第3話 スパっとスパSUPAっ♡
ミスリル・ゴーレムの群れがだいぶ近くまで迫ってきた。このモンスターは重量のある身体を支えるため、足が短くて移動速度が遅い。なにせあまり俊敏でないドワーフ族でも、逃げ切れるくらいだ。
「よし、みんないくよ!」
「あれだけいればレアアイテムを落としそうね、楽しみだわ」
「リナリアも頑張って応援するの!」
「まずは私が足止めしよう」
〈地面の段差〉
リナリアの歌声が迷宮内の広場に響き渡り、シアの設置型範囲魔法が発動する。本体に魔法が効かなくても、足場を崩してしまえば話は別。不規則に隆起した地面で足を取られたミスリル・ゴーレムが、まとめて将棋倒しになってしまう。
「なんだあの魔法、見たことないぞ!」
「地面に干渉してるのか!?」
「だが、すぐ起き上がってくる。どうするんだ?」
「心配いらないわ、おとなしく見てなさい」
〈影縫〉
アイリスの影縫も上達して、複数の敵をまとめて足止めできるようになっている。起き上がろうと藻掻いていたモンスターは、糸で縛り付けられたように動けなくなった。
「今のうちに倒していこう」
『ごはん、いっぱい』
「ボクは右からいくね。どっちがたくさん壊せるか、競争だよ!」
魔剣を顕現させたカメリアが、モンスターに向かって疾走していく。僕も負けないように走っていき、アスフィーをゴーレムの首筋に振り下ろす。
――スパン!
金属のような素材でできた首が、ほとんど抵抗なく斬れてしまう。この子が持ってる[切断]は、単に硬いだけのものに対して、絶大な効果を発揮する。逆に力を分散させてしまうようなものは少し苦手だ。
弱点である部分が傷ついたミスリル・ゴーレムは、一瞬で光になって消えていった。そこに残されているのは、体の色と同じ青白い金属塊。ほんの数センチしかない小さなものだけど、これを大量に集めて精製するとミスリルインゴットになる。
付与との相性が非常に良く、それでいて強度も高い。高級な武具には必ず使われる定番金属なのは、この世界でも同じだった。鍛冶職人であろうドワーフ族がここで活動しているのも、これが目当てだろう。
「あの魔剣、幻想級の意志ある道具!」
「しかもさっきまで擬態してやがった」
「見たことない付与が付いてるぞ!?」
「あっちの魔剣もそうだ、ミスリル・ゴーレムを粉砕してる」
「あんな武器、俺も打ってみたい……」
「ちょっと触らせてもらえないだろうか」
さすがドワーフ族、目の前の光景より武器の方に興味津々だ。【鑑定】スキルを持ってる人には、武器の性能がある程度わかってしまうしな。
『主様、よそ見ダメ。カメリアに負けてる』
「あっ、そうだね。もっと集中するよ」
ゴーレム系は大きいものが多く、いま倒しているのも三メートル近い高さがある。なのでシアの魔法で転倒させ、アイリスのスキルで拘束する作戦を立案。カメリアの魔剣みたいに叩き壊すのならまだしも、アスフィーだと手数が必要になってしまうからだ。まさかこんな大量に出てくるとは思わなかったけど、事前に打ち合わせをしておいて大正解だった。
◇◆◇
影縫の拘束時間が切れる前に、全てのミスリル・ゴーレムが光になって消えていく。僕の方にレアアイテムは出なかったけど、カメリアはどうだろう?
