第1話 これは埴輪ですか? いえ、粘土人形です
第11章の開始です!
聖域の完成が主人公たちに、様々な変化を与えていきます。
進化するイルカ島のはっちゃけぶりをお楽しみ下さい。
内題や章タイトルも自重してません(笑)
エヨンの街をゆっくり歩くのは初めてだけど、どっちを向いても工房だらけだ。もちろん生活必需品を取り扱ってる店や、宿屋なんかも数多くある。でも食堂のメニューに魔道具が併記されてたり、衣料品売り場に武器や防具が並んでたりするのは、ここエヨンでしか見られないだろう。
この国に来たのは水の祭壇を作るのに必要な、等身大の像を発注するため。そこに〝水龍の髭〟という、鯉によく似たモンスターが落とすレアアイテムを加工して埋め込むと、水の流れ出す像になる。
ウーサンの迷宮でキング・カープを乱獲してアイテムを集め、それをナーイアスさんに渡してきた。巨大な池のあるマップで、僕とシアが広域雷撃魔法を発動。浮かんできたモンスターを倒していくという、簡単なお仕事です。
それに数日かけて力を込めると、水を無尽蔵に生み出すアイテムへ変わるらしい。魔道具の作る水と違い、殺菌作用みたいなものがあるので、飲用には向かないそうだけど。
「前に買ったウサギ、すごく可愛かったし、また別の動物を増やそうかな」
「黒い鳥があったんだろ? 今度はそれにしてくれよ、ご主人さま」
「ダイチの部屋においている、茶色いネコも見事な造形だった。私もなにか買ってみるか」
いま向かってるのは、歌姫の祭典に露店を出していた、ドワーフ族のお店だ。あのイベントで店を出すには登録が必要なため、アプリコットさんに調べてもらったら店主の名前が判明。それを手がかりにエヨンの商業ギルドに問い合わせると、すぐに店の住所を教えてもらうことが出来た。なんでも職人直営店とのこと。
「リナリアも可愛いのが欲しいの。お姉ちゃんとお揃いで持ちたいの」
「二人で選びましょうね、リナリア」
「私は始祖様の像でもオーダーしてみようかしら」
二頭身のデフォルメフィギュアっぽいのとか作れないかな。元の世界では、色々なキャラクターが発売されてて、かなり人気があった。こっちの世界の人にもウケないだろうか。
「あのお店みたいだね、入ってみようか」
この街では軒先に商品を並べて売ってる店舗が多いけど、目的の店は一見普通の家みたいな作りだ。でもよく見ると窓越しに、動物の置物が顔をのぞかせている。
ドアを開けて中へ入ると、見覚えのある店員さんがカウンターの向こうに座っていた。
そこも作業場になっているらしい。動物だけでなく、植物や胸像っぽいのもあるな。この人になら安心して任せられそう。
「いらっしゃい! ん? ……見覚えのある兄さんだな」
「こんにちは、お邪魔します。ウーサンで露店をされていた時に置物を三つ買って、一つ値引きしてもらったんです。あの時はありがとうございました」
「あー、そうだった、そうだった。そっちにいる魔人族の子と、黒い服を着た子供の三人で来た客だ。同じ黒い服でもあの時の子供とは違うみたいだが、今日は一緒じゃないのか?」
僕たちのことを覚えてくれていた職人さんに、保護者に引き渡してから会ってないことを伝える。どうやらお店の前で、ロータスさんとカローラが再会できた場面を見たから、印象に残っていたみたい。
そして等身大の石像をオーダーできるか聞くと、金さえ出せば大抵のものを作れると、頼もしいことを言ってくれた。よく見るとこの人、五片のスキル持ちだ。確かドワーフ族って【鍛冶・加工・修繕・採掘・鑑定】が発現するんだったな。
「この像を作って欲しいのだけど、問題ないかしら」
「ほぅ。幻影の耳飾りを、ここまで使いこなせるとは、ただの子供じゃないってことだな」
「私のことは見た目で判断しないことね」
いま目の前には、水瓶を肩に担いで優しく微笑むナーイアスさんの姿が、映し出されている。さすが【鑑定】スキルを持ってるだけあって、アイテムが生み出した虚像だと、ひと目で見抜く。カウンターから紙の束とペンを取り出し、いろいろな方向からスケッチを始めた。絵も上手だな、この職人さん。
「しかし、えらく神々しい女性だな。おまえたちの知り合いなのか?」
「知り合いというか、ウーサンの土地神ですね。その像が完成したら、祭壇に奉納する予定です」
「なにぃ!? そんな物を俺に作らせようとしてるのか!」
僕の答えを聞いて、職人さんが厳しい表情になる。もしかして神像を作ったりするのは、タブーだったりするんだろうか。
