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第5話 やっぱりどう考えても反則すぎる……

 迷宮が広がったときに出来た氷雪エリアを進み、神域へと繋がる部分の手前まで来た。吹雪で視界も悪く、天井からつららが落ちてくるような罠も存在するため、スミレの【探査】を星四に、そして【解除】を星三まで伸ばしている。



「特級と上級の精鋭を集めたパーティで苦労してたどり着いた場所に、あっさり到着してしまった……」


「まあダイチたちは迷宮の構造が見えてるし、俺も気配でモンスターの位置とかわかるからな」


「それに【結界】の使い手が二人もいるんだ、大抵のことはなんとかなるもんさ」



 新しく広がった部分に生息するモンスターは、中級から上級クラスばかりだ。気配察知や索敵スキルで場所を特定できれば、よほどのイレギュラーが発生しない限り、手こずることはない。なにせカメリアの炎剣が強すぎる。氷のモンスターとか、ほとんど溶かしてしまうからね。



「俺様の活躍も忘れないでくれよ!」


「ご褒美に今夜もお風呂で洗ってあげるから、楽しみにしてて」


「うひょー! さすがご主人さまだぜ」


「先行させた精霊獣の見たものを共有できるとか、やっぱりどう考えても反則すぎる……」



 まあまあ、そう言わないで下さいファンガスさん。今回は移動速度を最優先で攻略してますので。


 とにかく地図情報だけだと曖昧になる部分は、クロウの偵察が頼りだ。スキルで飛んでいるから風の影響を受けにくいし、本当に助かってるよ。


 そんなことを話しながら歩いていると、吹雪が徐々に弱くなってきた。



「そろそろ例の場所に到着する。ここから先は慎重に頼む」


「スズランどうかな、なにか伝わってくる?」


「近づくにつれ、なんと言ったらいいのでしょうか。威圧感みたいなものを感じますね」


「クロウはどう?」


「ちょっと羽がザワザワするが、なんてことはないから心配しないでくれ、ご主人さま。同じ精霊といっても、俺様とスズランたちは種族が違うようなものだからな。そのせいで影響を受けにくいんだろ」



 もう少しで洞窟に繋がる地点だけど、ここでしっかり対策を練っておいたほうがいい。シアに結界をお願いし、立ち止まってもらうことにした。精霊たちが耐えられなくなったり、スズランが体調を崩したりすると大変だから。



「お姉ちゃん、平気なの?」


「マスターの優しい波動が守ってくれていますし、リナリアがそばに居てくれるから平気ですよ」


「お兄ちゃんが守ってくれるなら、きっと大丈夫なの!」


「無理だけはしないでよ。気分が悪くなったりしたら、ちゃんと言ってね。僕に出来ることなら何でもするからさ」


「それでしたら、抱きしめて頭を撫でてください」


「それならもっと近くに来て」



 こうやってスズランが人前で甘えてくるなんて珍しい。きっと今まで経験したことない感覚がして、不安なんだろう。そっと抱きしめながら頭を撫でてあげると、安心しきったように身を預けてくる。


 後ろの方からファンガスさんの「人前でイチャイチャするな」とか「俺も白の精霊と契約しようかな」なんて声が聞こえてくるけど、無視だ、無視。なんかニナのこともすごく気に入ってるんだよね、この人。結婚してないって言ってたし、独り身が寂しいのかも。



「ありがとうございます、マスター。もう大丈夫です。この先に何があったとしても、私と子供たちが不安になることはありません」



 リナリアとシアが羨ましそうに見てるけど、帰ってからいくらでも抱きしめてあげるから、もう少し我慢してくれるかな。なんかファンガスさんが血涙を流しそうな顔で、こっちを見てるんだよ……


 あっ、カメリアはツノのなでなでで、アイリスは供血ですね。

 わかってます、ちゃんとやるから安心して。



「エトワールさんたちの精霊はどうですか?」


「この子たちも、ちょっと元気がないね。私の肩に掴まって、飛ぼうとしないみたいだよ」


「でしたら皆様の精霊を、こちらに預けていただいても構わないでしょうか。私と触れ合っていたら、その子たちにもマスターの優しさが伝わりますので」



 僕とリョクみたいに特殊な場合を除き、精霊は基本的に契約主のそばを離れない。だけど、やっぱり同族であるスズランの呼びかけには、応えてくれる。一斉に飛び出すと、胸元にすがりついて甘えだした。



