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第6話 因縁の相手

 今まで見たことのない(けわ)しい表情で、カメリアが男を睨んでいる。我を忘れて飛び出さなかったのは、アイリスがカメリアの前に立ちはだかったからだろう。


 それに今は臨時パーティーのリーダーであるファンガスさんが、黒ローブの男と対峙中だ。拘束するなり恨みを晴らすにしても、もう少し待ってからのほうがいい。



「おい、聞こえなかったのか? どうしてここにいるのかと、聞いているんだ」


「チッ。ぞろぞろと集団で、うるさい奴らだ。お前ら探索者の都合など知らん、実験の邪魔をするな」


「実験だって? もしかして、精霊たちが怖がってるのは、あんたのせいなのかい?」



 油断なく剣を構えるノヴァさんの後ろから、エトワールさんが声をかけた。いきなり襲いかかってくるような相手じゃないみたいだけど、さっきから妙に会話が噛み合ってないぞ。相手の男はこっちの質問に答える気がない感じだ。それに、なんか首の後ろあたりがザワザワする。今まで体験したことのないこの感覚、なんだろうこれは……



「マスター。あの方がかぶっているフードの近く、よく見てみてください」


「何か浮いてるよね……もしかして黒い精霊?」



 男が着ているローブと同じ色なのでわかりにくいけど、確かに黒くて小さなものが浮かんでいた。形がクリオネに似てるから、あれは間違いなく中級精霊だ。だけど黒ってどういうこと?


 自然に生まれる精霊は、赤・緑・青の三色と白だけのはず。もしかすると人工的に作ったとか?


 もしアプリコットさんの情報が正しければ、あの男は〝迷宮解放同盟〟という組織の一員になる。そこには誰にも知られていない技術や、禁忌に触れる手法があるのかもしれない。



「みんなが威圧を感じてるのって、あの精霊が原因?」


「いえ、あの子は一言でいえば〝無〟です。ただ契約者の望むまま力を行使する、そんな存在だと思います」


「空っぽってことなの、お姉ちゃん」


「その通りです、リナリア。あんな空虚な精霊がいたなんて、私も驚きました」



 スズランがそんな印象を持ってるなら、あれは精霊の姿をした魔道具とかもあり得るな。どんなスキルや能力があるかわからないし、うかつに手を出すのは危険な気がする。



「下僕もスズランも気をつけなさい。さっき目があった瞬間に魔眼を発動してみたのだけど、全く反応がなかったわ。あの精霊っぽいものが、防いでいるのかもしれないわね」


「どうしてボクの村にモンスターを連れてきたのか教えてよ!」



 ファンガスさんたちの話し合いが平行線なことに業を煮やしたんだろう、カメリアが男に向かって感情を爆発させた。



「一体なんの話だ? それにお前は誰だ」


「その顔の傷、一日だって忘れたことがない。お前がレッド・オーガを連れてきて、ボクのお父さんとお母さんを殺したんだ!」


「ああ……あの時のことか。あれはいいデータが取れた。確かツノの折れたガキが倒れていたが、他にも生き残りがいたとはな」



 これで間違いない。そこにいる男がカメリアの村を襲った犯人だ。しかもいいデータが取れただって? 村を全滅させておいて言うことがそれか。もう話し合いなんかやめて、この場で叩きのめしたほうがいい気がする。



「言いたいことはそれだけ!?」


「実験には失敗がつきものだ、いちいち気にしていたら先へは進めん」


「あれだけのことをしておいて、そんなあっさり。ボクがあの日から、どんな気持ちで生きてきたと……おもっ……ひっく」


「あのクソッタレ、絶対許さねえぞ……」


「あなた、私の大切な家族を泣かせたわね。この落とし前、体で払ってもらうわよ」


「クロウもアイリスも落ち着け。あいつの気配はなんかおかしい。下手に手を出すと、何が起きるかわからんぞ」



 ノヴァさんが飛び出していかないのは、そのせいか。僕もずっと首の後ろがザワザワしたままだし、気配察知に()けているノヴァさんは、それを強く感じてるんだろう。



「とにかく俺の邪魔をするな。神域と迷宮が融合なんて、二度とお目にかかれないような実験場だ。このデータを上手く活かせば、俺の研究にもはずみがつく」


「おい、まだ俺の話は終わってないぞ。これ以上好き勝手に行動するようなら、力づくで止めさせてもらう」


「ふんっ、付き合いきれん。俺はこの先に用があるから、お前らは勝手にするんだな。もっとも、精霊どもは役に立たんと思うが……」



 スズランたちが不調になる原因、この男は知ってるのか。もしそんな環境を作り出したんだとすれば、精霊に関する未知の情報を握ってるのかもしれない。黒い精霊を連れていることといい、迷宮解放同盟って一体どんな組織なんだ。



「あっ、こら逃げるなっ!!」


「バカヤロウ! 一人で突っ走るんじゃない!!」



 最前列にいたノヴァさんが、カメリアを止めようとする。しかし獣人族を越える身体能力を発揮した彼女は、その横をすり抜けて先へ行ってしまう。


 その時、奥へ走り去っていく男が、(ふところ)から黒いボールを取り出す。それを見た瞬間、僕の中で最大級の警報が鳴り響いた。



 〈ウインド(wind)ブースター(booster)



 風魔法で無理やり加速してカメリアを追いかける。真っ直ぐ進むことしか出来ないけど、彼女に追いつくにはこの方法しかない。


 男がボールを地面に叩きつけると、そこから黒い霧が発生し、何かの形に変わっていく。まずい、あれはとてつもなく危ないものだ。



「カメリア!!」



 何とか追いついてカメリアの腕を掴めたけど、加速した体は急に止まれない。黒い霧がどんどん形を持ち、直径二メートル近くある球体に変わる。中心が割れてゆっくり開いていくけど、あれは目玉?



『主様! 危ない、よけて!!』


()けろ、ダイチ!!」



 アスフィーとノヴァさんの声が耳に入ってきた瞬間、僕の体に強烈な力が加わった。



「ガハッ!」



 カメリアを抱きしめたまま体ごとふっとばされ、肺の空気が全部抜けるような感覚を最後に、僕の意識は闇へ飲まれていく――


ポ○モンボール。


次回「第7話 雨?」です。

アスフィーが覚醒する!?

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