第4話 ご自由にご賞味ください!
聖域化の準備に追われていたある日、探索者ギルドから呼び出された。ウーサンにある大きな建物へ入ると、受付嬢たちの視線が一気に集まってしまう。今回の用向きを考えると仕方ないんだけど、ちょっと恥ずかしい。他の探索者たちが何事かとざわつく中、フロア主任の女性がこちらへ近づいて来る。
「天空の翼の皆様、お待ちしておりました。あちらの窓口へお願いします」
この国で活動するようになってから、何度もお世話になっているお姉さんの案内で、指定された窓口へ。
一般的なギルド職員は総じてドライで、大抵のことは自己責任として片付けられてしまう。だけどこの人は、ずっと僕たちの身を案じてくれている。まあパーティーメンバーに歌姫であるリナリアがいるので、みんな優しくしてくれるんだけど。
「皆様の腕輪をお預かりしても、よろしいですか?」
いつものフランクな口調と違い、事務的な対応をしてくれる主任にうながされ、全員分のブレスレットをカウンターに並べる。すると他の受付嬢たちと手分けして、それぞれのカウンターに設置してある、魔道具の中へ入れ始めた。
「こちらが新しい腕輪になります。おめでとうございます、上級探索者へ昇格です!」
新たにカウンターの上へ並べられたのは、金色をしたブレスレットだ。エヨンの迷宮でミスリル・ゴーレムの集団を倒した時、ドワーフ族の探索者に太鼓判を押してもらったけど、本当に昇格が決まってしまう。その手続をしに、今日はギルドを訪れたってわけ。
「うおー、すげー。あの若さで上級か!」
「ここの迷宮でモンスターを乱獲しまくったらしいぞ」
「たしか白い悪魔がどうとか……」
「赤い撲殺天使も出たらしい」
ちょっ、なにその二つ名。トリコロールカラーのロボットや、どっかの魔砲少女じゃないんだから、やめてあげて。それに魔剣の性能があるから何でも粉砕できるだけで、持ってるのはトゲ付きの金属バットじゃないよ!?
他にも〝黒い女王様〟や〝青の癒やし〟とか言われてる。あれ? もしかして、僕にはそんな名前ついてないのかな。いや、欲しいわけじゃないんだけど、一人だけ仲間はずれみたいなのは悲しい。パーティーリーダーなのに、どうして一番影が薄いんだろう。なんか鼻の奥がツンって、なりそうなんだけど。
「大丈夫ですよダイチさん。あなたは私たちギルド職員が実施した〝弟にしたい探索者選手権〟において、二位以下をダブルスコアで引き離す堂々の一位という、名誉ある称号を持ってますから!」
「えっ!?」
「デイジー先輩から聞きましたよ。年上好きのあなたにとって、当ギルドは楽園ではないでしょうか? 誰が選ばれても恨みっこなしだと話はついてます。さあ、ご自由にご賞味ください!」
「しませんよ、そんなこと!」
「お兄ちゃんは、誰にも渡さないの! シアちゃんやお姉ちゃんがいるから、取っちゃダメなの!」
人魚の涙については伝わってない感じだけど、なにを吹聴してくれやがったんですか、デイジーさん。こんど会ったら絶対に抗議してやる。そもそも僕は年上好きではありません。大事なのは気持ちと相性なんです。
第一このフロアには、僕より若い職員が大勢いる。年齢も登録してるんだけど、あくまで自己申告だから信用されてないのかな。年下扱いしないでください、これでも二十一歳なんですから!
「ちくしょー、なんであいつばっかり」
「俺もちやほやされたい……」
「絶対に上級探索者まで上り詰めてやる!」
「みんな頑張ろうぜ!!」
「「「「「ちやほやされるためにっ!」」」」」
モチベーションが上がるのは、探索者にとっていいことだと思う。だけどその目標は、なにか間違ってる気がする。確かにクランを作ってるような人って、ハーレムがセットになってるけど……
「特にリナリアちゃん。現役の歌姫で上級探索者になったのは、史上初だからね。あなたは私たち人魚族の英雄なんだよ」
「えっと、ありがとうございますなの。お兄ちゃんやお姉ちゃんたちと、一緒に頑張ったおかげなの」
「あなたの大切なお兄ちゃんは、誰も取ったりしないから安心して。潤いが少ないこの職場では、これくらいしか楽しみがないの」
だからって僕をダシにしないで欲しいな。最初はよそ行きの対応をしてた受付嬢も、すっかりいつもどおりの態度に変わってきた。それに他の人も含めて、みんなテンションが高い。上級探索者が生まれるって、それくらい大きなイベントなんだ。
「皆さんの期待に応えられるよう、これからも頑張りますね」
「特級探索者からも珍しいんだけど、エルフ族から推薦してもらえるなんて、すごく異例なことなんですよ。ダイチさんたちなら活躍間違いなしだと思いますので、今後ともウーサン探索者ギルドを贔屓にして下さい。職員一同、応援しています」
実は上級へ上がる場合、上位探索者十人以上からの推薦が必要になる。
エヨンの迷宮へ行った帰りに探索者ギルドに寄ると、ブレスレットに記録された討伐記録が上級昇格の基準をクリアしてた。そんな話を受付嬢から聞いている時、ちょうど迷宮内で出会ったドワーフ族のパーティーと遭遇。その場で推薦してやるって話に。
あの階層まで怪我一つなく来られる実力や、ミスリル・ゴーレム討伐の手腕を評価してくれたからだ。おまけに武具の性能頼みでないことも、証言してくれている。なにせ魔剣や服に施されてる付与は、その人たちに全部知られてるしね。
そして昇格審査の情報は各国のギルドへ通知されるため、知らせ受けた大勇者と大賢者に加え特級探索者のファンガスさんが名乗りを上げ、なんとエルフ族の長老三人からも推薦してもらえた。これで合計十二人なので、条件達成ってことになり、探索者ギルドから連絡をもらう。その結果がこれだ。
「ともかく、これからは活動拠点を移す場合、必ず双方の探索者ギルドへ報告して下さい。迷宮へ入る場合と帰還時にも、届け出は必須となります。破るとペナルティーがありますので、お気をつけを」
他にも指名依頼を受ける場合の注意点や、緊急依頼の参加義務など細かい説明も受けた。色々と責任や義務も発生するけど、そのぶん報酬は破格になる。この辺りはみんな納得済みで昇格しているから、問題はない。当面は今までと変わらない活動ができるしね。
なにせ僕たちのパーティーには、歌姫という特別な存在がいるからだ。リナリアが現役でいる間は、芸能活動のほうが優先される。
なにか用事を押し付けられそうになっても、「仕事あるんで」と言えば逃げられるアレと同じ。
パーティーリーダーである僕が童顔なため、やたら格下に見られることが多い。金色のブレスレットを付けていると、変に絡まれることが減るというメリットを、思う存分活用させてもらおう。
ツヴァイヘンダー型魔剣「エス○リボルグ」
(粉砕バットも混ざってる)
次回は神像を受け取りにエヨンの街へ。
「第5話 神像完成」をお送りします。