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第2話 初めての探索ギルド

 三人で街に入り、今は探索者ギルドへ向かって歩いている。街なかではサクラと一緒にいられないので、すごく申し訳ない気持ちになってしまう。ピンク色の精霊なんて連れてたら、大騒ぎになっちゃうから仕方がない。


 探索者ギルドは西にある商業区画とは逆方向で、僕も初めて訪れる場所だ。シアはずっと森から出られなかったから、探索者ギルドに顔を出しておかないと、来年には資格が失効してしまう。今のランクは中級なので、また下級からやり直すのは勿体ない。



「ダイチと一緒に最初からやり直してもいいんだが、わざわざ足を運んでもらってすまない」


「もしシアが不利な立場になった時、中級探索者の地位が役に立つと思うんだ。僕も頑張って追いつくから、目標みたいな感じで持っててよ」


「そんなことまで考えてくれていたのか。なんというか、ダイチには敵わないな」



 ローブで隠れているシアの顔が、嬉しそうに破顔した。やっぱり明るい場所で見ると、今までよりもっと可愛く見える。


 僕が持っているのは木目模様のリストバンドだけど、探索者ギルドに登録すると金属っぽい質感のものに変わる。下級である一番下が銅で、シアのいる銀が中級ランク。銅のまま引退する人もかなりいるみたいだから、銀を持ってるってことは一種のステータスだ。


 上級の金になるとクランを作る人も多く、複数の部隊を指揮して迷宮攻略したりする。拠点に大きな家を持てるほど羽振りがよくなるから、以前配達の仕事で行った家は金ランクの探索者が住んでたんだろう。


 一番上が特級となる黒で、ここまで来るともう一般人とは言えない。国家が認定して、探索者を抱え込むためのランクだとか。色々な特権もあるみたいだけど、自由に生きられなくなりそうだから嫌だな。



「降格もあるんだよね?」


「この腕輪(リストバンド)には、どのランクのモンスターを倒したか記録されるんだ。その情報やメンバー構成で実力なしと判断されたり、事故や怪我が多いと下げられたりするな」


「もしかして僕と組んで弱いモンスターばかり倒してたら、シアのランクが下がっちゃう?」


「下の者を育成するのも先輩探索者の努めだから心配無用だ」



 それを聞いて安心した。とはいっても、僕が弱いままだとシアに寄生してるなんて思われそうだし、サクラのスキルを借りつつ壁役くらいはこなさないとな。オンラインゲームでも寄生プレイヤーは嫌われてたから、リアルならなおさら恨まれそう。



「話は変わるけど、この街ってほとんどエルフ族を見ないよね」


「あまり国から出ない種族だからな。中央大迷宮のあるゼーロンにはそれなりにいるが、他の国に定住する者は少ないだろう」



 この街でエルフ族を見かけたのは、二回ほどしかない。魔人族以外でよく目にするのは、お店で働いてる人族と、探索者っぽい獣人族だ。ちなみに宿屋のおばさんも人族だったりする。


 魔人族や獣人族は探索者が多いから、残念ながらネコミミメイドさんや、癒やしのモフモフ喫茶は存在しない。僕の夢を返せって気分だよ。



「それはシア様たちエルフ族にとって、石造りの街が落ち着かないからですか?」


「それもあるな。だからここアーワイチや、山岳地帯のエヨンにエルフ族はあまりいない」


「ここが住みにくいようなら、どこかに引っ越してもいいね」


「私のことなら心配しなくても大丈夫だぞ、ダイチ。ここの迷宮は初心者向きのエリアが多いし、他では見ないアイテムも手に入ったりするんだ。なにせ最初にできた迷宮が、ここだと言われているからな」



 ガラクタみたいなアイテムが多いから人気はイマイチらしいけど、そんなモノに限って意外な使い道があったりする。誰も見向きしないような掘り出し物を探すのも楽しそうだ。


 簡単に元の世界へ帰れない以上、色々な楽しみを見つけないと。スズランと話ができるようになったし、今日からはシアとも一緒にいられる。サクラも呼び出したら、話し相手が三倍になってお得だねって感じかも。



◇◆◇



 初めて入った探索ギルドは、やっぱり独特の雰囲気があった。依頼掲示板の代わりに黒板のようなものがあり、特定アイテムの買取や交換要望が所せましと書き込まれている。オークションみたいなシステムもあるようだ。僕が受けてる依頼と数字の桁が違いすぎて、比べるのもおこがましい。噴水付きの広い庭がある豪邸に住めるのも納得だね!



「おらっ、トロトロするな! 全くこのグズが」



 その時、探索ギルドの扉が開いて、魔人族の男が二人入ってきた。外に向かって怒鳴ってるけど、何があるんだろう?



「全く使えないガキだ。誰のおかげで暮らしていけてると思ってるんだ」


「ごめん、……なさい。荷物が重くて……」


「口ごたえすんな! お前は黙って運んでりゃいいんだよ」


「……はい」



 二人の男が使う武器や防具だろう装備を背負った子供が、ちょっとフラフラしながら中に入ってくる。ショートカットの女の子だろうか、体つきはとても華奢だ。身長は日本人だと、中学校に上がりたてくらいかも。


 そんな小さな子が大きな荷物を抱えながら怒鳴られてるのに、誰も止めに入ったり注意したりしない。周りにいる人たちやギルドの職員は、そんな光景は目に入ってないとばかりに無視している。



「なに、あれ。どうして誰も助けないの?」


「気持ちはわかるが手を出したらダメだぞ、ダイチ」


「だけど可哀想すぎるよ……」


「あの子の頭をよく見て見るんだ」



 シアに言われて改めて見てみると、二本あるツノの片方が真ん中あたりから無い。魔人族には必ず二本のツノが生えてるけど、途中で折れてる人なんて初めて見た。もしかしてそれが、ひどい扱いを受けてる原因?



「魔人族のツノは、生命の源みたいなものなんだ。ツノが折れてしまうと、衰弱して死に至る。ああして動けているということは、どちらかの男が血の繋がりを与えているからだろう。扱いはアレだが、ある意味あの子は運がいい」



 魔人族のツノはとても硬いので、剣で攻撃したくらいでは傷一つつかない。それが折れるくらいの攻撃だと、まず助からないそうだ。仮に一命をとりとめたとしても、あとは衰弱して死んでいくだけ。


 それを防ぐには血の繋がりをもらうことだけど、与える側は精霊の再契約ができなくなるというデメリットがある。


 更にツノが折れると種族スキルが消え、成長が止まってしまう。だから、体を鍛えても筋力や体力はつかない。たとえ血の繋がりを与えられたとしても変わらないので、そんなお荷物を抱えるのはよほどの物好きだけ。最悪の場合だと、好事家の慰みものにされるなんて目にも……


 そんな説明をシアがしてくれた。

 血の契約を与えられた者は、その人の所有物とみなされる。だから荷物持ちをやらされてるくらいなら、ある意味幸運というわけか。


 郷に入れば郷に従えっていうけど、実践するのはなかなか難しい。誰も騒いだりしてないんだから、僕も割り切るしか無いんだろう。


 気持ちを切り替えていかないと、シアやスズランに余計な心配をかけちゃうな。


 冒頭で主人公の考え方に感心してますが、常識や感性の食い違いについて、現時点では軽く流す程度に……

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