第5話 神像完成
上級探索者の証である金色のブレスレットを、ウーサンの探索者ギルドで交付してもらったあと、僕たちはエヨンまで転移してきた。完成したナーイアスさんの像を受け取るためだ。目立つ色のブレスレットを付けてるので注目されているが、声をかけてくる人は今のところいない。
なにせ地味な格好をして軽く変装していても、目ざとくリナリアを見つけ出すファンがいる。そんな人たちが近づくことを躊躇う抑止力になるなら、リナリアは今まで以上に自由な生活ができるだろう。
「しかし、人のことを悪魔などと、失礼にもほどがある」
「二つ名なんて他人が面白おかしく付けるものだもの、気にするだけ無駄よ」
「だが悪魔などと言われる筋合いはない! 私のどこにそんな要素があるというんだ」
強力な範囲魔法を連射できる辺りかな。なにせ僕とミカンが使う特級魔法より、範囲と威力があったりする。それに精度も桁違いだ。目立つ活動はしてないつもりだけど、やっぱり誰かの目にとまることは避けられない。そんな目撃情報に尾ひれがついて、大げさに伝わってるんだと思う。
「多分シアの魔法を見た人が凄い使い手がいるって誰かに伝えて、それが広がっていくうちに悪魔のような強さを持つ魔法使い、みたいに変化したんじゃないかな」
「まったく、迷惑な話だ……」
「ボクの撲殺天使って名前は、ちょっとかっこいいから好きだな」
「俺様と一緒に風呂へ入ってくれる、天使のように優しいご主人さまだから、最高に似合ってるぜ」
本人が気に入ってるんなら、僕の方から何も言うことはない。だけど、謎の擬音にだけは気をつけてね!
「リナリアのは普通だったの」
「青の癒やしって、リナリアにぴったりだと思うよ」
「お兄ちゃんにそう言ってもらえると、好きになれそうなの」
なにせ存在自体が癒やしだからな、この子は。近くにいるだけで、その場が和む。
「私は誰にでも優しく出来るわけではありませんから、過ぎた二つ名をいただくのは心苦しいです」
「そんなおっぱいを持ってるんだ、蒼銀の聖母とか言われるのも仕方ないだろ」
「外面だけしか見ていない言葉に価値なんてないわ、好きに言わせておけばいいのよ。なにせ断トツで優勝なのは、下僕に付けられた〝人魚の餌〟なのだから」
ちょっと受付嬢にちやほやされたからって、一体誰だよこんな酷いこと言い出したのは!
まるで僕が食べられるみたいじゃないか。どちらかと言うと、いただきますする方になりたいです。
だけどさすが黒の女王様。僕の触れてほしくない所に、容赦なく切り込んでくる。その二つ名、アイリスにぴったりだと思うよ。
◇◆◇
知らない間に付けられていた二つ名の話題で盛り上がっていたら、目的の店が見えてきた。中に入って挨拶すると、やり遂げた男の顔って感じのバンブーさんが、こっちを見てサムズ・アップしてくれる。
「こんにちは」
「待ってたぞ。俺が今まで作った像でも最高の出来だ。向こうの作業場に置いてあるから、一緒に来てくれ」
案内された場所にはあったのは、布をかけられた状態の像だ。少しもったいつけるようにバンブーさんが布を取ると、真っ白な石で作られたナーイアスさんの姿が現れた。さすが自画自賛するだけあり、見事に再現された像を前にして、みんなが息を呑む。まるで本人がそこに立っているのと変わらない、オーラみたいなものが感じられる。
「これは、凄いですね……」
「ナーイアス様が目の前にいらっしゃるみたいです」
「うむ、見事なものだな」
「私の幻影をあれだけ観察したかいが、あるってものね」
「うわー、色が違うだけで、これ本物のナーイアスさんだよ」
「固くて揉めない以外、全く同じおっぱいだぜ!」
「これならナーイアスさんも喜んでくれると思うの」
僕たちの感想を聞いて、バンブーさんが得意げな顔になった。これだけものもが作れるんだから、武具や魔道具でなくても[工匠]や[名匠]になれるんじゃないだろうか。場合によっては一番上の[巨匠]すら有り得そう。イグニスさんにこの像を見てもらった時、どの程度のランクなのか聞いてみたい。
「それからこっちも見てくれ。量産する予定になってるミニチュアの試作品だ」
棚から取り出してくれたのは、三頭身弱のフィギュアだ。四人の女神像の下にはそれぞれ丸い台座があり、名前の刻まれたプレートが垂直に立っている。こっちはかなり簡略化されてるとはいえ、見事に四人の特徴が再現されていた。
「これ、すごく可愛いですよ!」
「実際に作ってみるまでは半信半疑だったが、これは今までにない全く新しい表現方法だ。土地神たちに許可をもらってくれたこと、感謝するぞ」
ナーイアスさんを通じて全員の意見を募ってみたけど、満場一致でフィギュア製作にゴーサインが出ている。それをバンブーさんに伝えたら、神像と並行してそっちも作ると言って張り切りだす。もしかすると、ほとんど寝てないんじゃないだろうか。よく見たら目の下にクマができてるよ……
こっちの出来もみんなに褒めてもらって嬉しそうだし、多少の無理なんて問題にならないほど職人としての幸せを感じてるのかも。
「それから、お前たちにこれをやるよ。四体の元になった原型だ」
「原型を渡してしまうと、型が作れなくなりませんか?」
「いや、こいつはちょっと作り込みすぎてな。ここからもう一度複製を作って、そいつを新たな原型にしてる。だから持っていっても大丈夫だ」
確かに試作品と比べてみたら、服のシワや髪の造形がより細かい。あまりに細かったり薄い部分があると、強度的な問題が出るから没になったんだろう。
「そういうことでしたら、ありがたくもらっておきます。本人たちにも見せてみますので、また感想を伝えに来ますね」
「是非そうしてくれると、ありがたい。お前たちのおかげで、自分の仕事に自信が持てた。これから先、どんな要求でも応えてやる。頼りにしてくれ」
ナーイアスさんの像をリョクに収納してもらい、僕たちはバンブーさんのお店をあとにする。そしてイグニスさんから原初の炎を組み込んだランタンを預かり、急いでイルカ島まで転移。ランタンはすぐ祭壇に奉納しないと、その力が失われてしまうそうだ。
自分の像を見て感動するナーイアスさんに、水を生み出すアイテムを組み込んでもらったら、神樹のある広場へ行って池に設置する。するといつの間にか、その場所にはテラさんの祭壇が完成していた。
だけどこれ、石棺だよね?
いくら寝ることが好きでも、いいのかなこれで……
とにかく分社の準備は全て整った。
あとは地脈の力が祭壇や神樹に十分行き渡れば、いよいよ聖域の完成だ。
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~
次回は土地神が大集合。
「第6話 風の通り道」をお楽しみに。
(有名なBGMのタイトルですw)