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閑話02 オルテンシア

Side:オルテンシア

 パーティーメンバーに背中を斬られ、なんとか一命をとりとめた私は、アーワイチの森へ逃げ込んだ。密かな自慢だった金色の髪は白くなり、日に焼けることのなかった肌も褐色へと変化していた。


 黒くなっていると言われた目は白に戻っていたが、瞳の色は赤いまま。元のエルフからかけ離れしまった自分を見て、とめどなく涙がこぼれ落ちてくる。目の色が白に戻った原因は不明なものの、持っていたスキルが【狂化】【封印】【停滞】に変化していたので、体に異常が起きているのは間違いない。


 自分はこれからどうなってしまうのか、それを考えると心が押しつぶされそうになる。呪いという状態は厄介なため、自ら命を断つような真似をすれば、どんな反作用が起こるかわからない。自分の体がどう変化するかわからない以上、街で暮らしていくことは不可能だろう。


 昔、アーワイチの森に人嫌いの賢者が隠れ住んでいた、そんな本を読んだことのある私は、森の中で一軒の小屋を発見した。そこにあった迷乱(めいらん)の魔道具へ輝石(きせき)をはめ、ここへ誰も来られないように、そして自分も出ていけないよう結界を張る。


 そして満月の光を浴びるまで眠り続ける薬を作り、この場で治療法を探してみることにした。眠ることで症状の進行を抑え、呪いを退ける満月の光を浴びることで、状態の改善を図ろうと考えたのだ。


 そんな生活を続けていたある日、自分と契約している精霊が妙に落ち着かないことに気づく。やたら外の様子を気にしているが、今までにない行動だ。私も気になったので薬草採集を兼ねて森へ行くと、木の根元に一人の少年が倒れていた。


 白い微精霊が少年の周りを心配そうに飛び回り、時々自分の体をこすりつけている。精霊がこのような行動をするなんて初めて見た。それに少年が着ている服は、明らかにこの世界のものとは違う。



「これは恐らくこの世界に迷い込んでしまった越境人(えっきょうじん)だろうな……」



 自分たちが暮らしているこの星は、時々別の世界と交差しているらしい。そうして世界が重なった時、ごくまれに人が迷い込んでくる。それが越境人と呼ばれる来訪者だ。


 正直なところ、今の私が誰かと関わりを持つのは、リスクでしかない。しかし、ずっと誰とも会わず暮らしていたので、人恋しかったのだろう。もしかすると異世界の知識や魔法で、解呪できる可能性だってある。そんな期待も込めながら、少年と話をしてみることに決めた。



◇◆◇



 残念ながらダイチという少年には、なんの力もなかった。しかし手を差し伸べたことを、後悔したりはしていない。少し頼りはないものの、とても優しく明るい人物だ。彼と話をしていた間だけ、いま置かれている状況を忘れられた。


 それに、こんな姿になった私を妖精と間違えたり、綺麗とか言い出すような、変わった感性をしている。そのセリフを聞いた時、心が沸き立つような感じがして慌てた。あの感情は一体何だったのか……


 そんな彼の人となりに(ほだ)され、ひと月後に再会すると言ってしまう。心の冷静な部分では警告を鳴らしていたが、彼と会うのを楽しみにしている自分がいるのも確かだ。


 せめぎ合う二つの感情を持て余しながら、その日は眠りについた。




―――――・―――――・―――――




 やはり会う約束などしなければよかった。

 私はここで朽ち果てるのが世の中のためになる。

 もう誰とも関わらず死んでいくしかない。


 私の体は狂化の衝動を抑えきれないほど、呪いに侵されていた。よりにもよって、ダイチを襲ってしまったのだ。意識のない状態でやってしまった自分の行為を聞かされ、私の心は絶望にとらわれてしまう。


 もう彼と会うのはこれっきりにしよう、そう決めた私は努めて明るく振る舞いながら、本当のことを語ることにした。それを聞けばいくら彼でも、怖くて来られなくなるだろう……



◇◆◇



 その目論見は見事に外れ、逆に彼から励まされることになった。もう四十八歳になる女が、情けないことこの上ない。


 しかし彼の熱弁を聞いていると、心がすごく軽くなるのだ。なんの根拠もないのに信じてみようと思わされる、不思議な感情に支配された。そしてダイチが浮かべた笑顔を見た時、私の中にまた知らない気持ち芽生える。


 【知術】のスキルを持っている私は、書物にしか興味がないつまらない人間だ。あまり他人に関心がなかったから、今の気持ちをうまく言語化できない。しかし元パーティメンバーのオレカスから受けていたものとは、全く異なっていることはわかる。


 もしここを出られる日がくるなら、今後の研究課題にしよう。




―――――・―――――・―――――




 次の満月の夜、ダイチは一人の女性を連れてきた。

 驚くことに彼女は精霊で、スズランが進化したものらしい。


 いや、ちょっと待ってくれ。人と同じ姿をし、話したり笑いかけてくる精霊など、この世界に存在しないはずだ。たしかに何もない空間に突如現れ、宙に浮きながら挨拶する真似など、どんな種族にも不可能だ。


 そういえば吸血族の始祖が飛べたと記録にあったな。しかし始祖は男のはず。目の前で笑みを浮かべるスズランは、間違いなく女性だ。しかも大きい。うっ、羨ましいとか思ってないからな!


