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第14話 三人で……

 朝一でアーワイチまで転移を使って飛び、そこから国内を走るローカル線に乗り込む。終点の駅で降りてから数時間歩いた森の中に、カメリアの生まれた村があった。


 ほとんどの家は取り壊され、畑だったであろう場所は草に覆われている。そして切り開かれた森の中心に、ひときわ目立つモニュメントが。


 思いもよらなかった光景を目の当たりにして、カメリアは立ち止まってしまう。


 そこには上へ向かって細くなる二メートル位の四角い柱があり、下の部分には哀悼の言葉を刻んだプレートがはめられていた。地面にはお供えを置く台が作られ、お酒のビンが立てられている。



「こんなの出来てたんだ……」


「これは慰霊碑ってやつか?」


「うん、そうだよ。カメリアのお父さんとお母さんを知っていた探索者仲間が、共同で作ってくれたんだって」



 クランを結成したり固定パーティーを組んだりしない限り、探索者同士の繋がりはとても希薄だ。そしてカメリアの両親は、出稼ぎのような感じで迷宮探索をしていたらしい。臨時パーティーを組むことも多かった人が、こんなに他の探索者から慕われていた。つまりそれだけ人として素晴らしい探索者だったんだろう。


 ここに慰霊碑があることは、カメリアに伝えていない。心の整理ができるまで、黙っておくほうがいいと言われていたからだ。だけど今日、カメリアから両親に報告したいと言われ、そのままこの場所まで来てしまっている。ずっと僕の手を握りながら、生まれ故郷へ帰る勇気を振り絞っていた彼女に、最後まで告げることは出来なかった。


 じっと前を見るカメリアから視線をそらし、きれいに草が刈り取られた広場を見渡す。このモニュメントも、定期的に掃除がされているはず。そうでないと、ここまできれいな状態を保てない。今日の報告が済んで前へ進めるようになったら、僕たちも通うようにしよう。



「この村のこと、覚えていてくれる人がいて嬉しいかな」


「心憎いことをするやつがいるじゃねえか」


「お花を供えようか」



 ラムネに少しだけ出てきてもらい、イルカ島で摘んできた花束を供える。ユグと一緒に選んだ花を、一緒に行ったニナがきれいな花束にしてくれた。この辺りでは見ることのないカラフルなものだけど、喜んでもらえるだろうか。



「お父さん、お母さん、みんな……ただいま。ずっと帰ってこれなくてごめんね」



 カメリアはモニュメントの前で目をつぶり、語りかけるように言葉を紡ぐ。固く閉じられた瞼の裏には、在りし日の光景が写ってるのかもしれない。僕も日本式だけど手を合わせてお祈りする。



「この村を襲ったレッド・オーガは、モンスターを捕まえる研究をしていた男が連れてきたんだ。でも、もうこの世界にはいないから安心して。あんなことは二度と起こらないよ……」



 男が落としていった遺留品は、全て回収してバンダさんに預けてきた。あの人の知識と長い人生経験があれば、何かしらの手がかりに結びつく可能性がある。そしてもしカローラちゃんが利用されているのなら、なんとかして助け出してあげよう。



「あのね、ボクも探索者やってるんだ。ほら見て、上級になれたんだよ」



 血の繋がりで奴隷のように扱われていた時期のことは伏せ、僕たちと出会ってから探索者として経験したこと。そして大勇者との修行や魔剣のこと。土地神やイルカ島での暮らしぶりを次々語っていく。その声を聞きながら、僕も心の中である決意を伝える。


 そうして祈りを捧げているとき、この場所へ誰かが近づいてくる気配を感じた。広場の入口から向かってくるのは、二十代後半に見える人族の男性だ。手に小さな包みを持ってるし、お参りに来てくれたのかな。



「こんにちは」


「やあ。まさかここで人に会えるとは思わなかった。君たちも参拝かい?」


「はい。隣りにいる彼女がここの出身者なので、近況報告を兼ねて挨拶に来ました」


「あの、はじめまして」



 いつもは他人に物おじしない子だけど、今日はちょっとビクビクしてる。やっぱり精神的に不安定になっているからだろう。それに男性からじっと見られていて、居心地が悪いのかも。そっと寄り添ってきたので、手を握ってあげた。



