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閑話20 三人寄れば……?

誤字報告ありがとうございました。


本日は閑話をお送りします。

 大地(だいち)たちが帰っていった翌日、妖虫(ようちゅう)の出現で巻き起こった混乱をある程度収束させ、三人の長老とユーフォルビアは神樹が立つ聖域に集まっていた。



「これで一区切りといったところか。そちらはどうだった? ストアムール」


「儂はお主(アドニス)のような強引さ(カリスマ)をもっとらんし、なんとか納得してもらえたといったところかの」


「ユーフォルビアもご苦労であったな」


「もったいないお言葉です、ファーイ様」



 疲れのにじみ出た顔で、四人はホッと一息つく。なにせ昨日の騒ぎは多くの人に目撃され、首都であるオッゴでは知らない者がいないほどだ。当事者の四人は寝る間を惜しんで、各所への説明や報告に奔走している。



「オルテンシアの結界魔法で、周りに被害が出なかったのが幸いだったな」


「あの規模の結界を一人で維持するとは、ハイエルフというのはとんでもない存在だの」


「それを言うならダイチという人族の男も、相当の手練(てだれ)であったぞ」



 多数の空気弾をばらまく魔法、弧を描きながら回転し切り裂く風魔法、そんな未知の魔法を次々と見せられた。しかも発動速度が自分たちより速く、威力や規模も賢聖(けんせい)に引けを取らない。そして最後まで集中力を切らさず、マナ不足に陥ることもなく戦い抜いたのだ。初めて()()たりにしたユーフォルビアが落ち込んでしまったのも、無理のないことであろう。



「精霊獣を使役する魔神族の少女、絶滅寸前の吸血族。あのような者たちが、ウーサンに定住しているとは……」


「相変わらずアプリコットの手腕は、見事と言うしかないの」


「過ぎた力を持つ者がウーサンの手駒になるのは、危険ではないか?」


「神樹様が種を託したのだ。そこは信じるしかあるまい」


「息子からなにか聞いておるかの?」


「彼らは各国の土地神様と、交流があるそうです。ですから侵略に加担するような心配は、ないと思われます。それに探索者ギルドでの評価も高く、いずれ特級へ昇格するのではないかと、噂になっているとか」



 純粋な戦闘力は言うまでもなく、彼ら〝天空の翼〟は受付嬢の評価が高かった。それはもちろんリーダーとして矢面(やおもて)に立つ、大地の人柄によるものだ。


 中級探索者は増長する者が増えるランクでもあり、一般人から煙たがられることが多い。そんなランクにいるにも関わらず、丁寧で下手(したて)な対応ができる大地は、レアな存在だった。


 そして彼らが上がると噂されている特級探索者は、国家が認定するランクになる。それを認めた国へ所属することが義務付けられるため、審査基準はとてつもなく厳しく、加えて大きな責任も伴う。なにせ国家の最高戦力として、規範ある行動が求められるからだ。そのため、このランクに上がる者は人格者が多い。



「我らですら見たことのない意志ある道具インテリジェンス・デバイス、そして特殊な精霊たち。信じられんものを矢継ぎ早に見せられ、いまだに夢の中にでもいるかと思うほどだ」


「精霊獣を従え、獣人族を超える身体能力を持つ魔人族。更に神の力を具現化する魔剣だからな。他の賢聖二人に、どう説明すればいいやら」


「実際に見てみぬと、信じられんことばかりじゃからの」


「「「気が重いのぉ……」」」



 神樹の問題に他国の手を借りるのは当初から反発も多く、特に賢聖(けんせい)は不満をつのらせていた。そんな中でユーフォルビアが特使に任命されたのは、プライドを理性で抑え込むことが出来たからである。


 残り二人の賢聖と実力者たちは、今日中に迷宮から帰還する予定だ。彼らにどうやって説明すればいいものか、長老たちは頭を抱えてしまうのであった。


 そんな四人の話し合いを、エアリアルは上からそっと見守っている。彼女の周りには空気の層があり、外部からは全く見えていない。これまでオッゴの土地神がほとんど姿を現さなかったのは、単に不可視の状態だっただけ。彼女はこれまでも、人の営みに目を配っていた。


