第10話 怠惰の化身
誤字報告ありがとうございました。
1文字消し忘れ……
土地神の女性によると、ここは洞窟の最深部になるとのことなので、周囲に警戒しつつ事情を聞くことにした。近くにいたモンスターを全て倒しながら来ているから、一帯の迷宮化は止まっているはず。
それにしても……そんなにカメリアのおっぱい枕が気に入ったんですか?
ムニュっていうより、ポヨンって感が好きなのかも。さっきから片時も離れようとしない。カメリアにもたれかかったまま手足をだらんと伸ばし、顔も態度も緩みきっている。
「では迷宮が祭壇まで迫ってきたから、そこを放棄して逃げてきたってことですね」
「そうなんだよぉー。その場にいたらぁー、なにが起こるかわからないしねぇー。でもこれ以上逃げられなくてさぁー、もう面倒だし仮死状態で寝ることにしたんだぁー」
「それであんなに冷たくなってやがったのか。死にかけてんのかと思って焦ったぜ」
「あの状態なら迷宮の中にいても平気なはずだしねぇー」
ここも迷宮化していたら、一体どうするつもりだったんだろう。ずっと仮死状態のまま眠っていたのかな。いくらそうやって代謝を下げても、いずれ精気不足で力尽きる時が来るはず。そんな事態になる前に会うことが出来てよかったよ。
「この辺りのモンスターは全て倒してるから、そのうち元の状態に戻るはずさ。だけど迷宮化しちまった祭壇は、どうなるんだい?」
「元の洞窟に戻ってもぉー、祭壇の機能が回復するのは時間がかかりそうだねぇー」
「ずっとボクにもたれ掛かてるのって、祭壇がなくなって力が出ないから?」
「それもあるんだけどぉー、やっぱりこの神をダメにする枕がいけないのだぁー。力が回復するまでぇー、百年くらいこうしてようかなぁー」
「ボクそんなに生きられないよ……」
「俺様はこのまま百年、こうやってても構わないぜ」
クロウもどんだけ土地神のおっぱいを気に入ってるんだよ。
そういえば確か元の世界で、胸の上にいろいろなものを乗せる、チャレンジシリーズってネタがあったな。乗ってるのは飲み物やスマホでなく、精霊獣だけど!
とにかくカメリアも困り顔になってるし、こっちから提案してみよう。
「力を取り戻すためにやってみたいことがあるんですが、構いませんか?」
「なにするのか知らないけどぉー、別にもうこのままでいいよぉー。ずっと寝て過ごすのが楽だもんー」
薄々そうじゃないかと思ってたけど、力を失って気だるそうにしてるんじゃなく、これが素の状態で間違いない。この人は怠惰の化身だ。
「そんなこと言わずに、ダイチに名前をつけてもらってよ。ボクたちはウーサンに帰らないといけないから、いつまでもこうしてあげられないもん」
「名前って私につけるのぉー?」
「えぇ、そうです。ウーサンの土地神にもお願いされているので、聞き入れてもらえると嬉しいです」
「ダイチに名前をつけてもらったら、すごく元気が出ると思うよ」
「動けなくなるくらいは問題ないんだけどぉー、まぁカメリアちゃんがそう言うんならぁー、聞かせてもらおうかなぁー」
よし、今回も何とかなりそう。説得してくれてありがとう、カメリア。今日は因縁の相手に出会ったりして辛いことがあったし、後でいっぱいツノを撫でてあげるからね。
「土や大地を意味する、テラという名前はどうですか?」
「おぉー、聞いたことない言葉だけどぉー、そんな意味があるんだぁー。なんか短いのがいいよねぇー。土地神とかぁー、土の守護者とかよりずっと言いやすいよぉー。よーし、これからテラって名乗ることにするぞぉー」
名前を受け入れてくれた瞬間、ボサボサだった髪が輝きを取り戻し、汚れていた服も真っ白になる。力を失ってた影響で、みすぼらしい姿になってたのか。てっきり、だらしない生活をしてるからだと思ってた。
「髪の毛がサラサラになって、さわり心地が良くなったよ」
