第1話 助っ人来訪
新章の開始です!
カメリアの追いかけていた男が消えて数日たち、僕たちはすっかり元の日常を取り戻した。進化したスキルについても検証を進めているけど、よほど特殊な方法で攻撃しない限り、カメリアを傷つけることは難しい。
前に臨時パーティーを組んだファンガスさんの創世級武装じゃないけど、僕たちパーティーにとってアイギスの盾みたいな感じだろうか。彼女が前にいるだけで、絶対の安心を与えてくれる。
それに子供が欲しいと本気で願い始めた影響で、女性としての魅力も大きく増した。久しぶりに会ったカクタス君が思わず見とれてしまい、プラムちゃんに怒られてたくらいだ。
「マスター、お見えになられたみたいです」
「あ、ホントだ。運転してるのはノヴァさんかな」
スズランの声で意識を現実世界に戻す。日本だと二股とか浮気なんて非難される行為を、今の僕はすっかり受け入れてしまっている。これって、この世界に馴染んできてるってことだよな……
自分の変わりように苦笑いしながら視線を海に向けると、入り江の端から湾の中に小型魔導船が滑り込んできた。元の世界だとプレジャーボートというんだろうか、八人乗りくらいの小さな船が白い波を立てながら近づいてくる。さすが世界中を旅してまわってた人だけあり、船の操舵もかなり上手だ。
隣に立ってるのはエトワールさんだけど、その後ろにいる人は誰なんだろう。赤い髪をしてるから魔人族だろうけど、ノヴァさんたちの知り合いかな。
そんな事を考えていたら、イルカ島にある唯一の港へボートが到着した。
「こんにちは、ノヴァさん。わざわざ足を運んでいただいて、すいません」
「お前らの暮らしぶりを見てみたかったから問題ないぞ。それにこいつと旅行したいから、迎えを断ってるんだ。気にするな」
「お久しぶりです、エトワール様。遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
「二人とも元気そうで何よりさね。久しぶりに旦那と旅ができて楽しかったから、いい機会を与えてくれて感謝してるよ」
二人と挨拶を交わしていたら、魔人族の男性も船から降りてくる。年齢は四十代って辺りだろうか、ひと目見ただけで探索者とわかる体つき、そして独特の雰囲気。身長はノヴァさんより低いけど、頭の両サイドから上に伸びているツノが立派なので、実際の背丈より大きく見えてしまう。
カメリアは羊のようにクルッと巻いた、いわゆる〝アモン角〟という形だ。サイズも小さめで、すごく可愛い。しかし目の前の男性は側頭部から、節のあるS型をしたツノが伸びている。太さもあって威厳みたいなものが半端ない。ゲームに出てくるサタンが、よくこんな形の角を生やしていたかも。
とにかくノヴァさんと同じ強者のオーラが、全身からにじみ出ているぞ。
「えっと、後ろの人は……」
「儂の名はバードックだ。よろしく頼むぞ、少年」
「こいつが今の[魔皇]ってやつでな。お前たちから連絡を受けた時、ちょうどバードックも一緒だったんだ」
「ターニップとオリーブの娘が生きてると聞いて、イノーニまで詳しい話を聞きに行っていたのだ。そこでノヴァたちと出会ってな、旅行がてら会いに行くとかぬかすから、便乗させてもらった」
魔皇は魔人族で一番の実力者が授かる称号だ。強者のオーラを纏っているのも納得できる。それにしてもカメリアの両親は、こんな実力者とも知り合いだったのか。
「僕の名前は大地です。二人の話を聞かせてもらえると、カメリアが喜びます。よろしくお願いします、バードックさん」
「私はスズランと申します。ようこそイルカ島へ、バードック様」
「ほう……お主が噂の特級精霊か。本当に人と変わらんな」
「この子は魔道具コレクターでね、丁度いいから協力してもらおうと思ったんだよ。なにせ依頼が例の組織絡みだけに、ある程度の事情は話してるけど安心しとくれ」
「口が硬いことと義理に厚いことだけは、俺が保証してやる」
「お二人が連れてこられた人ですし、問題ありませんよ。この島の環境は特殊すぎるので、僕たちの素性くらいは秘密にもなりませんから」
土地神たちが集まるようになったこともだけど、神樹の意識体であるユグが生まれてから、環境がどんどん変わってきている。その辺りはまだ伝えきれてないから、エトワールさんも驚くことだろう。ちょっと楽しみかも。
仮に口が軽い人だったとしても、あまり心配はしていない。なにせ吸血族の始祖であるバンダさんと、最上位の力を持つアイリスがいる。バレそうなら暗示で口封じすればいいだけだしね。
