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第11話 円満解決

誤字報告ありがとうございました。


第9章本編の最終話です。

 名付けによって新しい力を得たエアリアルさんは、歌い出しそうなくらい上機嫌だ。どうやらこの人は、空中を足場にすることができるみたい。階段を登るように神樹(しんじゅ)の枝へ歩いていったので驚いた。


 今は少しだけ浮き上がって、背後からリナリアに抱きついてる。



「いやー、楽ちん楽ちん」


「柔らかいけど、ちょっと重たいの」


「なんかリナリアちゃんの頭って、すごく乗せやすいんだよ。きっと相性が抜群だからだろうね」


「そのお気持ち、よくわかります。私もマスターにそうして支えてもらうと、とても癒やされますので」



 ベッドの上でよくやられるんだよね、これ。今はもう落ち着いていられるけど、最初はドキドキして大変だった。リナリアも慣れてくれば、包み込まれるような感触が癖になってくるかも?



「ボクもダイチにやってみようかなー」


「おっぱいなら俺様がいつでも支えてやるから、任せておけ!」


「くっ……! 私とてあと百年も経てばあれくらいに」


「どうして大きさばかりにこだわるのか、私には理解できないわね」


「土地神様とすっかり打ち解けてるダイチ君たちは、本当に凄いよ……」



 こちらに近づいてきたカクタス君に、開口一番あきれられてしまった。やっぱりナーイアスさんと一緒に遊んだだけあって、エルフ族の中では一番最初に復帰してる。他の人たちは、まだ近づくことすらためらってるみたい。


 もうしばらく時間がかかりそうだし、ちょっと疑問に思ってることを聞いてみよう。



「すいませんエアリアルさん、質問してもいいですか?」


「うん、いいよー」


「さっき神樹の生み出す[オド]って言ってましたが、それは一体なんなのでしょう」


「確かに[オド]という言葉は、エルフ族の文献でも見たことがない」



 本を読み漁ってるシアでも初耳だったのか。三人の重鎮たちも知らなかったらしく、興味深そうな顔で近づいてきた。緊張をほぐすために、ちょうどいい質問だったかも。



「迷宮がエーテルで満たされてるってのは、君たちも知ってるよね?」


「はい。モンスターの(もと)になったり、迷宮を維持してる物質だと聞いてます」


「この国にある迷宮は、エーテルの(よど)みが発生しやすい。実はこれが厄介でね、あんまり偏った溜まり方をすると、迷宮のバランスが崩れちゃうの。神樹はそのエーテルを吸って、均衡を保ってくれてるわけ」


「なるほど。それで神樹様が迷宮の暴走を抑えていると、伝えられているのだな」


「まだ大陸が混沌としてた頃は、この辺りで迷宮の氾濫がよくおきて、森とか荒れ放題だった。それを何とかしようって立ち上がったのが、オッゴを建国したエルフ族の賢者なんだよ」



 その人物がどうやって神樹の種を手に入れたのか、それはエアリアルさんにもわからないそうだ。もしかしたら迷宮で願いを叶えてもらったのかもしれないな。人々の安全と森を守るために尽くすなんて、さすが賢者と言われるだけのことはある。



「で、神樹の吸収したエーテルが、オドって物質に変わるの。それは月の光を受けると、ゆっくりとマナに変わる性質を持ってる。エルフ族の魔法適性が高いのも、ここのマナがすごく濃厚なのが理由」


「この国の迷宮で異変が起きてましたけど、やっぱり妖虫が活性化して神樹が弱っていたからですか?」


「それがちょっと違うみたいなんだなー。多分だけど、エーテルに不純物が混ざって人で言うところの、お腹を壊した状態になってた感じ。そのせいで封印が弱まって、虫が私や神樹を(むしば)んでたの」



 土地神は迷宮内に干渉できないから、なにが起きたのかは一切わからない。もしかして例の迷宮解放同盟とやらが、関わってたりするんだろうか?


 なんか虫が突然活性化したので、エアリアルさんもびっくりしたそうだ。その後は神樹に取り込まれて、力を吸われていたとのこと。思い出すだけで鳥肌が立ってたくらいだから、相当気持ち悪かったんだろう。


 だからって両手をワキワキさせながら、リナリアに甘えないでください。どこのスケベオヤジですか、あなたは。



「このような事態を見逃しておったとは、不徳の致すところであるの」


「我々は神樹様のことを、何もわかっていなかった。誠に遺憾だ」


「幼虫が現れても指をくわえて見ているしかなかったとは、当事者でありながら慚愧に堪えん」


「我ら責任を取って総辞職するしかないかもしれんな」


「お待ち下さい長老様。それをおっしゃられるなら、この賢聖(けんせい)ユーフォルビアとて同じです。今回の一件、私はなにもできませんでした。不徳の遺憾が慚愧に猛省であります!」



 気持ちは伝わってくるけど、言葉を繋げればいいってものじゃありませんよ、ユーフォルビアさん。それにいきなり重鎮が総辞職なんかすると、内政が不安定になりそうですし、よく考えて決めてくださいね。



「あー、こらこら。責任を主張しあったって、なにも解決しないぞ。ここにエルフ族以外を入れるなんて、英断だったんだからさ。おかげでリナリアちゃんの歌を聞いた神樹が、一時的に力を取り戻すことができた。それを嫌がった虫が外に出て、火の守護者から借りた力で浄化されたの。みんな良くやってくれたよ、ありがとね」


「「「「ははーっ。もったいないお言葉です」」」」



 さすがこの国を守護する土地神だ。うまくまとめてくれた。ここって国興(くにおこ)しの起源になってる、エルフ族にとっての聖地だもんな。そんな場所に僕たちを入れてくれたどころか、シアの存在まで認めてくれている。間違いなくこの三人じゃなかったら揉めてただろう。この人たちには、できるだけ長く頑張ってほしい。



「ここに他の守護者なんて呼べないから、神樹に封じてもらうしかなかった虫も消えちゃったし、私の力もすごく大きくなってる。この国は今日から生まれ変わったんだよ。そんな瞬間に立ち会えて超ラッキー、くらいに思っとけばいいんじゃないかな」



 なんだかこの人、本当にノリが軽いな。おかげで深刻にならなくて済む。


 とにかくこれで、神樹の力を制御していたエアリアルさんの負担も、大きく減るみたいだ。そして、あの妖虫は古代種の生き残りだから、もう現れることはないだろうとのこと。もっとも今のエアリアルさんなら、封印という消極的手段に頼らなくても、対処できるみたい。


 「存在が維持できないくらい、こま切れにしてあ・げ・る」なんて笑顔で言ってて、ちょっと怖かったけど!




 こうして神樹の種という貴重なものをもらった僕たちは、長老たちに感謝されつつウーサンへ帰ることにした。


次回、三人に増えた土地神たちの語らい。

新しい事実や今後の方針が明らかになります。

「閑話20 三人寄れば……?」をお楽しみに!

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