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第10話 繋がる線

誤字報告ありがとうございました。

 大きなテーブルが置かれた部屋の椅子に座り自己紹介をしていたら、別の店員さんがお菓子とお茶を持ってきてくれた。さすが【細工】スキル持ちの菓子職人が作っただけあり、食べるのがもったいないくらいの華やかさがある。元の世界でもこんなに豪華なスイーツは、テレビの特集番組でしか見たことないよ。


 リナリアがいればすごく喜んでくれそうだけど、残念ながら学校の都合でここにはいない。ラムネの時間停止収納があるから、後でお土産を注文して持ち帰ってあげようかな。


 まあ仮に学校が休みだったとしても、今回の件には巻き込めないだろう。なにせ僕たちがやろうとしてるのは、いわば復讐だ。いくらスズランの持つ心に作用するスキルがあったとしても、優しいあの子には見せない方がいい。


 仲間はずれにしたことを怒ると思うけど、それは僕の方でちゃんと謝って説明することにしている。



「いま人魚族の間でホットな話題の皆さんに会えて嬉しいです」


「やっぱりリナリアの件ですか?」


「現役の歌姫が上級探索者になったことも含め、なにかと噂は尽きないのです。あなた達はアプリコット学長の身内でもありますし」



 土地神たちが集まる島の住人だったり、エルフ族の推薦を受けて昇格したとか、色々噂にされてるみたいだ。とはいえ詳細については、一部の人魚族しか知らないみたいだけど……



「そういえば以前、スズランさんもかなり話題になってましたよ」


「私がですか?」


「えぇ。突如アーワイチに現れた、誰も見たことのない人魚族は一体どこの出身なのかと、噂の的になっていたのです」



 あー、そういえば特級精霊になったばかりの頃、かなりの頻度でナンパされてたもんな。あれだけ騒がれたら、人魚族の耳に入ってもしょうがない。


 そんな狂騒も中級探索者だったシアが仲間になってくれてからは大幅に減り、僕たちが上級探索者に昇格してからはゼロになった。



「今はもう何者かなんて、詮索されたりしてないですよね?」


「はい、もちろんです。なにせリナリアちゃんのお姉さんになった人ですから」



 僕の質問に答えてくれたポピーさんが、そう言ってウインクしてくれる。これはスズランが特級精霊だと知ってるけど、そこには触れないよって事だろう。



「最も関心の的になってるのは、あなたですけどね、ダイチさん」


「えっ!?」


()()デイジーがたびたび話題にするのですから、それはもう全人魚族が注目するってものです」


「まったくあの人は……また余計なことを言ってませんよね?」


「なるほど、彼女に対してその態度ですか。これは噂になるのも仕方ありません」



 歌姫を引退し裏方に回ってなお、デイジーさんの人気が高いことは僕も知っている。あの人とはリナリアを通じて軽口を言い合える仲になってしまったから、今さらこの態度は変えられないな。



「デイジーさんが僕のことを話題にするのは、反応を見るためにからかって遊んでるだけですよ。だけどやられっぱなしになることが多いので、ちょっと悔しかったりします」


「ほうほう、そうですか。それなら彼女に関する情報を、一つお教えしましょう。それをどう活かすかは、ダイチさん次第です」



 ニヤリと笑ったポピーさんが、デイジーさんのとあるエピソードを語ってくれた。



「へー、あの子にそんな過去があったなんて面白いわね」


「これはダイチが以前言っていた黒歴史というやつだな」


「うっかり本人に話しちゃうと、大変なことになりそうなんだけど……」


「その時は俺様が全力で止めてやるから、安心してくれご主人さま」



 怖っ、人魚族の情報網って怖い!

 この人たちを敵に回すのは絶対にやめよう。


 そんな恐怖に打ち震えていたら、ドアをノックする音が聞こえてくる。対応してくれたポピーさんが戻ってくると、机の上へ紙束をどさりと置く。



「ご依頼のタマラックという人物に関する調査報告書が届きました」


「もう情報が集まったんですか?」


「私たちの得意分野ですからね」



 いやだってこの店に入ってから、軽くお茶をした程度の時間しか経ってないんですよ? それなのになんで情報が文字通り束になって届くんですか。本当に人魚族の情報網って怖すぎだ。



