表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/237

第12話 新しい家族

誤字報告ありがとうございました!


第11章の最終話をお届けします。

 家族会議が始まりました。僕とニナを中心にして座ってるので、尋問されてるみたいで少し居心地が悪い。服を着せたユグは、ニナの膝に座って水を飲んでいる。子供ってマイペースでいいな。


 やはり元が()だけあり、水でお腹が膨らむらしい。

 でも果実水とかは、変な味がするから嫌みたいだ。



「まさか神樹にまでやらかすとは思ってなかったわ」


「ダイチの血にまつわる現象は、驚くばかりである」


「うーん、これくらいの子を可愛い盛りっていうのかな。アプリコットはバンダ君に任せっきりだったし、次の娘が楽しみだよ」



 カトレアさんがそんなことを言いながら、下腹部にそっと手を当ててる。もしかして、おめでたですか?



「神樹様の意識体というのが信じられないほど、人の子と変わらない姿をしていたから驚いた。やはりこれもダイチの影響なのか?」


「物に宿る心、人と変わらない。主様(ぬしさま)それを認めてる。今の姿になれるの、そのおかげ。きっとこの子も同じ。親近感、覚える」


「あすおねーたん、なでなできもちいい」



 そういえばアスフィーが擬態できるようになったきっかけは、僕が魔剣の人格を認めて仲良くしようと思ったからだ。そしてエヨンで神樹がお礼をしてくれた時も、同じ気持ちになっている。だからその種から生まれたユグが、こうやって人と同じ姿になれたんだろう。


 でも、なんで二人とも女の子なのかな。

 僕の変な願望とか入ってないよね?


 まあ頭を撫でられニコニコしてるユグも、ちょっとお姉ちゃんぽく振る舞ってるアスフィーも可愛いから、細かいことはどうでもいい。可愛いは正義だし!



「私がエルフ族でなかったら、もっと早くダイチの子を授かれたかもしれない。そう思うと少し残念だ」


「確かエルフ族って妊娠しにくいんだっけ?」


「種族が違う者同士だと、特にその傾向が強くなる。エルフ族の男性が、多くの女性と関係を持ちたがるのも、ある意味本能と言っていい。私は気に入らんがな」


「そのへんは人魚族と逆だね。まあ、私たちは女の子しか生めないから、どんどん子供を作っていかないと、絶滅しちゃうんだけど」


「シアの子供だと女の子はエルフ族、男の子は人族になるのかぁ。ダイチとの子供だったら、どっちも可愛くなると思うよ!」


「おっぱいが大きくなるよう、俺様が立派に育ててやるぜ」



 なんか女性同士で、赤裸々な話をし始めちゃったな。男の僕は会話に混ざりにくい。どんな状況でもぶれないクロウは、少しだけ尊敬できる。



「この子が影の中で生活できるのか、また検証しないといけないわね」


「勝手に家族を増やしちゃってごめんね」


「ふん。下僕(げぼく)のやらかしはいつものことだもの、今さらどうってことはないわ。それにニナの姿を見てみなさい。あの二人を引き離すなんて非道な真似、できると思う?」



 確かにこれは無理だ。もしユグを置いていかないとだめな状況になったら、今のニナだとアイリスより子供を優先しそう。



「ありがとう、アイリス。みんなでゼーロンに行けるといいね」


「主人としての務めなのだから、お礼なんて不要よ。そもそも神樹であるこの子は、イルカ島のシンボルと言っていいわ。なにせ吸血族が支配する島を、象徴する存在なのだもの。それをずっと手元において置けるなんて、最高じゃない」



 照れ隠し気味にまくし立ててくるけど、やっぱりアイリスは家族思いで優しい。バンダさんが生暖かい目で、こっちを見てるよ!



「おかーたん、ごちそうさま」


「……もうお腹いっぱいになった?」


「あい!」


「ごちそうさまの挨拶ができて偉いねユグは」


「おとーたんとのやくそく、ちゃんとまもゆよ」



 飲み終わったコップをニナに渡し、得意げな顔で僕の方を見てくる。これは頭を撫でてあげるしかない。それにしてもこのアホ毛、いったいどんな仕組みで形を保ってるんだろう。撫でると他の髪の毛と一体化するのに、すぐぴょこんと跳ね起きてくる。


 房状になった髪型のせいで独特の手触りだけど、一本一本は子供特有の柔らかヘアだ。それなのにゴムのような特性があるなんて面白い。この謎を解き明かしたくなる気もするが、気持ちよさそうにしてる姿が可愛いから、細かいことはどうでもいいや。


 やっぱりこの子の笑顔は、リナリアと別のベクトルを持った癒やしだ。二人が並んで笑うと相乗効果を生み出し、癒やしの奔流(ほんりゅう)ってやつが生まれそう。あらゆる悪意を浄化する、最強のコンビになれるぞ、きっと。


 ウーサンに巣食っていた邪神のような存在も、それで倒せたりして?