「あー、えっと、間違ってたならすまない。もしかすると君って、オリーブさんの娘さんじゃないかな?」


「えっ!? お母さんのこと知ってるの」


「やっぱりそうか! あの人の面影がすごく出てるよ。それに目元と瞳の色は、ターニップさんとそっくりだ」



 街でよく向けられる視線とは違うと思ってたけど、誰かに似てると感じてじっくり見ていたのか。


 男性の名前はパームさん。探索者になりたての頃、初心者向き迷宮が多いアーワイチに来て、経験を積んでいたらしい。そこでカメリアの両親と会い、臨時パーティーを何度も組んで、探索者のイロハを学んだそうだ。



「ターニップさんたちと出会わなければ今の自分は存在しない、そう考えている探索者は結構いると思うよ。あの二人から教えを受けた人は、全員が探索者として大成してるからね」


「お父さんも〝将来有望な新人を育てるのは面白い〟とか言ってたよ」


「実力がついてからは、ずっとイノーニで活動していたんだ。先日、あのとき一緒に学んだ仲間から、二人が亡くなったと聞いて驚いたよ。もっと早く挨拶に来られれば、よかったんだが……」


「あっ、気にしないで。こうして来てくれただけでも、お父さんとお母さんは喜んでくれるから」



 当時のことを色々語ってくれたけど、教え方が丁寧かつ実践的で、新人を中心に慕われていたみたい。ベテランの中には〝子守〟とか言って笑う人もいたが、二人はそんな声に耳を貸さなかった。自分の姿勢を貫き通す意志の強さには憧れる。僕は流されやすい性格をしてるから……



「村人は一人も助からなかったと聞いていたから、二人がずっと自慢してた娘さんも巻き込まれたと思ってた。ここでおきた不幸な出来事は残念だったけど、君だけでも生き残っていて嬉しいよ。それに、その若さで上級なんて凄いじゃないか。ご両親も喜んでくれると思う」



 二人とも実力自体は上級だったが、娘との時間を作るために昇格をしない、パームさんはそんな話を聞いたそうだ。なんでも親子で一緒に上級へ上がることを、目標にしてたらしい。その夢は永遠に叶えられなくなってしまったとはいえ、その娘だけでも助かり探索者として大成していた事がわかり、パームさんはとても嬉しそうにしている。



「今日はここに来てよかった。きっとターニップさんとオリーブさんが、君たちに引き合わせてくれたんだ。帰ったら知り合いにも伝えておくよ」


「うん、僕もお父さんとお母さんのことを色々聞けて嬉しかった。イノーニにも時々行くから、また話を聞かせてね」



 モニュメントに祈りを捧げてお供えをした後、パームさんは帰っていった。たしかに今日の出会いは、何かに導かれたのかもしれないな。そうじゃなきゃ、こんな偶然なんておきなかったはず。



「前に二人のことを自慢の両親だって言ってたけど、今の話を聞いてよくわかったよ」


「あの野郎さえいなけりゃ、こんな事にはならなかったのによ。残念でならねえぜ」


「もしそんな未来があったら、ダイチやクロウとは出会えなかったと思う。こんな言い方でいいのかわからないけど、これも運命ってやつじゃないかな。起きちゃったことでクヨクヨ悩んでも仕方ないし、これからはみんなの分まで精一杯生きていくよ」



 今まで見たことのない優しい笑顔でカメリアは微笑む。

 その姿に僕とクロウは見とれてしまった。


 きっとここに眠っているみんなが、カメリアの背中を押してくれたんだろう。顔を上げて前へ歩き出した彼女を、出来る限りそばで支えていきたい。僕はもう一度誓いの言葉を胸の中で唱え、ラムネの転移でその場を後にした。



