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閑話22 聖域化計画発動

 アイリスの屋敷から持ち込んだベッドの上で、テラが大きく伸びをする。地脈の力を使って復元された祭壇は、以前より濃密な精気に満たされていた。そんな環境とベッドの魔力で、テラはずっと眠っていたのだ。



『聞こえますか、テラ。聞こえたら返事して下さい』


「んぁ~……誰ぇー? 耳元でうるさいぃー。あと五年寝かせてぇー」


『なにを言ってるんですか、あなたは。ずっと念話に応答がなかったのは、寝ていたからなんですね』


「だってぇー、あの子たちにもらったベッドがぁー、気持ちよすぎなんだよぉー」


『相変わらずあんたは、ぐうたらね。もっとシャキッとしなさいよ。あっ、私は風のエアリアルだよ、やっほー』


『ダイチたちから聞いてるだろ。あたいは火のイグニスだ』


『そして、わたくしが水のナーイアスです。やっと四人揃いましたね』



 四人目のつながりを感じ取っていたナーイアスは、頃合いを見計らって何度もテラに呼びかけていた。しかし何の反応もないまま一昼夜が経過。不審に思いつつ大地(だいち)と二人きりの温泉を存分に楽しみ、詳しい話を聞かせてもらう。そして間違いなく名付けが成功していることを聞き、心身共に充実した状態で念話を送ったのである。いわば念話で叩き起こしたと、言い換えてもよい。


 そんな事情を知らないテラは、眠りを妨げられてご機嫌斜めだ。



「なんでこの場にいないのにぃー、声が聞こえるんだよぉー。私の睡眠を邪魔しないでよぉー。もう百年くらい寝ちゃうぞぉー」


『待って下さい。テラにお願いしたいことがあるんです』


「えぇー、めんどいからやだぁー」


『あなたの大好きなカメリアに、いつでも会える計画ですよ?』


「よぉーし、頑張っちゃうぞぉー」



 事前に大地から詳しい話を聞いておいてよかったと、ナーイアスは小さくガッツポーズを取る。



『イグニスの力を使った魔人族の子か。またなんかやったの?』


「あの子のおっぱいがぁー、極上なんだよぉー。形も大きさも柔らかさもぉー、私の体にピッタリフィットするのぉー。あれは魔性のおっぱいだよぉー」


『お前……クロウって精霊獣と同じようなこと、言ってやがるな』


「あの黒い子はぁー、私のおっぱいが気に入ったみたいぃー。カメリアちゃんのおっぱいを借りるときはぁー、その子に私のおっぱいを貸してあげる約束したんだぁー」



 おっぱいおっぱいと連呼するテラの声を聞いて、他の三人はそっとため息をつく。精霊獣であるクロウが、人と契約を結んだ経緯は全員が知っている。今のテラは、まさしくそんな状態だ。このままではおっぱいの守護者になってしまうのではないか、そんな危機感を(いだ)くのであった。



『胸ならスズランの方がでかいだろ、そっちは試してないのか?』


「あぁー、あの自称特級精霊の子かぁー。あれダイチって子の契約精霊なんでしょぉー? 神気をまとってるような子の所有物とかぁー、怖くて手が出せないよぉー」


『神気ってどういうこと? オッゴで会ったときは、そんな感じしなかったんだけど』


『魔剣とスズランとダイチさんが、一体化して戦ったとか言ってましたよ。なんでも神降ろしに近い状態だったのではないか、そんなことを大勇者から教えてもらったとか……』



 温泉で大地から聞いた話を、ナーイアスが三人に伝えていく。実は大地が眠る直前まで普通に過ごせていたのは、神気というアーマーを着た状態だったからだ。それが切れてしまったため、全身筋肉痛になってしまっている。



『やりやがったな、あの魔剣。そら剣神(けんしん)っていう、別の世界にいる神の力を借りてんだ。そんな無茶やったら、後遺症が出るのは当たり前じゃんか』


『温泉でダイチさんの体を触診しましたが、かなりボロボロでしたからね』


『うひゃー、なんかエグそう。ナーイアスがいなかったら、数日寝込んでたんじゃない?』


『あまり無茶はしてほしくないですけど、意外にたくましい体を思う存分触れるので、やめさせたり出来ないのが辛いです。あぁ、わたくしって罪な女ですね。皆さんはどう思います? ちょっと聞いてくださいよ、今日温泉でですね――』



 ナーイアスののろけ話が始まり、今度はイグニスとエアリアルがため息をつく。テラはほとんど聞き流しており、ベッドの上で船を()ぎだす。それから小一時間ほど、ナーイアスは熱く語るのであった……



◇◆◇



『気を取り直して、イルカ島聖域化計画の話をしましょう』


『脱線させたのは、お前じゃないか! ナーイアス』


『天を貫くように猛々(たけだけ)しいとか、よくわからない世界だなぁ~』


「ねぇー、もう話し終わったぁー?」



 こうして四人が自由に話す機会など、天地開闢(てんちかいびゃく)いらい数えるほどしか無かったので、実はそれぞれテンションが上っていたりする。ただ一名、半分寝ているテラを除いてだが。彼女がこんな状態でもギリギリ意識を保っているのは、カメリアと触れ合えるのが楽しみだからである。



『お話したいダイチさんの魅力は、まだ百と八個ほどありますけど、次の機会にします』


『勘弁してくれよ……』


『それよっか、神樹の促成栽培とか出来るの?』


「エーテルの代わりにぃー、地脈を吸わせてあげれば大丈夫だよぉー」



 土を司っているテラは、農作物の生育に影響を及ぼす存在だ。そんな彼女は植物の育成に関して、豊富な知識を持つ。神樹といえども木であることには変わりなく、彼女の守備範囲だった。


 イノーニが農業国として発展しているのは、迷宮の影響で生まれる多彩な気候と、彼女の力に()るところが大きい。そしてこの先イノーニで不作の年が無くなるのだが、地脈の操作すら可能になったテラが管理しているので、ある意味当然のことであろう。



『つまり、あたいは〝原初(げんしょ)(ほのお)〟と火の祭壇があればいいってことだな』


『わたくしの場合は水を生み出す神像と池ですか』


『私は神樹があるから、あとはテラに丸投げだね』


「イルカ島って場所は真下に地脈が通ってるからぁー、今の私の力があったら出口くらいぃー、すぐ作れるからねぇー。それが出来たら自分の祭壇わぁー、ぱぱっと作っちゃうよぉー」



 温泉の素になっている地下のマグマ溜まりと水に囲まれた環境、そして神樹の種に太い地脈。イルカ島は四つの分社に必要なすべての要素が揃っている、稀有(けう)な場所であった。そのため聖域化計画はスムーズに話が進んでいく。




 ――こうして四人の土地神が集う聖地は、着実に完成へと近づいていくこととなる。


次回は更新を一回お休みして、幕間が挿入されます。

これを出しとかないと、筆者自身が登場人物の名前や上がったスキルを忘れてしまうので(笑)


来週から開始の11章で、いよいよイルカ島が聖域に。

材料集めで軽く迷宮に潜ったり、彫刻家の職人と知り合ったり、探索者ランクが上がったり……

もちろん土地神たちと温泉も!

そしてやらかす主人公。

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