どれくらいディープなのかわからないけど、魔道具マニアが来てくれたのは好都合だ。黒ローブの男が残していった道具やアイテムの出どころが、掴みやすくなるはず。
「迷宮解放同盟に関しての情報は、儂のところにも回ってきておったのだ。組織の一員かもしれぬ男が残していった道具を見るのは、楽しみでならん」
好奇心にあふれる少年みたいな顔をしながら、ニカリと笑うバードックさん。今まで放っていた威厳が一瞬で消えるくらいだから、魔道具のことが本当に好きなんだろう。シアも魔道具に関してある程度知識はあるものの、専門家というわけではない。それにバンダさんは術式に関する知識が豊富な反面、道具類に関しては素人同然だ。
そこで僕たちはエトワールさんに助力を請うことにした。なにせシアが隠れ住んでた小屋にあった迷乱の魔道具は、エトワールさんが改造した特製品。その知識と応用力は、世界レベルに手が届くはず。
「みんな家で待っているので行きましょう」
船をロープで係留し、五人で屋敷に向かって進んでいく。色々質問攻めにされそうだから、覚悟しておこう。
◇◆◇
玄関の扉を開けると、走り込んできたユグが、腰に抱きついてきた。外でよく遊ぶようになって、身体能力がかなり上がってきたな。今のタックルも、なかなかだったぞ。
「おかえいなさい! おとーたん、すずおねーたん」
「ただいま、ユグ」
「ただいま、ユグちゃん」
僕に抱っこされたユグが、後ろの三人を不思議そうな顔で見てる。お客さんが来るのは伝えてたけど、どう挨拶したらいいか考えてるのかな。
「こっちにいる男の人がノヴァさん、隣の女性はエトワールさん。後ろにいる男の人は、カメリアと同じ魔人族のバードックさんだよ」
「のあおじたん、えとおばたん、ばーおじたん。あたし、ゆぐ。よおしくね!」
「こりゃまた可愛い子が増えてるじゃないか。坊やは獣人族と結婚したのかい?」
「あー、いえ。この子は島に植えている神樹の意識が、人の形をとってるんです」
「……なっ」
やっぱりエトワールさんが固まってしまった。エルフ族にとって神樹は馴染み深いし、恐らく意思を持っていることも知ってるだろう。それがこうして人の姿になったんだから、驚くのも無理はない。
どうやって納得してもらうか考えていたら、リビングの方から小さな影が飛んでくる。
「お帰りなさい、ダイチさん。予定より一人増えているみたいですね」
「こいつは魔皇じゃないか? 武器の奉納に来た連中が話してた特徴と同じだ」
「へー、魔人族で一番強いって子なんだ。オッゴは賢聖の縄張り意識が強くて、他の国から実力者があまり来ないし、珍しいものが見られたよ」
「大勇者と大賢者に加えてそんな人まで来るなんてぇー、ここってやっぱり凄い島だよねぇー。あぁー、そっちの二人は久しぶりぃー、あの時はありがとぉー」
「なあダイチ。コイツラって土地神だよな?」
「話では人族と変わらん姿と聞いていたが、どうして縮んでいるのだ?」
なにせ今はフィギュアサイズになって、フヨフヨと空中に浮かんだ状態。その疑問が出てくるのも当然だよね。
「えっと、エヨンの職人さんが土地神の人形を作ってくれたんですが、それをユグがやたら気に入ってまして」
「ちっちゃいおねーたん、かあいい!」
「おままごととかで遊んでるうちに、神が宿れるほど強化されちゃいました」
思わず語尾に〝てへっ☆〟とかつけたくなっちゃうよ。男の僕がやっても可愛くないんだけどさ。
元々職人さんの魂が込められた作品だったけど、樹の精であるユグが触ったり抱いたりしているうち、神樹の力を受けられるようになった。いわゆる〝神器〟に近いものへ進化してしまったわけだ。
そうなると〝分け身〟で、土地神の意識を宿らせることが可能になる。本人が島に来るより負担が減るし、守護地を離れなくても済むので、遠慮なく集まることが出来るように。本人たちも小さな体で浮かぶ感覚が楽しいらしく、今ではしょっちゅう遊びに来るようになってしまった。
「……あんたたち、目を離すとロクなことしないね」
エトワールさんにジト目で睨まれてしまう。ちょうど同じ種族のバードックさんもいるし、カメリアの進化についても聞きたいんだけど、大丈夫かなぁ……
ファンタジー作品に、小さなマスコットキャラは必須ですからね(笑)
(一応、小鳥サイズになれるクロウがいましたが……)
次回は呆れる大賢者、そして暴走する魔皇。
巻き込まれた主人公は……?