表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/237

第8話 剣神

(2021/10/03 07:40)

57行目の国名を「イノーニ」から「アーワイチ」に変更しました。

単純なミスです(笑)

 大地(だいち)とアトモスフィア、そしてスズランが輪になって手をつなぎ、三人同時に目を閉じる。するとアトモスフィアとスズランが光になり、大地へ吸収されていく。


 光が収まった後には、それまでと全く違う姿で立つ大地の姿があった。


 上半身は白襦袢(しろじゅばん)と黒い小袖(こそで)、そして下半身はねずみ色の(はかま)草鞋(わらじ)ばきの足には紺色の足袋(たび)を身につけ、同じ色の羽織(はおり)には白い梵天(ぼんてん)がついた羽織紐(はおりひも)。アトモスフィアが西洋剣に近い造りのため多少違和感はあるものの、その姿は時代劇に出てくる武士(ぶし)のスタイルだ。



『うぉー、痺れるでござる! 拙者もあのような姿に、擬態したいでござる』



 その姿を見たクラウドは、己の中に眠る未知の琴線を刺激され、暴れ出さんばかりに興奮している。



「あれ!? スズランはどこに行ったの?」


『私はここですよ、マスター』


「えっ!? もしかしていま僕が着ている服?」


『はい、マスターの御身(おんみ)をお守りするため、この衣装に宿っています』


「それって大丈夫なの?」


『私の全てでマスターと触れ合っている感じがして、とても心が高揚します』



 そんなスズランの声を聞いた大地は、ホッとすると同時に少し恥ずかしそうな表情になった。着ている服はもちろんの事、肌着まで変わってしまっているからだ。



「羨ましい……実に羨ましいぞ、スズラン。私もあんなふうに、ダイチと触れ合ってみたい」


「何度も下僕(げぼく)と繋がっているのに、なにを言ってるのかしら、あなたは」


「なっ……!? みんなが居る場所で、破廉恥(はれんち)なことを言うな! 一体どこでそんなことを覚えたんだ。第一、アイリスにはまだ早すぎる」


「あら、忘れたの? 私はあなたより何倍も歳上なのよ」



 一人で引きこもっていた時は、性に関する知識が皆無だったアイリス。しかしニナの好きな恋愛小説や、エトワールが所蔵していた本を読んだことで、いまでは人並みの知識を獲得するに至っている。特にエトワールの蔵書にはマニアックなものが多く、すっかり耳年増になってしまったのであった。



「ちくしょう、恵まれすぎてるぞダイチ! 俺もいつかニナちゃんみたいな子と……」



 血が出そうなほど拳を握りしめたファンガスは、ダイチに向かって呪詛のような言葉をつぶやく。ニナに軽く拒否られて落ち込んでいた彼は、今回の依頼を終わらせた後、本気で嫁探しを始めた。そして数カ月後、迷宮内で孤立した女性探索者を救い、やがて結ばれることになる。やっかみを含めて〝美女と野獣〟だの、〝迷宮に願いを叶えてもらった〟と言われるが、仲睦まじく暮らしていったという。



「ボクもダイチと一つになってみたいなぁ……」


「俺様で良ければ、いつでも合体してやるぜ!」


「眼の前でとんでもないことが起こってるのに、あんたら全く動じてないね」


「ダイチの気配、ありゃ異常だぞ。俺が昔調べたことのある、神降(かみお)ろしに近いんじゃないか?」



 神降ろしとは、ひたすら強さを求めていた頃のノヴァが、アーワイチの神官から無理やり聞き出した儀式だった。その時に教えてもらった神事(しんじ)に近いことを、大地たちは行っていたのだ。神事の場合は神器と触媒を用いるが、それをアトモスフィアとスズランで置き換えた形になる。


 そして神官の立場にいる大地へ、神に近い力が宿ったのではないか。あまりに格の違う気配を感じ取ったノヴァは、そのような判断を下していた。



「なんか倒せそうな気がするので、ちょっと試してみます」


『今の主様、敵はいない。私が保証する』



 抜身(ぬきみ)のアトモスフィアを構え、(さや)を腰に()した大地が、通路の奥でうごめくモンスターを睨む。そして一瞬体を沈めた後、その場から消えていた。



「うわっ、ボクの目でも追えなかった」


「ダイチのやつ、瞬間移動しやがったぞ」



 縮地(しゅくち)と呼べるようなスピードで移動した大地が、モンスターから繰り出される数え切れない触手を、目にも止まらないスピードで切り刻んでいく。剣を振る速度が常軌を逸しているため、全員の目には光の線しか見えていない。



「あんなに動いて、お兄ちゃん平気なの?」


「メロンのスキルもあるし、大丈夫なのではないか」


「まあ後で泣き言でもいってきたら、みんなで笑ってあげましょう」



 リナリアが心配になるほど、今の大地はノリノリだ。あのスピードと反射神経があれば、一気に本体を叩くことも可能だった。にもかかわらず、その場に止まって触手を相手に剣を繰り出す。本人は新しい力に慣れるためと、言い訳を考えていたのだが……



『そういえば剣を振る前に、ダイチ殿がなにか叫んでいたでござるな』


「えっとね、確か〝じゅうそうれんげき(重奏連撃)〟って言ってたよ」


「ダイチのやつ、カッコつけて技の名前でも叫んだんじゃないか?」



 クロウの予想は正解である。オタク魂(ちゅうにごころ)を刺激された大地が、思わずゲームキャラのように技名を口走っていた。必要がなくても言葉にする、いわゆる様式美というやつだ。



「あの状態のダイチと本気でやりやってみたいぜ」


「いくらあんたでも、人間やめちまったような相手じゃ、分が悪すぎだよ」


「負けるとわかっていても挑んでみるのが、男ってもんだろ?」


「いやいやノヴァさん、俺たちの腕は二本しかないんだ。あの触手みたいに、輪切りにされるのがオチだと思いますよ」



 繰り出される触手の数が徐々に減ってきたが、大地のスピードはますます上がっていく。そのせいで一本の触手が、多数の輪切りになって崩れ落ちていた。やがて本体の目玉から触手が出なくなり、大地がそれを両断する。






 こうしてモンスターは討伐されたのであった。


 身につけるのは〝(かみしも)〟が正しいはずですが、あくまでも主人公のイメージなので。きっと、どこかの将軍様が混じってるのでしょう(笑)


次回はいつもの視点に戻ります。

土地神の安否やいかに。

第9話「神をダメにする枕」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