第2話 なんか間違ってないかい?
さて、エトワールさんにジト目で睨まれてるけど、どうしよう。バンダさんとの顔合わせもまだだし、その奥さんで百年ぶりに復活したカトレアさんもいる。それに聖域の影響を受けて、人と同じ存在に昇華したイチカたちも、まだ挨拶をしてない。
「そろそろおままごとの続きをしようよぉー。次は私が赤ちゃん役だからねぇー、ゆっくり寝てやるんだぁー」
「今度はあたいがお父さん役をやるぞ」
「なら私が姑役だね。どんな汚れも見落とさないから、覚悟しておいてよ」
「ゆぐはぺっとの、ねこになうー」
「では、わたくしがお母さん役をやらせていただきます。さあ、リビングに行って遊びましょうか」
マイペースなテラさんの号令で、おままごとの続きが始まってしまう。ユグが動物のマネをして鳴く姿はとてつもなく可愛いので、僕も見に行かなければ!
「あのさ、ダイチ」
「なんでしょうか、エトワールさん」
「土地神たちに子守をさせるのって、なんか間違ってないかい?」
「僕の娘は神を魅了するくらい愛らしいですし、みんなも結構楽しんでるみたいですから」
四人とも、すごくユグのこと可愛がってくれるんですよ。多分あの子の存在が、妖精に近いからじゃないかな。ユグも土地神たちに懐いてるので、ちょっと嫉妬してしまいそうになる。
「はぁ……とりあえず、私たちもリビングに行こうか。吸血族の始祖にも挨拶しないとダメだしね」
「そこで控えてる使い魔たちの気もまた大きくなってるし、ちゃんと説明しろよダイチ」
「はい、その辺りもこの島の聖域化と関係しているので」
さすがノヴァさんだ、三人の変化もしっかり見抜いてた。未知の魔道具に触れるのが楽しみなのかな、ちょっとソワソワした感じのバードックさんを連れ、全員でリビングへ移動を開始。さて、どうなることやら。
◇◆◇
リビングに入ると、バードックさんに気づいたカメリアが走り寄ってくる。このタイミングでわざわざこの島まで来てくれたんだ、両親絡みなことがわかってるんだろう。せっかくだし、このまま紹介してあげるか。
「バードックさん。この子がターニップさんとオリーブさんの娘、カメリアです」
「あの……えっと、はじめまして。ボクの名前はカメリアだよ。よろしくね」
「おぉぉ……」
遠慮がちに下から覗き込む彼女を見て、バードックさんが固まってしまったぞ。穴が空くほど見つめられたカメリアが、ちょっと困り始めた。
「この人が今の魔皇なんだって」
「そんな人がボクに会いに来てくれたの!? お父さんとお母さん、こんなすごい人と知り合いだったんだ……」
「さすがご主人さまの両親だな。やっぱり凄いぜ!」
「その愛らしい仕草、そして声もオリーブにそっくりなのだ。どうだカメリア、儂と結婚して子を生してくれんか!」
ちょっと、いきなり結婚を申し込まないでくださいよ。初対面の男性に言い寄られて、カメリアもオロオロしてるじゃないですか。そもそも彼女は僕の子供を生んでくれるんですからね。いくらあなたが魔皇でも、はいそうですかと渡したりしません。
「カメリアは僕と付き合ってるんです。人の彼女を目の前で口説くのはやめて下さい」
「魔皇相手にダイチもなかなか言うようになったな」
「やたらカメリアに会いたがってたのは、そういう訳だったのかい。いい年してみっともないよ、あんたは」
そうですよね、エトワールさん。もっと言ってやってください!
「バードックおじさんって、お父さんと同じくらいだよね? ボクとは釣り合わないと思うんだけど」
「ご主人さまの言うとおりだぜ、魔皇のおっさん。自分の年を考えとけ」
この世界の人は結婚するのも、子供を生むのも早い。二十歳の子を持つ親が三十代とか普通にある。四十代に見えるバードックさんと十九歳のカメリアは、親子ほど離れてるじゃないですか。
「確かに儂はターニップより年上なのだ。だがカメリアよ、お前はかなりの実力者だろ?」
「ボクは他の人と比べたこと無いけど、たぶん強いと思うよ」
「魔剣抜きなら、お前といい勝負できるかもしれないな。もっとも殴り合いじゃ決着はつかないだろうが」
「大勇者がここまで言うのだ、儂と強い子を生んでくれんか?」
「ダメです! カメリアは渡しませんよ」
獣人族と同じように、魔人族も強者の遺伝子を残していこうって本能が強いんだろう。だけど自分の親より年上の男性と聞いて、カメリアも明らかに腰が引けている。
「これほど可憐な同族と出会ったのは、オリーブ以外では初めてなのだ。儂の望みを叶えてくれんか?」
「お母さんと同じって言ってくれるのは嬉しいよ、でもボクが好きなのはダイチだけだし、もうこの人に全部あげちゃったもん」
「魔皇と言われてる実力者も、一皮むけばただの男ってことだね。あんたの言い分もわかるけど、世の中気持ちだけじゃ道理は通せないってことさ」
その通りですよエトワールさん。
「あんたも種族の頂点に立つ男なら、実力で奪い取りな!」
ちょっと待ったー!!
なに煽ってるんですかっ!?
「エトワールの言うことは最もなのだ。ならばダイチとやら、儂と勝負しろ!」
「あまりそんなことはしたくないんですけど、勝負方法は?」
「儂を止められたらお前の勝ち。カメリアのことはスッパリ諦めるのだ」
恐らくこの人、オリーブさんにも求婚したんじゃないかな。会った瞬間にカメリアへ執着心を見せる辺り、なんとなくそんな気がするよ。
「わかりました。それで納得してもらえるのなら、お受けします」
「大丈夫? ダイチ」
「うん。あの条件なら一瞬で終わると思うから、安心して」
前にもこんな勝負を受けた気がする。相手は土地神であるイグニスさんだったけど。
「我輩たち、すっかり忘れられておるのである」
「ホント、ダイチくんの知り合いって面白い人が多いよね」
「変人の二人が連れてきたのだもの、当然の結果と言えるわ」
置いてけぼりになってる人たちが、何やら好き放題言ってるぞ。僕だってこんな展開になるとは、思ってなかったんです。さっさと終わらせるから、ちょっとだけ待っててください。
せっかくだからエトワールさんへの披露も兼ねて、新しい魔法の実験台になってもらおう。
次回は主人公vs魔皇。
第3話「進化した魔法」をお楽しみに!