◇◆◇



 イルカ島へ帰り、いつもと同じ時間を過ごす。だけど今日の僕はかなり緊張している。なにせ里帰りを決めたときより緊張した顔で、寝る前に大事な話がしたいと告げられた。


 お互いを明確に意識してる異性から、このタイミングで切り出されたんだ。もっと深い関係を期待してしまうのは、仕方ないと思う。


 (はや)る心を落ち着けようと素数を数えていたら、控えめなノックの音が響く。扉を開けると、寝間着姿のカメリアが、クロウを肩に乗せて立っていた。頬を染めながらこちらを上目遣いで見る姿は、破壊力抜群だな。僕の鼓動が一気に上昇してしまったよ!



「あの……こんばんわ」


「邪魔するぜ、ダイチ」



 いつもどおりの軽い口調で話すクロウを見て、ちょっと落ち着いてくる。とにかくがっついてカメリアを怖がらせない、それだけは十分に気をつけよう。シアと一緒に積んできた経験を活かさなければ。


 って、別の女性のことを考えるのは失礼だな。



「待ってたよカメリア。どうぞ中に入って」



 緊張して動きがぎこちなくなってるカメリアをエスコートしつつ、部屋の中へ招き入れる。いきなりベッドへってのはアレだから、まずはテーブルを挟んで話をすることに。



「今日はありがとう。ダイチが一緒に来てくれなかったら、あそこに行く勇気が出なかったと思う」


「僕で役に立てたのなら嬉しいよ」


「今まで知らなかったお父さんとお母さんの話も聞けたし、本当に行って良かった」



 そのままカメリアは村での思い出話や、両親のことを語ってくれた。穏やかな表情で話す姿から感じるのは、昔のことが美しい思い出に変わってきた、そんな印象だ。今日の出会いはそれだけのものを、彼女に残してくれたんだろう。



「それでね……ダイチにお願いがあるの」


「カメリアのお願いなら、なんでも聞くよ」



 強い意志のこもった目で、カメリアが僕と視線を合わせる。



「一緒に暮らしてるみんなは大切な家族だけど、ボクだけの繋がりも欲しい。自分の血を分けた家族を作って、お父さんとお母さんに報告したいの」


「今日、慰霊碑の前でターニップさんとオリーブさんに、あるお願いをしてきたんだ」


「……えっと、どんなこと?」


「それはね、娘さんを僕にくださいってお願いだよ」



 その言葉を聞いたカメリアは、泣き笑いのような顔で席を立ち、僕の方に走ってくる。立ち上がってその体を抱きとめ、腰に手を回す。



「嬉しい、嬉しいよダイチ!」


「どんな事があっても、悲しい思いをさせないように頑張る。だから僕のものになって、カメリア」


「うん!」



 ひまわりのような笑顔を浮かべたカメリアと少しだけ見つめ合い、そのままそっと触れるだけの口づけを交わした。



「やっと思いを告げられたな、ご主人さま。俺様が付き合えるのはここまでだぜ。あとはしっかりやれよ、ダイチ」


「あっ、待ってクロウ。ボクはクロウとも深く繋がりたいの、だから今夜は一緒にいて。ダイチもそれでいいかな?」


「カメリアがそれを望んでるなら、僕も一緒がいいよ。クロウは大切な契約精霊だしね」


「へへっ……ご主人さまにそう言われたんじゃ仕方ねえな。優しくしてやるから安心しな!」



 カメリアが自分の過去と向き合えた日、僕たち三人はより深い関係へと第一歩を踏み出す。






 そしてやっぱり僕の血が、二人に影響を与えてしまったのだった――


お約束ですので(笑)


◇◆◇


【ご報告】

 母の手術入院中に構想を練っていたアイデアで、新しい連載を始めてみようかと思っています。

このあと準備を進め、今日と明日で6話程度投稿する予定です。


よろしければ作者トップページから、チェックをお願いします。


ハズレギフトを授かった転生主人公が、異世界に位取り記数法(くらいどりきすうほう)を持ち込むお話。

8や256そして65,536といった、プログラマーに馴染みの深い数値が飛び交います(笑)

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