 事態の収拾が難しそうなときは少しだけ力を貸してあげよう、そんな事を考えながら神樹の頂上まで登っていく。力が大きく上昇したことで神樹の管理が楽になったエアリアルは、もっと人との関わりを増やしていこうと思い始めていたのだ。


 この変化がオッゴの国にさらなる安定をもたらし、豊かな自然と豊富なマナを享受(きょうじゅ)したエルフ族は、平均寿命を徐々に伸ばしていくことになるのだった。



◇◆◇



 神樹の一番上に移動してきたエアリアルは、全身で陽の光を浴びながら空気の椅子に腰掛ける。そうやって日光浴をしていると、吸収したエーテルで神樹が生み出すオドを取り込み、光の作用でどんどん自分の力に変わっていく。


 自然の精気だけでは得られない満足感を得て、彼女は上機嫌で歌を口ずさむ。それは昨日、リナリアが歌ってくれたメロディーだ。リズムに合わせて体を動かしているエアリアルに、突然声がかけられた。



『聞こえますかー?』


「えっ!? なになに、誰が話しかけてるの?」


『ダイチさんから聞いていると思いますが、ウーサンで水の守護者をやっているナーイアスですよ』


『あたいもいるぜ! エヨンで火の守護者をやってるイグニスだ』


「うわっ、耳元で話しかけられてる感じがして、すっごく気持ち悪い」


『そのうち慣れますよ』



 突然のことに驚いていたエアリアルだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。他の土地神から自由気ままと評される彼女の性格だが、こだわりが少なく物事の変化に柔軟な対応ができるということでもある。



「こんな事できるようになるなんて、あの子たちから聞いてなかったんだけど?」


『ダイチさんたちには、まだ秘密にしていますからね』


『あいつらが全ての守護者に会えるまで、変に使命感を与えたくないんだとさ』


「ふ~ん。他の守護者に名付けをお願いしてる時点で、かなり重責な気もするけど、まあいっか。それよりイグニス。まさか火の力で助けられることになるなんて、思わなかったよ」


『ん? もしかしてカメリアのやつが、なんかやったのか?』


『あなたがつけてもらった名前も含めて、詳しく聞かせてください』



 まだ大地やアプリコットから報告を受けていなかったナーイアスが、興味深そうな声色(こわいろ)でエアリアルに質問を投げかけていく。そして想定以上の事態になっていたことに驚かされた。



『ですが、さすがはダイチさんたちですね、まさか人の身で古代種を滅ぼしてしまうとは』


『それって魔剣の力じゃんか。あれを改造した、あたいを褒めてくれよ!』


「ハイエルフに精霊獣や強力な魔剣、おまけに擬態できる意志ある道具インテリジェンス・デバイスとか、珍しい物の見本市みたいじゃん。あんなのをウーサンが手駒にしてるってのがわかって、エルフの子たちが頭を抱えてたよ」


『カメリアのやつはただの強化版でしかねえけど、ダイチの持ってる魔剣は相当やばいからな。あたいの見たところ、まだまだ本来の力は出てないぜ。それが発揮されたときにどうなるのか、想像すらできないね』


『あの子たちが他国の脅威になることは、まずありませんよ。ウーサンの代表者であるアプリコットも、武力として利用するつもりはないと明言していますから。そもそもダイチさんが、そんなことをするはずがありません』


「ナーイアスってさ、あのダイチって子に相当入れ込んでない?」


『そうなんだよなぁ。この間ものろけ話を聞かされたんだぜ』



 海水浴での出来事を一晩中聞く羽目になったイグニスが、うんざりした声でため息をこぼす。



『だってダイチさんがいてくれたら、水辺で自由に遊ぶことができるんですよ! あの人はわたくしに色々なものを与えてくれるんです。好きになってしまうのは仕方ないじゃないですか』


