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第11話 追跡

ご無沙汰しております。

家族の手術以降、大きく変化した生活ですが、少しずつ落ち着いてきました。

ということで週一くらいのペースで再開しようと思います。

今年もよろしくお願いいたします。


◇◆◇


■前回までのあらすじ

 イノーニの神域で見つかった結界針を借り受け、吸血族の始祖バンダに解析を依頼。そこで得た手がかりを元に、迷宮で遭遇した黒ローブの男に関する情報を探る。カメリアの村を襲った容疑者の名前はタマラック。人魚族の国ウーサンにあるマーレ学園に短期留学の経験もあり、その学籍情報に記録されていたアーワイチへ飛ぶ主人公たち。そして現地の協力者が見つけた怪しい民家を、監視することになるのだった……

 ポピーさんと相談して、影になったイチカに民家の中を確認してもらった。興味本位で精霊や使い魔の力を使いたくないから、カローラちゃんの時は探るような真似をしていない。だけど今回ばかりは例外だ。


 カメリアが抱えてきた因縁を断ち切って、村人たちをしっかり弔ってあげる。彼女がこれからなんの(うれ)いもなく、前へ向かって進めるように。そのためだったら、多少の犯罪行為には目をつぶると覚悟を決めた。


 そして問題の家は、地下が小さなバーのようになっているらしい。壁には多数のボトルが並べられ、カウンターと少数の席があるだけ。元の世界でもホームバーのある家はあったけど、同じ感じなんだろうか。さしずめ秘密酒場ってとこだろう。


 中で生活している人は見当たらなかったから、毎日営業しているわけではないのかも。そうなると、根気よく待ち続けるしかない。



「アプリコット学長から概要は伝えられていましたが、とんでもない諜報能力ですね」


「あれは使い魔にも負担をかけるから、あまり多用できないのよ」



 以前シアを探してもらった時も、かなり無理をさせちゃったからな。今回は短時間だったとはいえ、後でしっかり(ねぎら)ってあげないと。子供以外の要望があったら、できるだけ聞いてあげよう。



「無理させてごめんね、アイリス」


「あなたはそんなこと気にする必要ないわ。それより、あの男が見つかった後にどうするか、考えておきなさい」


「ターゲットが見つかった場合、カメリアさんはどうするおつもりですか?」


「とりあえず全力で殴る!」



 カメリアはそう言いながら拳を突き出す。迷宮内を無傷で動き回れるんだから、何か特別な力を持ってると思う。でも体を鍛えてる感じじゃなかったし、まともに攻撃が入ったら間違いなく致命傷だ。



「あら、そんな生ぬるいことでいいの? 手足を切り飛ばした後に、死んだほうがマシってくらい悪夢を見せて、そのまま廃人にしてしまっても、文句は言われないと思うわよ」


「最初はボクも殺してやりたいぐらい憎かったんだ。でも今は二度と実験とかできないようにして、死ぬまで後悔させてやるくらいでいいと思ってる。きっとみんなに出会えたおかげだね」


「そうした気持ちの変化は、私と似てるんだろう。ダイチたちと出会って、命を奪われそうになった三人のことなど、どうでも良くなってしまったからな」


「カメリアさんがそれで納得されるのなら、私の方から何もいうことはありません。組織の実態を尋問する必要があるため、生け捕りを希望していただけですから。口さえ聞ければどんな状態になっていても構いませんので、皆さまのお好きにしてください」



 ポピーさんもしれっと怖いこと言うなぁ……

 人魚族に持っていたイメージが、変わってしまいそうだよ!