「ちくしょう、精霊と代わりたいっ」


「奇遇だな、ファンガス。俺様も同意見だぜ」



 どうやらファンガスさんとクロウに、友情が芽生えたっぽい。なんか二人で熱く語りだしたぞ。服の間からスズランの胸元に、潜り込む姿を見たからだろう。ああして挟まれるのは、男のロマンかもしれない。どことは言わないけど……


 でも頭だけちょこんと出して、くつろいでる姿は可愛いな。



「あっ、サクラも同じようにやってみる?」



 目の前に飛んできたサクラが僕をじっと見るので誘ってみたら、服の間に潜り込んできた。精霊って少し体温が低いから、動き回って火照った体に気持ちいい。


 それを見てたラムネはアイリスに、メロンはカメリアに、そしてミカンはリョクと一緒にシアの胸元に入り込む。もちろんスミレはリナリアの胸に飛び込んでいく。甘えん坊な精霊たちの癒やされる光景が、目の前で繰り広げられてる。



「これで大丈夫だと思うから、先に進もうか」


「やっぱりこの依頼、ダイチたちがいなかったら達成は難しかったな」


「何が原因かわからないけど、厄介なことが起きたもんさね」



 ノヴァさんとエトワールさんに誘ってもらえて、本当に良かった。お世話になった二人には、ちゃんと恩返ししたかったから。


 とにかくこの先で何がおきてるかわからない。慎重に進んでいこう。



◇◆◇



 氷雪エリアから洞窟に抜けると、吹雪はピタリと止む。まるでゲームのマップ切り替えみたいに、境界を越えると環境が激変する迷宮って、本当に不思議な場所だ。



「あれ? この先に人がいるみたいですよ」


「確かにダイチの言うとおりだ。人の印がマップへ表示されているな」


「何かの間違いじゃないか? ここへ繋がる入り口は、俺たちが通ってきた場所しかないぞ」



 ファンガスさんが(いぶか)しげな表情で僕たちを見る。このマップは他の人と共有できないから、ちょっと疑ってるみたい。だけど今まで、スミレのスキルが誤動作したことって、ないんだよなぁ……



「私の影に入ってる時に、追い抜かれたんじゃないかしら」


「その可能性もあるが、こんな奥まで来られると思うか?」


「ダイチ、人数はわかるか」


「どうやら一人のようです、ノヴァさん」



 マップに表示されているマーカーは一つしかない。星を四つまで上げた【探査】は、集団でいるモンスターでも数の把握ができる。そんな性能の高いレーダーで捉えているのは、一つの反応だけだ。



「ねぇねぇ、これって土地神じゃないのかな?」


「俺様たち精霊やおっぱい(しん)は、マップに映らないぞ、ご主人さま」


「あっ、そうだった」


「俺とファンガスが前衛を務める。ダイチとカメリアで殿(しんがり)を頼む。こんな場所に一人でこられるなんて普通じゃない。慎重に進むぞ」


「威圧感も一気に強くなっています。気をつけてください、皆様」



 スズランたちにプレッシャーを与える相手が、この先にいる誰かなんだろか。先頭を行くノヴァさんが、魔剣(クラウド)を構えながらゆっくり進んでいく。万が一のためにリナリアへ少し精気を渡し、いつでもアスフィーを抜けるよう手を添えながら、慎重に歩いていった。



◇◆◇



 しばらく進むと、前方に黒いローブを着た人物が見えてくる。身長は百八十センチくらいだろうか。ローブのせいでわかりにくいけど、帯剣もしてないし屈強な探索者といった感じではない。



「おい、そこのお前! 俺はイノーニに所属する特級探索者だ。ここは立ち入り禁止区域だぞ。一体どうやって、ここへ入った」



 ファンガスさんの呼びかけで、前方にいる人物がこちらを向く。

 そこから見える顔には、大きな傷跡があった。



「あーーーっ! お前はボクの村をモンスターに襲わせた男っ!!」



 怒りの炎に染まった顔で、カメリアが叫ぶ。

 まさかこんな場所で因縁の相手に出会うなんて思ってなかった。もしかして全ての原因は、この男なんだろうか……


とうとう出会ってしましました。

次回「第6話 因縁の相手」の更新をお待ち下さい。

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