第15話 もはやお約束!
第12章の最終話になります。
窓の外が明るくなってきてる。そろそろユグが起こしに来てくれる時間かな。体の疲れは少し残ってるけど、気持ちはとても晴れやかだ。
きっと隣で寝ている可愛い彼女のおかげだろう。この子が近くにいるだけで、元気をもらえる気がする。ここ最近はそうした効果が弱ってたけど、今日は今までで一番とびきりだ。カメリア自身の変化もあるだろうし、気持ち以外の部分で繋がったことも大きいはず。
頭を撫でてあげようと思って腕を伸ばすと布団がずれ、胸に抱かれて幸せそうなクロウが目に入る。普段は欲望に忠実な言動が多いくせに、ベッドの上ではやたら紳士的で驚いた。イケメンボイスな自分の武器をよく理解してるのか、耳元で甘い言葉を囁きまくってたもんな。あれはズルい、ズルすぎる。
まあ、おかげでカメリアの可愛い姿を思う存分堪能できたから、僕としては大満足だったけど……
おっと、あんまり見つめていると危険だ。万が一ユグにいつもと違う部分を指摘されたら、うまく説明できる自信がない。もう少し大きくなったら「赤ちゃんはどこから来るの?」とか聞かれたりするのかな。この世界で「キャベツ畑だよ」とか「コウノトリが運んでくるんだ」なんて通じないだろうし、バンダさんかアプリコットさんに正しい伝え方を教わっておこう。
そんな取り留めのないことを考えていたら、クロウがもぞもぞと動き出す。
「おはよう、クロウ」
「素晴らしい朝だな、ダイチ。俺様なんだか生まれ変わった気分だぜ」
「さっきまで気持ちよさそうに眠ってたからかもね」
「ご主人さまに抱かれて幸せな気分に浸れるのはいつものことだが、今日はなんっていうか体の奥底から力が漲ってる感じだ」
「精霊の体調って契約主の感情に左右されるみたいだし、その影響を受けてるんじゃないの?」
「いや、そんなチャチなもんじゃねえ。どう言ったらいいのかわかんねえが、喋ることが出来た時に近い気がするぜ」
クロウのテンションがいつもより高いし、カメリアはもっと元気になってるかも。幸せそうに眠ってるということは、いい夢を見られたからに違いない。お互いに盛り上がりすぎて、無理させたんじゃないかと心配したけど、クロウがこの様子だったら問題ないはず。
器用にカメリアの胸元から抜け出したクロウが、自分の体をあちこち眺めている。こうして見てもなにか変化があったように思えないんだけどな。まあそのうち落ち着くだろう。カメリアの頭を撫でながら、朝のまったりタイムを楽しむとするか。
「な、なんじゃこりゃああ!!」
突然叫び声を上げてどうしたの、羽に血でもついてた?
「ん……う~ん」
「おはよう、カメリア」
「あっ、おはようダイチ。えへへへへ」
クロウの声でカメリアも目を覚ましてしまった。はにかみながらこちらを見てくる顔は可愛すぎだ。このままでは朝っぱらから昂ぶってしまいますよ、僕は。
「クロウもおはよう。朝から大きな声を出してどうしたの?」
「おう、ご主人さま。今日も朝から素敵な笑顔を見られて、俺様は幸せだぜ。とか挨拶してる場合じゃねえ!! 調子はどうだ、ご主人さま。体に変なところはないか?」
「えーっと……ちょっと水浴びしたいかなってくらいで、特におかしいところはないよ。むしろいつもより、気力が充実してる感じ?」
あー、えっと、色々ごめんね。僕も朝ごはん前に、軽く汗を洗い流しておかないと。
「なら問題ねえな。悪いが念の為、自分のスキルを見てもらってもいいか?」
「うん、それくらい構わないけど……」
カメリアは布団の中から左手を出し、手の甲に出ているスキル紋を確認し始める。こちら側からは反対になるので、僕の方からは見えてない。でも五枚の花びらのままなのは、チラッと目に入ってきた。シアみたいに枚数が増えたわけではなさそうだ。
「な、なにこれぇええ!!」
さすが主従関係、驚き方もそっくりだよ。
そんな叫びで今日が始まった。
◇◆◇
はい、毎度おなじみ家族会議です。
議長はいつものようにアイリスが務めています。
「まあ、ある意味当然の結果ね」
「私の古傷が治ったくらいだからな、一種の劇薬といっても差し支えないだろう」
差し支えありまくりだよ、シア!