「それにいい匂いもするようになったぞ」
「あぁー、これってぇー、んー……地脈の力を取り込んでるねぇー」
「地脈ですか?」
「地脈ってのはね坊や、星の力を運ぶパイプみたいなもんなんだよ」
その辺りは元の世界とよく似てるな。風水学なんかでいう龍脈と同じ感じだろうか。それが地上に出てくる龍穴に、社や重要な施設を建てたりするんだよね。もしかすると、ここにあった祭壇もそうだったりして。
「土地神が取り込む自然の精気とは違うんですか?」
「それに変わる前のぉー、生のエネルギーって感じだねぇー」
「それならあなたは、星の力を使えるってことになるのかしら?」
「そこまで大きな力は私の体が保たないけどぉー、これくらいなら出来るようになったよぉー」
地面に手をついたテラさんが少し力を込めるような動きをすると、洞窟内に漂っている空気が変わった。マップの端に表示されていたモンスターも消えてしまったぞ。これはテラさんが力ずくで迷宮を押し戻したってことか。
「マスター、今まで感じていた重圧が消えました」
「お姉ちゃん、良かったの!」
「妙な力を出してるものがあったからぁー、無力化しておいだぞぉー」
僕の方になにか投げてくれたので、慌ててキャッチする。それは表面に幾何学模様の入った、十センチ位の黒いピンだ。テラさんの手元に残ってる分を含め、全部で八本あるみたい。探索中に全く気づかなかったのは、地中に打ち込んでいたからだろう。いかにもって感じの不審物がここにあるということは、あの男が持ち込んだと見ていいな。
「スマンがそれは俺に預けてくれないか。国の聖域で見つかったものだ、持ち帰って報告せんといかん」
「はい、よろしくお願いします」
ファンガスさんに渡しておけば、イノーニが責任を持って調査してくれるはず。もし製作者がわかったりすると、迷宮解放同盟のアジトに繋がる手がかりを得られるかもしれない。その辺りアプリコットさんと協力できないか、帰ったらイノーニのギルド長とも相談してみよう。
「さすがは土地神の力ということか。それで祭壇はどうなっているのだ?」
「そっちも元通りだぞぉー。むしろパワーアップした感じぃー?」
いつでも結界を張れるよう準備していたシアも、肩の力を抜いてホッとしてる。土地神に名前を贈ることが出来たし、聖域の迷宮化も防げた、これで目標達成だ。
「よっしゃ! それならこれで依頼終了ってことでいいな。土地神を送り届けて、俺たちは街へ戻るか」
この洞窟に入ってから戦いっぱなしだったのに、ノヴァさんは元気だな。相変わらずの体力お化けっぷりが凄い。僕たちが山を降りてから、探索者として現役復帰したそうだし、間違いなくスタミナアップしてる。一体どこまで強くなるんだ、この人は……
「歩くのめんどいぃー。カメリアちゃぁーん、おんぶしてぇー」
「もー、しょうがないなぁ。せっかくダイチに名前をつけてもらったんだから、もっとシャキッとしてよ」
「なんかさぁー、動いたら負けかなぁーって」
どこのちびっこアイドルですか、あなたは。日本語でシャツに文字を書いて、プレゼントしようかな。それを着てダラダラ過ごしてる姿を想像してみたけど、似合いすぎててこわい。そういえば、髪の色もよく似てるな。身長と胸の大きさは段違いだけど……
カメリアに甘えまくるぐうたらなテラさんを連れ、僕たちは祭壇へ向かうことにした。
――そして次の日、恐れていたことがおきた。
果たして、恐れていた事態とは……
第11話「いけません!お客様!」をお楽しみに!
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第12章でも言及しますけど、主人公が失っている記憶はリアルの人間関係です。ゲームや創作物のキャラクター名は(都合よくw)覚えてます。