「さて、学籍名簿に載っていた住所についてですが、五年前に土地が売り出されています。今は家も取り壊され、更地(さらち)になっているようですね」


「そんなぁ……じゃあ手がかりは残ってないってこと?」


「ご安心ください、カメリアさん。ある程度の足取りはつかめております」



 その人はアーワイチの学園を卒業後、魔道具ギルドで研究開発の職についた。そして就職と同時に、両親の遺産だった家と土地を売ってしまったそうだ。


 しばらく魔道具ギルドで働いていたが、一年ほどで退職している。なんでも民間の研究所から引き抜きが来て、そっちに移籍したらしい。



「その民間の研究所ってどこなんでしょう?」


「実はどれだけ調べても、該当する機関は存在しないんです。同僚には迷宮内に存在するエーテルを取り扱う研究、とか言っていたらしいのですが……」


「つまりそんな研究はどこもやってないと?」


「他国の研究機関を全て精査しましたが、一つも見つかっていません」


「ということは、虚偽の理由で退職した可能性があるわけですね」


「そうとも限らないぞ、ダイチ」



 シアの説明によると、エーテルから直接輝力を取り出そうという研究は、過去に何度も行われたそうだ。大きな期待を寄せられていた時代もあったが、一度モンスターへと変質させてからでないと無理だと、既に証明されている。そして同様の研究は廃れていった。


 しかしタマラックという人の言った退職理由に真実が含まれるのなら、それは別の可能性に繋がる。そう、あのとき男が取り出した黒いボールへと。


 モンスターは現代の技術では解き明かせない、超常の力で変質したエーテルだ。その辺りは研究しつくされており、論文がいくつも存在する。大戦時の術式を解読して現代に蘇らせることの出来る人物なら、モンスターを持ち運ぶ技術の開発に繋がったかもしれない。



「私たちもシアさんと同じ推測をしています。そこで別のアプローチから、情報を集めてみることにしました」



 人や組織が活動していくには、必ずお金や物が動く。本来であればそこから手がかりを探せといっても、砂漠の中で一本の針を見つけるようなもの。しかし今回はいくつかの条件で絞り込むことが出来た。


 そこに浮かび上がったのが、一軒の古道具屋だ。残念ながら数ヶ月前に廃業していたものの、店の主人がよく通っていた場所がある。見た目はなんの変哲もない民家だが、酒類の購入量が少しおかしいらしい。


 もしかすると何かの集会場になっている可能性がある、とのこと。



「まさかそんなふうに繋がっていくなんて驚きました」


「顔に大きな傷のある人物が、誰にも見られず物品調達するのは困難です。なので支援者に繋がりそうな情報は、色々集めていたんですよ。今回は場所と人物の特定、それに研究開発に必要な物品を限定できたため、こうして絞り込めました。これがゼーロンとかなら難しかったでしょうね」


「じゃあそこを見張ってたら、あいつに会えるかもしれないってこと?」



 ずっと黙って話を聞いていたカメリアが、伺うように質問をしている。今にも飛び出しそうってほどじゃないけど、ちょっとソワソワしてる感じだ。思いつめて無茶したりしないよう、僕がしっかり支えてあげよう。



「はい。今のところ一番有力な手がかりは、その民家です」


「なら俺様の出番だな。屋根の上にでも居座って、監視しといてやるぜ」


「いいの?」


「理想のおっぱいを求めて、何日も通りを眺めてたことがあるんだ。これくらいどうってことないから任せとけ、ご主人さま!」


「ありがとうクロウ。大好き」



 両手で包み込んだクロウのくちばしに、カメリアがそっとキスをした。星が五まで上がってる【夜目】と【遠視】があるし、小鳥がいて警戒されることはないはず。本当にクロウがいてくれて良かった。だらしない顔になってるのは見なかったことにしよう。



「室内ならイチカたちを影にして送り込むことができるわ。無理して覗きに行こうとしないこと。いいわね」


「おう! 外で動きがあった時はご主人さまに知らせてやるから、そっちは頼むぜ。じゃあちょっくら行ってくらー」



 廊下に出たクロウが、ポピーさんの開けてくれた裏口から外へ飛び出す。人魚族は目立つため、監視みたいなことに向いてないらしい。その辺りは適材適所ってことだ。なんたって短時間でこれだけの情報を集めるられるのは、街の噂や動向に目を光らせてる彼女たちだけなんだし。


 とりあえず今は、クロウの頑張りに期待しよう。


閑話で登場した人物や場所が、次々繋がっていきます。

そして、デイジーのエピソードが、作中で語られる日はくるのでしょうか?(笑)


申し訳ございませんが、次回の「第11話 追跡」は投稿日を未定とさせていただきます。


小説家になろうで告知するのは控えますが、年末年始は投稿ができません。

経過はツイッター(@TomiiYaama)で報告しますので、よろしければそちらをチェックしてください。



今年も作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。

皆さま、良いお年を!

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