カメリアのツノがくっついた日も糊とか言われたけど、こんなときのシアは辛辣だ。互いに納得した上でカメリアと関係を持ったから、機嫌が悪くなってないのは幸いだけど……
「かめおねーたんと、くおたん、どうしたの?」
「すぐその説明をしてくれるから、おとなしく聞いてようね」
「あい!」
膝の上に座ったユグの頭を撫でながら、二人の説明を待つ。新しく発現したシアの時とは違い、進化したスキルの場合は本人に効果がわかる。ノヴァさんもそのおかげで、新スキルを使いこなしていた。
「まずはクロウから説明なさい」
「俺様は新しくスキルが発現してるぜ。【伝意】ってんだけど、離れててもご主人さまと会話できるみてえだな」
「今は星が一つも埋まってないから、島の端まで行くと聞こえなくなるけどね」
これまでは【鳥瞰】で映像を送ることは出来ても、言葉を伝えることは無理だったもんな。それが可能となった今、偵察や索敵能力が飛躍的に上がったと考えていい。
「特殊スキルを合わせて六個ですから、クロウは私たち人形精霊を超える存在になってしましましたね」
「ご主人さまと深く繋がったおかげだぜ!」
あの……スズラン。僕の方をそんな目で見るのはやめて。
「次はカメリアね。シアのようにスキルが増えたわけじゃなさそうだけど?」
「うん、ボクのは進化っていうのかな。多分ノヴァさんが上位スキルになったのと、同じ感じだと思う」
魔人族であるカメリアが元々持っていたスキルは、【堅牢】【不動】【背水】【硬化】【威圧】だ。
それがすべて書き換わり、【金剛】【盤石】【反骨】【警守】【圧倒】になった。
【金剛】:【堅牢】の上位スキルで、物理攻撃の超耐性。
【盤石】:【不動】の上位スキルで、通常攻撃では体勢を崩せない。
【反骨】:【背水】の上位スキルで、攻撃を受けるたび能力上昇。
【警守】:【硬化】を置き換えるスキルで、近接攻撃を自動防御。
【圧倒】:【威圧】の上位スキルで、相手の戦意を奪う。
これってサクラの【避魔】と合わせたら、あらゆる攻撃に対してほぼ無敵になってしまう。試すことは絶対にないけど、恐らくアスフィーでも傷つけることは無理じゃないかな。
「勝てない気、する……」
「こんな反則スキルを身に付けたんだもの、いくら魔剣でも無理じゃないかしら」
「ちょっと悔しい」
「ごめんねアスフィー。ボクもこんな力を授かるなんて、思ってなかったんだ」
「いくら丈夫になったからといって、モンスターの群れに単騎で突っ込んだりするのはダメだぞ」
「うん、わかってるよ。シアと同じように、この力はみんなを守るために使うんだ」
防御力もさることながら、【反骨】と【警守】が反則すぎる。囲まれて攻撃を受け続ければ、ほぼノーリスクで強くなるんだもん。ゲームに実装されたらバランスブレイカーとか非難されて、下方修正された後に詫び石が配られるレベルだよ。
「それにしても、シアに引き続きカメリアまで進化してしまうなんて、これはもう偶然とか相性なんて言葉では説明できないわね」
「……ダイチさんのおかげで、ユグちゃんも生まれた」
「いっぱいあそべて、ゆぐすごくたのしい!」
「私が下僕と繋がったらどうなるか、ちょっと興味が出てきたわ」
「お嬢も進化して、成長したり?」
「大きくなってしまわれるのは困りますね」
また本音がポロッと漏れてるよ、イチカ。それに吸血族の彼女が成長したら、賛美歌が苦手になりそう。
少なくとも三百年以上生きてる人だけど、アイリスに手を出すのはビジュアル的にまずい。それにバンダさんみたいな制約を課されるのは可哀想だ。なにせ今のあの人は、スキルに弱体化がかかり、土地にも縛られている。
もし同じことが起きてしまえば、家族旅行もやりにくくなってしまう。そんな不自由を与えてしまうのは絶対に嫌だ。僕にとってアイリスはとても大切な存在だから、興味本位ではなく全てを捧げてでも手にしたい、それくらいの意思が固まるまで待って欲しい。
「私も強くなりたい。主様、今度こそ繋がろ」
「ほう……ダイチはこんな小さい子に、何度も手を出そうとしていたのか」
「そ、そんなことしてないよシア。これはアスフィーといつも交わしてる軽口だから、杖を顕現させるのはやめて!」
結局こういうオチが待ってるのか。世界樹の杖を構えるシアを牽制しながら、今日も始まったドタバタの中に身を委ねる。
やはり僕は今の生活と、この家族が好きだ。
人間関係の記憶を失ったままなら、元の世界に帰りたいという未練も、薄くなっていくだろう。もしかするとこのままでいるほうが、僕にとって幸せなのかもしれない……
楽しそうに話すみんなを見ながら、心の片隅でそんな事を考えていた。
注ぎ込めば(意味深)強くなるんじゃないですよ、繋がりが深くなったから変化するんです(笑)
そして元の世界への未練が、すっかり無くなってしまった主人公です。
次回はおなじみ資料集をはさみ、次の章を開始します。
イルカ島を訪問する大勇者と大賢者。そして一緒に魔人族最強の男まで。彼の目的は一体……
吸血族の島民も増えますので、お楽しみに!