「すいません、無茶なお願いでしたでしょうか」
「……ふっ、ふふふふふ。こりゃ俄然やる気が出てくるってもんだ! よし、俺の技術をすべてつぎ込んで作ってやる。最優先で完成させてやるから、楽しみにしておけ」
どうやら逆に、職人魂を燃え上がらせてしまったみたいだ。ものすごい勢いで、スケッチに細かな特徴を書き込み始めた。
「なんか凄いのが出来そうだね」
「おっぱいの形には、こだわってくれよ!」
「こんなに精巧な幻影を見せられたんだ、半端な仕事は俺の矜持が許さん」
だからって服の間から覗き込む必要はあるのかな。そもそも土地神に下着を付ける習慣はない。まさかそんなところまで再現してるとか言わないよね、アイリス。
◇◆◇
スケッチをしながら色々教えてもらったけど、この人の名前はバンブーさん。やっぱりまだ若いドワーフ族で、幼い頃から彫刻が好きだった。それで成人すると同時に、この店を開いたらしい。
お店の中にも大小様々なものが展示してあって、みんながそれを手に取りながら品定めしてる。熊とよく似た動物が、立ち上がって両腕を広げている像とか大迫力だ。鮭を咥えたポーズなんかも作って欲しい。
ただ武具や魔道具なんかと比べたら、市場ははるかに小さいとのこと。だから売上確保と知名度向上のため他所の国へ行って、お祭り会場とかに出店してるんだとか。
「この国にも土地神がいるんだが、女だからってバカにしたやつが昔いたらしくてな、それ以来竜の姿で現れるようになったんだ。きっとこんな美人なんだろうに、もったいない……」
どうやら土地神が女性だってのは、結構有名みたいだ。一部の職人が神を怒らせたので、竜の姿に化けるようになったと伝わってるらしい。今ではそんなことで見下す職人はいないみたいだし、このあと本人にも伝えてみよう。
「みんな綺麗なお姉さんなの」
「俺も会ってみたいもんだが、この手の作品で[工匠]や[名匠]を目指わけにもいかんのが残念だ。そうだ! 歌姫の像とか作ったらだめか?」
「リナリアは恥ずかしいから遠慮しますなの」
「そいつは残念だ。いつか四人の女神像とか作ってみたいぜ……」
この職人さんって、モノづくりにかける情熱がすごいんだよな。少し話をしただけでも、その熱意がビンビン伝わってくる。
以前ナーイアスさんと二人きりで温泉に入った時、自分たちの存在を土地神ではなく名前で認識して欲しい、そんな願いを言っていた。この状況をうまく活用できないだろうか。
「女神像を作っていいかどうか、国へ帰って本人たちに聞いてみます。そのことで少し相談があるんですけど、構いませんか?」
「女神像を作れるんなら、何だって聞いてやるぞ!」
「大きなサイズは作るのが大変ですし、材料費もかかってしまう。そこで像の高さを十セル程度に抑えて、頭と胴体の比率を一対一から一対二くらいにするんです」
頭を真円に近い形にし、胴体や手足をデフォルメする。元の世界にあった小さなフィギュアのことを、なんとか言葉にして伝えてみた。バンブーさんはそれを聞きながら、ラフスケッチを何枚も描いていく。
「そうです、そんな感じです」
「ここまで線や造形を省略しても、本人の特徴が出せるもんなんだな。それにこの大きさと精度なら、簡単に量産ができる。それこそ型取りして作ってもいいくらいだ。面白い、この話乗ったぞ!」
最初はリアルすぎて違和感があったけど、徐々にアニメキャラっぽい可愛らしさが出てくる。本当にこの職人さんは優秀だ。僕の拙い説明から、元の世界にあったものと遜色ない造形を、作り出してくれた。
「手のひらサイズのナーイアス様ですか。とても可愛らしいと思います」
「この大きさなら、部屋に複数並べてもいいな。私もちょっと欲しくなってきたぞ」
「始祖様の像も、このサイズでお願いするわ」
「これ、絶対に流行ると思うな」
「この大きさだと、おっぱいは諦めるしかねえか……」
「これで動物さんを作っても、可愛いと思うの」
「さすが歌姫、いいこと言うな! 今度それも試作してみるぞ」
みんなのウケもいいし、きっとこの世界でも人気が出るはず。土地神を信仰するような文化が無くても、みんなが女神像を飾れば同じような効果が生まれるかもしれない。それに名前の普及には一番効果があるだろう。ナーイアスさんたちに相談して、なんとかフィギュア製作の許可を取るぞ!
火の祭壇に必要な材料を集めに迷宮へと向かう主人公たち。
そしてイベント発生(お約束)