 そんな感想を抱いていたとき、驚きと戸惑いの混ざったような表情で、カメリアが声を出す。



「あれ? 建物の中から誰か出てきたよ。どうやって入ったんだろう」


「秘密の出入り口があるのか、人の目をごまかす魔道具や結界を使っていたのかもしれんな」


「以前もクロウの眼前で消えているし、どこかに潜んでいたってことかしら」


「あの結界針を作る技術があるなら、その可能性を考慮しておくべきだった。いま姿を表しているということは、何かしらの制限も存在するんだろう。このチャンスを逃す手はない」



 影になったイチカにも見つけられない隠し部屋や扉、そうした場所が存在する可能性はどれくらいあるだろう。例えば結界で侵入を防ぐとしても、不自然に入れない場所があったら気づくはず。そしてアイリスの使い魔である以上、暗示による記憶改変は受け付けない。ごまかせるとすれば認識阻害か。もしそうだとするのなら、視覚情報に頼るのは危険だと考えておく方が無難だ。



「スズラン、ラムネの【探査】をカンストしておいて」


「承知いたしました、マイ・マスター」



 相手のジャミング能力が特級精霊のスキルを凌駕していれば、この判断は無駄になってしまう。だけどこれで一応の保険になる。



「フードとマスクに隠れてて顔はよくわからないけど、目つきと左右で微妙に違う肌の色は、間違いなくボクの村を襲った男だよ。この通りの先には迷宮しかないから、そこへ向かってるんだと思う」


「暗くなってから迷宮に行こうだなんて、また実験でもするつもりなのかしら」


「精霊は単独で迷宮には入れない。クロウが見失う前に我々も向かおう」


「私たちの方でも引き続き情報を集めますので、今後は足取りもつかみやすくなるはずです。これから先に追い詰める機会もあると思いますから、くれぐれも無理はなさらないでください」


「相手の能力もわかりませんし、危なくなったら撤退します。では、行ってきますね」



 ポピーさんから提供されていた家を出て、僕たちは迷宮へと向かう。星を四まで上げたサクラの【隠密】を発動しているため、通行人の注目を集めることなく移動できる。気配に敏感な人の近くを走り抜けた際に、驚かせてしまうくらいだ。これ、リナリアと行動するときに使えるな。


 そして迷宮の前で待機していたクロウと合流し、全員で中へ飛び込む。

 以前に対峙したときに感じたザワザワとした気配、あの悪寒みたいな兆候にだけは気をつけよう。



◇◆◇



 男が向かった迷宮の入り口は、中級難易度のエリアへ行くのに最短の場所だ。いくつもある入り口のうち、わざわざここを選んだということは、そこを目的地にしている可能性が高い。このまえ出会った場所もそうだったけど、特別な力や武器がない限り、ソロで行くには困難なはず。


 僕たちはドロップアイテムに目もくれず、奥へと進んでいく。それだけペースを上げているにも関わらず、索敵範囲内にまだ生体反応は表示されなかった。これ以上スピードを上げようとすれば、モンスターを無視するしかない。


 だとすればモンスターに襲われないとか、認識されない技術があるってことだ。そんなものが存在するなら、探索者の事故が激減するぞ。僕たちはアイリスのおかげで経験したことないけど、迷宮で一番危険なのは野営時だってノヴァさんも言ってたしな。


 その辺りの技術を差し出せば、司法取引みたいなことが出来るかも。



「この先に一人だけで動く生体反応がある。最速で動いている我々と同等の速度が出ているのを見る限り、目的の男で間違いないだろう」


「まだ嫌な感じはしないけど、慎重に近づこう。スズランはどう? プレッシャーとかないかな」


「はい、今回は大丈夫です」


「いつでも影転移で逃げられるよう、私のそばを離れないこと。いいわね、今度は飛び出しちゃだめよ」


「うん。同じ失敗は二度としない」


「俺様が先行してやるから安心しな、ご主人さま。今度は絶対に見逃さねえぜ!」



 先へ行ったクロウに監視してもらいながら、生体反応へと慎重に近づいていく。送られてくる視覚情報によると、やっぱりモンスターから認識されてないみたいだ。前回はモンスターを避けてたらしいので、違う術式を使ってるんだろう。


 多数の技術を持ってるってことは、ますます危険度が高くなる。無音でモンスターを倒しながら、僕は不測の事態に対処できるよう、緊張感を高めていった。


次回、とうとう男を追い詰めた主人公たち。

しかし予想だにしなかった事態へ……


第12話「チェックメイト」をお楽しみに!

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