あっ、ブンブン揺れるしっぽが幻視できそうなほど、手にしたものを勢いよく振っている。直径が十センチ近くあるんだから、すっぽ抜けて飛んでいっちゃうよ。嬉しいのはわかるんだけどさ……
迷宮の光を反射してキラキラ光る半透明の玉が、イグニスさんに頼まれていた〝ゴーレムの宝珠〟だ。なんでも鮮度が大事だと言ってたし、時間停止収納を持ってるラムネに預かってもらおうかな。
「お前ら凄いな!」
「よかったらその魔剣、見せてくれないか?」
「ちょっとだけ触ってみたいんだが……」
「ダメ。主様とつながりのない人に、触られるの嫌」
人の姿に変わったアスフィーが、僕の背中にぶら下がってしまう。
「変わった格好をした子供だと思ってたが、まさか擬態した魔剣だったとは」
「やはり意志ある道具は気難しい」
「そういえば儂の祖父が持っていた魔鎚も、絶対に触らせてもらえなんだな」
離れた場所で見守っていたドワーフ族の人たちが、僕とカメリアの周りに集まってきた。付与されてる効果や、どこで手に入れたのかとか聞いてくる。なんかそっちの興味ばかりで、精霊やリナリアのことを無視してくれるから、かえって助かるかも。
そんな質問に答えていたら、一番年上っぽい人が上目遣いで僕を見つめだす。至近距離で対峙してわかったけど、歳を取ると髭だけでなく眉毛も長くなるんだな、ドワーフ族って。遠目だと、全部一体化して見えるんだよ。
それにしても、なにか伝えたいことがあるなら、遠慮なく言って下さい。さっきまであれだけ質問攻めにしてたくせに。そもそも男の人にそんな顔されても、ときめいたりしませんので!
「……一つ相談なんだが、もしよければドロップアイテムを売ってくれんか?」
「ゴーレムの宝珠以外でしたら構いませんよ。もともとギルドへ卸すつもりでしたから」
「本当か!? 直接取引だから、手数料分上乗せして買い取るぞ!」
アイテムが欲しいから、あんな顔してたのか。まさか迷宮内で持ちかけられるとは思ってなかったけど、お店との直接取引は禁止されてないので大丈夫だろう。自分たちの不始末を治めてくれた礼だと言って、ちょっと色もつけてもらえたしラッキーだ。
「こんな短時間で、この数が手に入るとは」
「世話になったな、礼を言うぞ」
「魔剣を使いこなしとるし、見どころのある若者に出会えて、儂は嬉しい」
「お前たちなら、すぐ上級に上がれるだろう」
「迷宮内で歌姫の声楽が聞けるなど、今日は実に良い日だ」
「俺たちの店にも来てくれよ、安くしてやるからな!」
「みなさんも気をつけてくださいなの」
「「「「「「おう! それじゃあな」」」」」」
思いがけない出来事のおかげで、予定よりはるかに早くアイテムが手に入った。これをイグニスさんに渡せば、聖域に必要なものはほとんど揃う。神像が完成する頃には池の工事も終わってるだろうし、あとはテラさんがどれだけ頑張るかにかかっている。
ナーイアスさんによると、カメリアに会いたい一心で気合を入れまくってるみたいだから、心配はいらないはず。
最初に聖域化計画を聞いた時は驚いたけど、アイテムを集めたり作業を手伝ってるうちに、なんだか楽しみになってきた。あの小さな島がどんな発展をするのか、早く帰って自分の目で確かめよう。
ちなみに倒した数の勝負、僕が二十六体でカメリアが二十九体でしたとさ。
密集しすぎて正確な数がわからなかったけど、全部で五十五体だった模様。輝力が大量に溜まったし、多額の現金収入もあった。僕たちはホクホク顔で迷宮をあとにする。倒した数で負けたアスフィーが、ちょっと悔しそうだったけど……
幕間の資料集にも記載しますが、ドワーフ族のパーティーがゴーレムを一気に目覚めさせたのは、新型爆弾の実験に失敗したからです。加えて、仲の良いドワーフ族同士は迷宮内でドロップ品の融通をしあうので、現金も持ち歩いています。
◇◆◇
次回はウーサンの探索者ギルドから呼び出しを受ける主人公たち。
そして知らない間につけられていた二つ名とは!?
「第4話 ご自由にご賞味ください!」をお楽しみに!