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閑話23 それはそれ、これはこれ

 学園島の地下にある祭壇へ戻ってきたナーイアスは、バンダの使っていた私室へ行きソファーに腰掛ける。大地(だいち)との初デートを思う存分満喫し、ふわふわとした気持ちで今日の出来事を反芻(はんすう)していた。その表情がだらしなく緩みかけた時、エアリアルの声が耳元に響く。



『やっほー、ナーイアス。ダイチとのお出かけ、どうだった?』


「今それを思い出して、幸せな気分に浸っていたところです」



 そんな至福のひとときを中断され、いつもどおりの顔に戻ってしまう。少しだけ残念な気持ちになるが、今のナーイアスはその程度で気分を害したりしない。なぜなら、いわゆる〝ヘブン状態〟というやつだからだ。もしここに背景があれば、虹色に光っていたであろう。



『お前のことだから、今夜もあいつらの家に泊まるのかと思ってたぞ』


「さすがに本殿を長期間留守にするわけにもいきませんし、ここでないと念話も出来ませんからね」


『イルカ島でもかなりの力が受け取れるってのに、確かに不思議だよな』


『きっと私たちの存在がぁー、その場所に刻まれてないからだと思うよぉー』



 四人は事前に示し合わせ、イルカ島で何が出来るかを検証していた。いろいろ試してみた結果、本殿とほぼ同じことが出来るにも関わらず、唯一使えなかったのが念話である。その理由はテラの推測どおりだ。



「そうそう。今日ダイチさんに高台まで連れて行ってもらったのですが、眺めもよくて素晴らしい場所でした。今度はみんなで行きましょうね」


『それで、どうだったの? キスできた? それとも、もっと先まで……』


「いえ、二人でお弁当を食べさせあったり、並んで座りながらお話ししたり、穏やかな時間を過ごしただけですよ」


『なーんだ、つまんないなー。ナーイアスはそんなんで満足したの? あんなにアプローチしてたのにさ』


「肌を重ね合うだけでは得られない、もっと深いつながり方をダイチさんに教えてもらいましたので」



 ナーイアスはダイチの胸に抱かれて寝落ちしてしまったことや、膝枕でも同様のことがおきたと話を聞かせていく。そしてテラという名前が羨ましく、嫉妬に近い感情を持っていたことも打ち明ける。



『この名前は私のだしぃー、気に入ってるからあげないよぉー』


「わたくしのナーイアスという名前も、ダイチさんから頂いた大切なものですから、手放したくはありません。そして好きという気持ちは、一方的に押し付けるものではないと学びました。もうテラのことを羨むような感情に、流されたりしないと思います」


『なんかナーイアスがぁー、急に大人びちゃった感じがするよぉー』


『それなら今までみたいに、ダイチにグイグイ迫ったりしないんだ』


「いえ、それはそれ、これはこれです。ああした掛け合いは、ダイチさんとの大切なコミュニケーションですから、これからもやっていきますよ」



 とはいえ、ここ最近顕著に出ていた捕食者の目をしなくなり、大地も軽く受け流すようになるのだった。やがて二人のやり取りは夫婦漫才(めおとまんざい)として、周りにも認識されていく。



『しっかし、あたいたちが誰かに身を委ねて寝ちまうなんて、普通はありえないよな。昨日なんか寝転びながらオルテンシアと話してたら、いつの間にか熟睡しちまってたぜ』


『確かにそうだよね。昨夜(ゆうべ)はリナリアちゃんとアプリコットに挟まれて寝たんだけどさ、一度も目を覚まさなかったもん』


『私はカメリアちゃんとぉー、クロウを挟んで寝たんだけどぉー、朝まで爆睡できたよぉー』



 実は二人のおっぱいサンドで、クロウが成仏しかけたのは余談である。



「あなたはどんな環境でも寝られるじゃないですか」



 ナーイアスのツッコミに、他の二人が一斉にうなづく。怠惰の化身であるテラを除き、過剰ともいえる力を受け取れるようになった土地神には、本来なら睡眠の欲求は生まれない。



「でもそうですね。わたくしも二度続けてダイチさんに、あられもない姿を見られていますので、確かに不思議です。あの環境、もしくはダイチさんと繋がりのある彼女たちには、なにか特別なものがあるのでしょうか」


『そりゃどう考えたってダイチの影響だろ。そもそもあいつは越境人(えっきょうじん)だしな』


『それならさぁー、あの子たちが言ってた黒い精霊もぉー、ダイチがこの世界に来た影響で生まれたのぉー?』


『それは違うんじゃないかな。迷宮解放同盟の動きが活発化したのって、ダイチがこの世界に来る前だって、アプリコットが言ってたし。ただ黒い精霊の生まれた理由に、スズランが関わってるかもしれない』


「白い精霊だったスズランと黒い精霊は、表裏一体の関係ということでしょうか?」


『そこまでは断言できないけど、白い色した子って人の心に寄り添う精霊じゃん』



 精霊にも心はあるが、最初はかなり未発達だ。契約主が出来ることで成長し、上限に達した殻を破るため進化石を使う。その結果、微精霊から上級精霊へ進化するに従い、体型が人の姿へと近づいていく。


 元々白い精霊は心に特化した種類だが、スズランは人と変わらない姿になるという究極進化を遂げた。それは大地のもとに現れたときから、特殊な存在だったからではないのか。なにせ彼女は契約石なしで、大地をマスターとして認識し、付き従っている。もしかするとそんな個体が生まれた反動で、心を持たない黒い精霊が現れたのかもしれない。


 エアリアルは自分の考えを、他の三人に伝えていった。



「それなら逆の可能性もある、ということになりませんか?」


『今の段階で因果関係が全くわからない以上、その可能性だって十分考えられるよ。なにせまだ情報が少なすぎるし、私たちが直接その黒い子を見たわけじゃないからね。だからこの話は、ここだけにしといて』



 エアリアルの言葉に、他の三人はそれぞれ同意を返す。



「もし迷宮解放同盟と呼ばれている組織に、複数の黒い精霊が存在するとすれば、逆にスズランと同じ進化ができる白の精霊も、他にいるかもしれないということですか……」


『もし(つい)になって生まれるのなら、同じ数だけいるかもね』


『ただ普通の連中は、白の精霊なんか育てないからな。検証のしようがないぜ』


『大精霊様がいればぁー、こんなに悩まなくても済むんだけどねぇー』



 どちらにせよ、あそこまで高位の存在になるには、大地のような人物がいないと無理だろう。四人の考えはその点で一致する。


 それぞれどんな夜を過ごしたのか、雑談も交えながら念話は続いていく。やがて四人だけで議論するより、また全員で集まって話し合うほうがいい、顔を突き合わせたほうが話も弾むし、なのよりあの島には吸血族の始祖まで住んでいるのだ。彼の意見を聞けば、新たな知見も得られるだろう。話が一段落したところでイルカ島訪問の日取りを決め、その日の念話は終了したのであった。




―――――・―――――・―――――




 皆が寝静まった深夜のイルカ島。

 地脈の力で大きく成長した神樹の根本が、脈打つように光り始める。鼓動のような明滅は徐々に速くなっていき、やがて樹木全体が光りだす。再び光が根本へ収束していくが、その形は胎児にそっくりな姿へ変化していた――


あからさまにフラグを立てておきます(笑)

次回「第10話 進化する使い魔」をお楽しみに!

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