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第12話 温泉治療

 いつもの数倍の時間をかけ、なんとか着替えを終わらせた。もちろん一人でなんて無理だ。スズランとアスフィーに散々もてあそばれたよ。もうお婿に行けない……



「おーっほほほほほ! 無様(ぶざま)ね、下僕(げぼく)


「変な笑い方しないでよ、アイリス」


「下僕がみっともない姿を(さら)したら、笑うと決めていたもの。なんだかスッキリしたわ」


「すでに肉体が満身創痍なのに、精神的に追い詰めてくるとか、ひどすぎる!」



 少し遅れて起きてきたアイリスに、思いっきり笑い飛ばされた。僕のことを気遣ってくれた使い魔たちの優しさが、すごく心にしみる。主人とは大違いだよ、まったく。



「スミレちゃんとリョクちゃんにも治せなかったの」


「ダイチの症状は、病気や怪我と違うものだからな。こればかりは時間が解決してくれるのを、待つしかない」


「手足を斬り飛ばして、スミレに生やしてもらえば治るんじゃないか?」


「斬る?」


「ダメだよ、アスフィー!? ダイチのそんな姿を見たら、今度はボクが気絶しちゃうよ」



 自分が鳥の姿をしているせいか、クロウは滅茶苦茶なことを言うな。そんな猟奇シーンは絶対にごめんだ。そもそもアスフィーは僕を傷つけるなんて無理でしょ。ブラックジョークが言えるようになるなんて、どんどん心が成長してるんだね!



「とにかく食事が終わったら、温泉にでも入ってらっしゃい。始祖様の腰痛が治ったと言っていたし、下僕にも効くんじゃないかしら」



 その腰痛って、張り切りすぎたからじゃないかなぁ……

 でも温泉に入るのは効果ありそう。昨日は時間が遅くて家のお風呂ですませてるし、朝ごはんを食べてからラムネに送ってもらうか。



◇◆◇



 朝食はとてもいい笑顔のシアとリナリアに介助されました。まあリナリアの「お兄ちゃん、あ~ん」が見られたし、甲斐甲斐しいシアの姿も新鮮だったからヨシとしておこう。


 そんな訳で、ゆっくり入りたいからとみんなを説得し、一人で温泉に来ている。この島で暮らし始めて、一人で入るのは初めてだ。本来ならこれが当たり前なのに、混浴がデフォなのは何かおかしい。



「お待ちしてましたよ、ダイチさん」


「どうしてこんな時間に僕が温泉に入るってわかったんですか?」


「もちろん女の勘です」



 ここに監視カメラとか仕掛けてないだろうな、この人。

 どう考えても神の力を無駄遣いしてる。



「それより、急に年をとってしまわれたような動きをしていますが、何かあったのですか?」


「ちょっと人には出来ない動きをしてしまったので、全身が悲鳴を上げてるんです」


「オルテンシアやスズランを相手に、アクロバティックな体位にでも挑戦しました?」



 してませんよ、そんなこと!



「とにかく体を無理に動かすと激痛が走るので、温泉で癒そうかと思ってるところです」


「どうやら着替えもままならない状態のようですね! それは良いことを聞き……じゃなくて、大変です。服を脱がせて差し上げますので、温泉でゆっくり療養しましょう。わたくしはそのために、この場へ呼ばれたのです。きっとそうに違いありません。神の力をもってすれば着替えなど造作もありませんので、安心して身を委ねてください。じっくり堪のぅ……いえ、短時間。そう、わたくしが手伝えば短時間で着替えが終わります。そのぶん温泉に長く入れますからね」



 所々本音が漏れてるし、理由がすごく後付けくさいです。それにむちゃくちゃ弁舌(べんぜつ)になってるじゃないですか。捕食者の目をしないでくださいよ……



◇◆◇



 鼻息を荒くするナーイアスさんに、剥かれてしまいました。せめてもの抵抗で、後ろからやってもらったけど。服を脱がせるだけで余剰精気があふれ出すとか、興奮しすぎですよまったく。



「こうして直接見ると、確かに気の流れが乱れていますね」


「そんな事がわかるんですか?」


「なにせ健康に関わることも、わたくしの守備範囲ですから(えっへん!)」



 だからそんな近くで僕をじっと見ながら、胸をそらさないで下さい。ちょっと当たってしまったじゃないですか。今の僕はそれだけで、体に電気が走るんですよ。


 でも確かにナーイアスさんが力を取り戻してから、この国で病気の発生が減っている。以前もカトレアさんに生命力を補充してるし、他人の健康状態がわかってもおかしくないな。