 そしてもう一人紹介してもらった精霊にも驚いた。

 この世界には赤・緑・青・白しかいないという常識が、音を立てて崩れていく。


 しかもスズランとダイチに間に生まれた子だという。何だそれは! 私が呪いで苦しんでいる時に、二人で何をやってたんだ!


 誰かに声を荒げたことのない私が、気がつけばスズランに向かって叫んでいた。

 何なのだ、この感情は……


 耳の先まで熱くなるなんて、経験したことがない。

 これも呪いの影響なのか?


 ダイチにまで可愛いなどと言われ、二人がかりで散々もてあそばれたあと、私とスズランで儀式をすることになった。



◇◆◇



「どうしても脱がないとダメなのか?」


「はい。私と直接触れ合って、繋がりを作らないといけませんので」



 上下一体のローブを脱ぎ、薄手の部屋着姿を晒す。女同士とはいえ、人前で服を脱ぐのはやはり恥ずかしい。そして私がベッドへ上がると、なぜかスズランが覆いかぶさってきた。大きく揺れる圧倒的な質量を持つ部分は、自分との決定的な違いを誇示しているようだ。



「くっ……まるで凶器のようだぞ、それは」


「オルテンシア様も形が綺麗で、お美しいですよ」



 仰向けになっても崩れるほど大きくないだけだ、放っておいてくれ!


 しかし間近で見るスズランの顔は、とてもきれいだ。エルフ族ですら、ここまで整った容姿を見たことがない。全ての要素が計算され尽くしている、そんな完璧さがある。



「マスターがおっしゃったとおり、オルテンシア様はとても可愛らしいです」


「ダークエルフになってしまった私にそんなことを言うのは、冗談でもやめてくれ」


「マスターは異世界人ですし私は精霊ですから、価値観が全く異なります。他の方々がどう思おうと、本心で言っていますよ」



 それを聞いた私は、再び全身が熱くなるのを感じた。またさっきの状態異常だ。これもサクラという精霊が持つ、耐性スキルで治るんだろうか……



「儀式を成功させるには、お互いの信頼関係が重要です。オルテンシア様は私に全てをゆだねる覚悟が、おありですか?」


「君にこうして抱きしめられていると、なぜだかとても落ち着いてくる。ダイチのことは信じると決めたし、彼の契約精霊である君たちも同様だ。私のことは好きにしてくれていい」



 状態異常になった私をスズランがそっと抱きしめ、耳元でささやくように話してくれる。それを聞いていると、熱くなっていた体温は元へと戻り、緊張して固くなっていた体もほぐれてきた。



「ではオルテンシア様の体を、好きにさせていただきますね」



 そっと離れていったスズランが、私をまたぐように膝立ちする。まくれ上がったスカートから見える素足は、白くてきれいだ。私だって以前はあんな色だった、あまり外に出なかったからだが……


 スズランは両手を握ったり開いたりしながらニッコリ微笑んでるけど、これ大丈夫だろうな? もしかした私は早まったのではないか? 酷いこととかされないよな?


 上着の(すそ)を持ち上げたスズランが、私の下腹部に手を当てた。ヒンヤリとした指先が触れ、思わず体が固くなる。そのまま手のひらでお腹を撫ではじめたけど、ちょっと動きがいやらしいぞ!?


 しかし、じっとこちらを見ているスズランの顔は真剣そのものなので、私も頑張ってこの恥辱に耐えよう。


 目をつぶりながら我慢していると、少しずつ熱いものが流れ込んできた。すると体の中でくすぶっていた、淀みのような気持ち悪さが溶けるように消えていく。




 ――こうして私は、狂化の衝動から開放されたのだ。


 すいません、これ以上の描写は警告もらいそうなので(笑)


 これで第1章は終了です。

 第2章へ行く前に、キャラクターや世界についての設定資料をアップします。初回の資料集ということで分量が多いですが、一度目を通していただけると幸いです。


 資料集アップのため、明日の本編更新は休みになるかもしれません。

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