「アイリスお嬢様、ダイチ様。ナーイアス様がお越しになりました」



 そんなことを考えてたら、イチカが来客を告げに来た。後ろから現れたのは、洋服に身を包んだナーイアスさん。今日は白い長袖シャツに、水色のサロペットスカートか。清楚な感じの服装は、なんでも似合うな。



「わざわざここまで足を運んでもらってすいません」


「いえいえ、問題ありませんよ。この子が神樹のあるこの島から、どれくらい離れられるのか、まだわかりませんからね」


「あっ、みずのおねーたん!」


「はい。わたくしが水のナーイアスです。よろしくおねがいしますね」


「なーおねーたん! あたし、ゆぐ」


「思っていた以上に可愛いですね、この子。わたくしもいずれダイチさんと……」



 なにを口走ってるんですか、ナーイアスさん。この前、子供を授かるのは無理とか言ってませんでしたっけ?



「マスター。四人目はユグちゃんみたいな子がいいです」



 スズランまでなに言い出すの!?

 最初がシアみたいな子で、次がアスフィー。そしてリナリアが増え、今度はユグ。僕はどれだけ頑張らないといけないんだろう……


 バンダさんみたいに腰を痛める未来しか見えないけど、とりあえず本題を聞こう。



「えっと、エアリアルさんはなんと言ってました?」


「〝面白そうだから頑張って育ててね、近いうちに見に行くよ〟だそうです」



 イグニスさんからは「火とか苦手そうだから、ちゃんとあたいのことも説明しておけよ」で、テラさんからは「ここの温泉に入れてあげるとぉー、喜ぶんじゃないかなぁー」とのことらしい。特殊な環境すぎるこの島と僕という存在があるから、みんな普通の出来事として受け止めてるそうだ。


 擬態できる意志ある道具インテリジェンス・デバイスと同じ扱いをされてるけど、いいのかな。


 どちらにせよ、土地神たち全員に受け入れてもらえてるし、この子はここで育てていこう。



◇◆◇



 当然そうなるとは思っていた。

 なにせ二人の間にできた子供として、家族になったのだから。



「……ダイチさんと一緒のベッドに寝るなんて、夢にも思ってなかった」


「使い魔は睡眠の必要がないって言ってたけど、いつもちゃんと寝てるんだよね?」


「……うん。自我を持ってから、毎日寝るようにしてる。だけど、夜中にふと目が覚めちゃうことって、結構あるんだ」



 どうやらちょっとした物音や、何かの気配を感じて目が覚めてしまうらしい。その原因は森にいる動物とか、風音(かざおと)や建物のきしみだ。なのでアイリスの影の中にいる時は、目が覚めにくいんだとか。



「僕が隣りにいたら、眠れなかったりしないかな」


「……ちょっと緊張してるけど、たぶん平気。ユグちゃんが腕枕でぐっすり寝てるし、私も不思議と安心できる」


「なんか暗くなったら急に寝ちゃったよね」


「……やっぱり元が()だし、明るくないと元気でないのかも」



 テラさんの予想通り、温泉はすごく喜んでた。でもその帰り道の途中で日が沈み、あっという間に寝てしまっている。それこそ電池が切れるように意識がなくなったので、ちょっと怖かったよ。


 この様子だと日の出とともに起きてくるだろうし、これからは早寝早起きを心がけないとダメだな。



「僕が探索者を続けてるうちは、ユグを任せっきりにする事が多いと思う。ニナの負担を増やしちゃうけど、いいのかな」


「……夫の帰りを待つのも妻の務めだって、本にも書いてあった。だからダイチさんは、気にせず活動をして。私、頑張るから」


「急に子供ができちゃってわからないことだらけだけど、僕もできるだけ協力するよ。だからやって欲しいことや出来ることがあったら、遠慮なく言ってね」


「……イチカやミツバがいるし、始祖様も手を貸すって言ってくれた。みんなで力を合わせたら、きっとこの子も健やかに育つと思う」


「子育ての先輩が近くにいて、支えあえる家族に恵まれてるユグは、世界で一番幸せかも」



 その点でいえば、僕自身もすごく恵まれているだろう。違う世界からきた異物という存在が影響し、事あるごとに騒ぎを起こす僕を、気味悪がったり排除したりせず受け入れてくれている。


 全く違う環境に馴染めず孤立したり、異質な力のせいで迫害されたりする、そういった結末を迎える創作物やゲームは、枚挙に暇がない。でもここにいるみんなは僕のことを慕ってくれ、家族として受け入れてくれた。


 これがどれほど幸運なことかなんて、言うまでもないだろう。記憶のことはいったん置いておくとして、身の振り方をそろそろちゃんと決めないと……


 そんな決意をしながら、隣で横になっているニナの頭をそっと撫でる。



「……本を読むだけじゃ良くわからなかったけど、これが女の幸せなんだね。お嬢様の使い魔として生まれて、ダイチさんやみんなに会えて本当に良かった」


「僕もだよ、ニナ。みんなと出会えて本当に良かった」



 ユグが枕にしている腕の余った部分を握り、ニナがとても優しい顔で微笑む。しばらくそのまま撫でていると、静かな寝息が聞こえ始めた――




―――――・―――――・―――――




 その日のニナは、一度も目を覚ますことなく眠れたそうだ。すごく喜んでたし、できるだけ一緒に寝る時間を、増やすようにしよう。


 こうして僕たちの家族に、神樹の意識体であるユグドラシルが加わったのであった。


ニナがここまで正統派ヒロイン化していくとは、このリハクの目をもってしても!!


◇◆◇


次回は毎度おなじみ幕間の資料集。


去年に引き続き、今年も年末年始にかけて執筆時間の確保が難しくなります。

お楽しみにしていただいている方には申し訳ないですが、次章より更新は土日だけになる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