第3話 大勇者vs大地
誤字報告ありがとうございました。
最近文字抜けが多い……
キーボードのストロークが深くなったせいだろうか(笑)
ノヴァさんが虚空から取り出したのは、黒い鞘に収まった大太刀だった。刀身は波紋がきれいに出ている片刃で、鍔や柄の造りも日本刀に近い。上身の長さは一メートル三十センチくらいあるだろうか。
だけど洋風な名前が惜しい!
せっかく侍言葉で話してるんだから、祢々切丸とか破邪の御太刀みたいだったら満点なのに。
「ノヴァさんも意志ある道具と契約したんですね」
「頑丈で扱いやすくて、かなりいい奴だぞ」
『拙者の力を引き出せる使い手に拾われたのは、幸運だったでござる』
『クラウド、話しかた変』
『そうでござるか? 拙者、普通に喋っているつもりでござるが……』
僕には侍言葉で伝わってくるけど、この世界の人にはどう聞こえてるんだろう。アスフィーがこう言ってるんだし、変な訛りがあるのは間違いない。僕に備わってるだろう翻訳スキルも、面白い動作をするものだ。
『それより、お主がアスフィー殿でござるな。ノヴァ殿から話を聞いて、一度お会いしたかったでござるよ』
『クラウド、擬態できる?』
『その域には達しておらんでござる。まだまだ修行不足でござるな……』
僕の手の中にいるアスフィーから、小声で『勝った』という声が聞こえてくる。やっぱり魔剣同士でライバル意識があるんだね。
「おいおい、剣同士が話をしてるぞ」
「すごい光景が見られたな」
「俺もあんな武器がほしい……」
「幼女に変身できるとか最高じゃないか」
「かっこいい男に変身できる武器があったら、私そいつと結婚するわ!」
こうやって二人の意志ある道具が揃うことって、めったに無いんだろう。訓練場の中はかなり盛り上がってきた。お互いに魔剣同士なら、安心して真剣勝負が出来る。ノヴァさんは相手を傷つけない技量があるし、アスフィーなら危険な状況になった時に、手加減してくれるからだ。
「よし! そろそろ始めるか」
「はい、お願いします」
場外の声から意識を戻し、アスフィーを構え直してノヴァさんと対峙する。横目で仲間の方を見ると、リナリアの余剰精気はもう少しで無くなりそう。今回はスピード勝負しかない。
「セヤッ!」
――キィィィィィィィィィーン
大上段の構えから一気に近づいて刀を繰り出すが、ノヴァさんは正面からそれを受け止めた。だけど【迎撃】スキルが発動してないのは幸いだ。あれで迎え撃たれると、ノックバックしてスキが出来てしまう。
一旦距離をとって回り込みながら何度も打ち込む。そしてそのまま鍔迫り合いになった。
「動きがかなり良くなったな、ダイチ。それに太刀筋も安定してる」
「最近はずっと迷宮に通ってましたからねっ」
『拙者と斬り結べるとは、流石でござるな』
『クラウド硬い。刃こぼれしないとか、驚いた』
ラムネの【解析】で見てみたけど、クラウドには[無傷・堅利・軽快・不汚・顕現]の効果がついている。アスフィーでも斬れないのは、恐らく[無傷]が付いているからだろう。初めて見た[堅利]と[軽快]も、強度や取り回しに関する何かのはず。
それにしても意志ある道具の効果を四つも引き出せるんだから、二人の相性はかなりいいみたい。
「カメリアの動きもそうだが、以前とは比べ物にならないほどキレが増したのは、リナリアって子のおかげか?」
「えぇ。なにせあの子の歌は、神様が気に入るくらいですよ」
「そのへんも後でまとめて聞かせろ」
フットワークを活かしてヒット・アンド・アウェイを繰り返すが、ノヴァさんは軽々それをさばいていく。奥の手を出してみてもいいんだけど、今は剣術だけで戦ってみたい。
「ノヴァさんとあそこまでやり合えるなんて、あいつは何者だ?」
「迷宮内で暴れていたモンスターを捕まえて使役しちまったとか聞いたが、あんな実力者揃いだったのか?」
「いやいや、大勇者も手加減してるんだろ」
「それでも俺たちに、あれだけの攻撃はできそうもない……」
確かに手加減をしてくれている。ノヴァさんも人族が持つ上位スキルの【迎撃】や【痛撃】が発動しないように、僕の攻撃を受け止めてくれてるのが証拠。きっと一緒に活動することを、周りやギルド幹部に納得させるための模擬戦だろう。
武器の間合いが違いすぎるので、足を止めて打ち合うのはこっちの不利になる。だけど時間があまり残ってないし、練習中の技を試してみるか……
「アスフィー、あれをやってみよう」
『わかった。集中して』
一旦間合いを大きく開けて、アスフィーを正眼に構えなおす。それから目をつぶって呼吸を整え、意識を研ぎ澄ませていく。するとアスフィーから鼓動のような波が感じられる。それに自分のリズムを合わせていき、同期したところで目を開けた。
「いきますっ!」
一気にノヴァさんへ肉薄して剣を振る。ただ振るだけでなく、目の前に図形を描きながらだ。単純な〝|〟や〝―〟、それに〝∠〟や〝∨〟といった形をランダムに繋げ、複雑な軌道を生み出していく。即興で組み合わせるので、ワンパターンになりにくい。
「面白い剣技を使うな! だが、まだまだ繋ぎが甘いぞ」
やっぱりノヴァさんだ、一発で欠点を見抜かれた。元の世界で見た覚えのある、架空の剣術を真似てみたんだけど、再現するのは難しんだよ。
「これでも崩せませんか……って、あっ!?」
二十合ほど切り結んだ時、アスフィーがすっぽ抜けて飛んでいってしまう。上空で人の姿に変わってくれたので、慌てて受け止めた。
「主様、修行が足りない」
「うん。剣を手放しちゃうなんてごめんね、アスフィー」
「ちゃんと抱っこしてくれたからいい、今回は許す」
「相変わらずお前ら仲良しだな」
『ちょっと羨ましいでござるよ』
なんとも締まらない終わり方になってしまったから恥ずかしい。ノヴァさんは剣を鞘に戻してるし、リナリアの余剰精気も消えてしまってる。模擬戦はここまでってことでいいのかな。
「さあ、次は私の番だね。かかってきな、オルテンシア」
「わかりました、エトワール様。全力で行きます」
うわー、この二人もやるのか。多分加減はするんだろうけど、こんな狭い場所だと危険じゃないかな。
◇◆◇
二人の戦いは魔法で作った鳥や昆虫がぶつかり合う、とても激しいものになった。そしてシアがエヨンで見たドラゴンを出現させたところで、ギルド長からストップがかかる。
訓練場が倒壊する前に、怪獣大戦争は終わったのであった……
所々穴が開いたり、焦げたりしちゃったけどね!
次回はいよいよ本題。
「第4話 イノーニの異変」をお楽しみに!