。それがとてつもなく可愛いんだけど!
「あんた、年頃の娘にそんな聞き方するんじゃないよ。オルテンシアの時もそうだったけど、大方そこにいる坊やと目合ったんだろうさ」
「……あぅー」
エトワールさんもストレートに言いすぎです!
もっとオブラートに包んだ表現をですねぇ……
顔を真っ赤にしたカメリアが僕の胸に飛び込んできたので、腰に手を回しながら頭を撫でてあげる。その時、音もなく近寄ってきたノヴァさんが、カメリアに向かって手刀を振り下ろす。
「もー、危ないなー、ノヴァさん。今の結構本気だったでしょ」
「これが【警守】の自動防御ってやつか。噂には聞いていたが、すごいもんだな」
僕の胸に顔を埋めたまま、振り返りもせず攻撃を受け止められ、ノヴァさんの顔が驚きの表情へ変わった。
「子供のタックルとか、悪意のない攻撃には反応しませんから、試すようなことはこれっきりにしてくださいね」
「ああ、すまん、ダイチ。歴代の[魔皇]でも、持ってるやつは数人しかいないってスキルが気になってな……」
「あんまり変なことばかりやると、ご主人さまの【圧倒】が黙っちゃいないぜ?」
「面白そうだね、カメリア。そこにいる二人へ、発動してくれないかい?」
「えっと、いいのかな」
「確か【威圧】の上位スキルだったな。以前そっちは気合でなんとか出来たし、面白そうだ。遠慮なくやってみてくれ」
「儂も体験してみたいのだ」
いつの間にかショックから復帰していたバードックさんも、目をランランと輝かせながらカメリアに視線を向ける。二人のそんな態度は、ちょっと子供っぽくて微笑ましい。きっとどっちも肉体派なだけあって、この手のスキルには目がないんだろう。
「じゃあいくよ……」
僕から離れていったカメリアが、左手を前に突き出しながら二人の前に立つ。そして腕を振り下ろすと同時に、呪文を唱えた。
〈二人とも伏せッ!!〉
「ぬぉっ!?」
「わん!」
ちょ、バードックさん、今の鳴き声。
完全に屈服してる感じで、地面へ這いつくばってるんだけど!?
このまま仰向けにして、お腹を撫でたら喜びそう……
「こいつは……さすがの俺も」
「儂、ご主人さまの下僕になるのだ」
「カメリア、ストップ、ストップ。若干一名、威圧が効きすぎてるよ」
カメリアが慌てて威圧を解くと、ノヴァさんが頭を振りながら起き上がり、バードックさんは呆けた顔であたりをキョロキョロと見渡す。
「これはとんでもないな。抵抗しようって気を、根こそぎ奪い取ってきたぞ」
「儂は今、何をしていたのだ? 見たことのない扉が、目の前にあったような……」
危ない危ない。そんな扉を開いたら、魔皇の威厳が失墜してしまう。今まで人に対して使ったことがなかったけど、これかなり危険だな。緊急的に制圧する必要があるとき以外、使わないよう気をつけないと。
「まさかこの二人を同時に抑え込んじまうなんてね。こりゃまた、面白いものが見られたよ」
「さすがご主人さま、最強だぜ!」
「この様子だと[獣王]にも通用しそうだ」
確かにシアの言うとおりかも。ただ獣人族最強を誇る獣王には、【獣化】ってスキルがある。今の獣王は虎人族だから、吠える声とか迫力ありそうなんだよな。それで相殺されたりして?
耐性スキルを抜いてくるノヴァさんの【痛撃】もそうだけど、過信は禁物だ。パーティーの司令塔でもあるスズランを見ると、そっとうなずいてくれた。僕の考えていることは、わかってるんだろう。
「さて、聞きたいことも増えたことだし、家へ戻って仕切り直ししようじゃないか」
パンパンと手を叩くエトワールさんの合図でこの場はお開きにし、全員で屋敷へ戻ることに。そういえばユグがおままごとでペットの役をやる姿、見損ねちゃったじゃないか。残念すぎる!
◇◆◇
黒ローブの男が遺していった魔道具を広げ、エトワールさんたちがワイワイと盛り上がっていた。バードックさんも完全に立ち直ったらしく、一つ一つ分解しながら手にする姿は、実に楽しそうだ。
さすが魔道具マニアと大賢者が揃っただけあり、この短時間でいくつかわかったことがある。
内部の構造的特徴が、十年ほど前に活躍していた名工のものと似ているらしい。そこでイグニスさんに聞いてみると、その人は[巨匠]として銘板に刻まれるほどの職人だった。しかし既に亡くなっているとのこと。
その後は人魚族の持つ情報ネットワークだ。
すると、すぐに孫の存在が発覚。せっかくなので、この場に来てもらいました。
「いきなり知らない場所に連れてこられたら、大勇者と大賢者に加えて魔皇がいるとか、どうなってるんだ、この島は」
「バンブーさんは僕たちの素性もある程度知ってますし、信用できると思ってるので直接来てもらっても大丈夫かなと」
「まあ、お前たちを売ったり、情報を漏らすようなことはしないけどな……」
まさか知ってる人の名前が上がるなんて思わなかったから、正直すごく驚いたよ。でも、秘密裏に調べられるし、話を通しやすかったのでとても助かる。
「ばんおにーたん、こんにちは!」
「おーユグちゃん、今日も可愛らしいな……って、周りに浮いてるのは、俺が作ったフィギュアか!?」
「あなたが人形の製作者なのですね。はじめまして、私はウーサンを預かる、水のナーイアスです」
「会うのは初めてだが、あたいのことはよく知ってるだろ? 火のイグニスだ、よろしくな!」
「オッゴの守り神、風のエアリアルだよ。こんなかわいい人形を作れるなんて、すごいじゃない。さすがイグニスから[名匠]認定されるだけあるね」
「私はイノーニで土地神やってるぅー、土のテラっていうのぉー。今度はこのサイズで眠れるベッド作ってねぇー」
「……情報が多すぎて処理しきれん。というか、本当になんなんだ、この島は!」
ただの聖域ですがなにか?
次回は「第5話 キャストオフも出来るらしい」
しませんよ?w