『あたいもこの山から出られねえし、その気持は少しだけわかる気がする』


「私も神樹からあんまり離れられないから、自由な生活って憧れるかな」


『みんなそうですよね!』


「でもさ実はあの子たちって、神樹から種を託されたんだよ。それが島で育ったら、私はそこで自由に行動できるようになるかも」


『なんですかそれ! エアリアルだけずるいですよ』


『あたいは近くに溶岩でもないと、力を取り込めないしなぁ』


『ダイチさんたちのいる島に温泉がありますけど、あれって地下に熱源が存在するからですよね?』


『そんなものがあるのかよ! もしかして火の祭壇でも作ったら、あたいも行けるようになるんじゃねえか?』


『その辺、ちょっとじっくり話し合いましょう』



 そうして三人は、イルカ島で自分たちが自由に行動する方法を、議論し始める。そして聖域や祭具に詳しい土の守護者も巻き込もうと、結論が出るのだった。



◇◆◇



 希望の道筋が見えてきた気がして、三人は落ち着きを取り戻す。



「う~ん。リナリアちゃんに会いに行けるのは楽しみだなぁ」


『どれだけリナリアのことが好きなんですか、あなたは……』


『あたいはリナリアって人魚族には、会ったことないんだよな』


「もう小動物みたいで、超カワイイの! 近くにいるだけで癒やされるしさ、歌を聞くとすっごく元気が湧いてくるんだよ」


『あの子の歌にはダイチさんの力が乗りますから、ありえないくらいの効果が出ますよね』


『へー、おもしろそうじゃないか。あたいも聞いてみたいもんだぜ』



 イグニスはオルテンシアの魔法を気に入り、エアリアルはリナリアにご執心。それを確認できたナーイアスは、そっと胸をなでおろしていた。ライバルは一人でも少ないほうが、いいからである。



『それよりスズランと会ってみてどうでしたか? 確か大精霊様と直接話しをしたのは、エアリアルが最後でしたよね』


「あー、うん。そうだった、そうだった。ふらっと遊びに来たあの人が「旅に出るから探さないで欲しい」なんて言ってどっかに行ってから、誰も会ってないはずだよ」


『姿を変えてこの世界に戻ってきた可能性は?』


「多分ないね。確かにスズランって子は、それっぽい雰囲気がある。だけどあの子と大精霊って、違いが多すぎるもん。そもそもあの人は無邪気っていうか、子供みたいたとこがあったじゃん」


『あー、確かにお茶目なところがあったよな』



 エアリアルの持っている大精霊のイメージは、もっと気分屋で自由人というもの。それゆえ性格の近いエアリアルと馬が合い、守護者の中では一番多く会っている。そんな彼女とスズランは、あまりにかけ離れていた。



『スズランは落ち着きすぎているってことでしょうか』


「少ししか話してないから、あの子のすべてを知ってるわけじゃないけど、あんな感じに話す姿と大精霊は結びつかないかな。ただ持ってる力はちょっと怖いけどね」


『まあ、それはダイチさんがいれば大丈夫ですから』


「変わった子だとは思ってたけど、まさか越境人(えっきょうじん)だったとはね」


『元の世界に帰る方法とか、エアリアルは知りませんか?』


「創造神じゃないんだから、わかるわけ無いって。それこそ迷宮の神にでも頼んでみるしか、ないんじゃない?」


『やはりそうなりますよね……』


『あいつらって、あたいたちとは違う世界の神らしいからな。ここで議論したって無駄だろ。今んとこは見守るしかないってことだ』



 土地の守護者たちが迷宮に干渉できないのは、管理している神が違うからだ。一つの星が異なる世界と呼べるものを内包している理由は、彼女たちも知らない。そうした不安定さが、越境人を呼び込む原因になっているのだが……


 結局イグニスの言うとおりだということになり、三人はお互いの近況を確かめ合いつつ、世間話に花を咲かせるのであった。


次回は毎度おなじみ幕間の更新で一休みします。


そして舞台はイノーニへ(ご都合主義なのでw)

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