「それにしても日常生活に支障が出るほど、キツイ後遺症が現れるとは思いませんでした」


「精霊たちの加護を受けているとはいえ、ダイチさんの肉体は人と同じなのですから、無茶をしてはいけませんよ」


「はい、あの力を無闇に使うのはやめておきます」



 そんな僕の頭を、ナーイアスさんが優しく撫でてくれた。この人に触られると、なんだか痛みが消えていく気がするな。



「さすがにこのままでは不便でしょうし、わたくしがマッサージをしてあげましょう」


「マッサージですか?」


「気の流れというのは、水とよく似てるんです。わたくしの力でそれを整えると、症状を大きく緩和できますよ」


「そんな事ができるなんてすごいですね! お願いしてもいいですか?」


「では、そこの岩場に大きなタオルを敷きますから、うつ伏せに寝転んでください」



 ナーイアスさんの手を借りつつ洗い場に移動し、厚手のタオルを広げて横たわる。僕の体に添えられた柔らかい手が、ゆっくりと表面を滑っていく。触れた部分のガチガチに固まった筋肉が、溶けていくような感じだ。



「少し強めに揉んでみますが、痛くありませんか?」


「はい、それくらいなら大丈夫です」



 手が当たるだけでビリビリ電気が走っていたのに、この短時間でピリッとした痛みに軽減した。自信ありげに言うだけあって凄いぞ。やっぱり人とは違う力を持ってるんだと実感できる。



「関節もほぐしていきますから、まずは足から曲げますね。すぐ痛みはなくなっていきますから、少しだけ我慢してください」


「……うっ」



 ひざ裏を手で押さえられた状態で、徐々に足首が持ち上がっていく。関節の中でパキパキと音が鳴ってる気がするぞ。本当にどうなってしまってるんだ、僕の体は。



「あの、ナーイアスさん。手とは違うものが当たってませんか?」


「何のことか、わたくしにはわかりませんね。今は治療中ですから、余計なことを考えずにリラックスしていて下さい」


「……はい」



 なんかプニプニしたものが押し付けられてるんだけど!

 それに足が柔らかいものに、ガッチリ挟まれてるよ?


 顔を上げて確かめてみたいけど、見たら取り返しのつかないことになる気がする。これは治療、これは治療。心頭滅却すれば火もまた涼し。



「はぁ、はぁ……どうですか、ダイチさん。だいぶ良くなってきたと思いますが」


「関節の自由度が大幅アップしました、凄いですよ」


「ふふふっ。ではこのまま続けますね。わたくしの体も熱くなってきたので、治療効果が上がっているはずです」



 息も荒くなってきてるし、なんかおかしいですよナーイアスさん!

 僕の体を使って何をしてるんですか。治療ですよね、治療なんですよね?



◇◆◇



 ――はっ!?


 どうやら僕は眠ってしまってたみたいだ。頭の後ろがとても柔らかいものに支えられている。この感じってスズランとよく似てるかも。優しい手つきで撫でられてる頬が気持ちいい。



「すいません、少しウトウトしてしまったみたいです」


「いえ、問題ありませんよ。それだけ治療に効果があったということですから。それにわたくしもダイチさんの体を、隅々まで味わい尽くせました」



 僕が寝てる間に、なにをやったんですかー!?

 やっと意識が覚醒してきたけど、目の前に大きな壁があってナーイアスさんの顔を確認できない。声とか色っぽすぎるし、一体どんな表情してるか気になる。



「あっ……もう少し寝ていても良かったのですよ」


「いえ、これ以上ご迷惑をおかけできませんし」


「迷惑だなんてそんな。わたくしにとって、ただのご褒美ですのに」



 体を動かしてみてわかったけど少しだるい以外は、ほぼいつもどおりに回復してるみたいだ。まさかここまで復調するとは思ってなかった。途中から何をされたのか覚えてないし、治療効果が高すぎてちょっと怖い。



「なんだか今までにないくらい、髪から余剰精気がこぼれてませんか?」


「今なら百年くらい、祭壇の外で活動できそうです」



 一体どんだけ僕の精気を吸い取ってるんですか。今夜アイリスに血が薄いとか言われそう……



「とにかくありがとうございました。これなら問題なく日常生活を送れそうです」


「でしたら、せっかくですし温泉を楽しみましょう。イノーニであったこと、色々と教えて下さい」



 顔が上気して目つきが怪しくなってるナーイアスさんを、なるべく意識しないようにする。そして二人でお湯に浸かりながら、イノーニで土地神に会えたことを話していく。そこで土地神同士が念話できるようになったことや、イルカ島聖域化計画にテラさんの協力が必要なことを、聞かされるのであった……


これにて10章の本編は終了です。

次回は閑話をお届けします。


とうとう全員で念話ができるようになった、四人の土地神たち。

そして始まるイルカ島聖域化計画。

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