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第6話 もうやめてあげて!

 ユーフォルビアさんの話によると、オッゴを守護している神樹(しんじゅ)に、異変が起こっているらしい。色々手を尽くしてみたが改善せず、徐々に活力が失われていってるそうだ。


 いよいよ見た目にも神樹の不調が現れだしたため、長老会がウーサンへ支援を求めると決定。そこで特使として派遣されたのが、一番若い[賢聖(けんせい)]であるユーフォルビアさんだった。神樹は歌姫のコンサートがあると、すごく調子が良くなるため、それを試してみようということみたい。


 そこでリナリアに白羽の矢が立つ。なにせ前回のラストステージで、強力なバフ効果を発揮している。歌に反応すると言うなら、一番効果が高いだろう。


 歌の効果を上げるには僕の協力が必須だし、特殊なメンバーの多いパーティーなので、原因の特定もできるかもしれない。アプリコットさんはその辺りを考えて、全員を派遣することにしたそうだ。



「最近のオッゴは妙に規制が厳しくなっておったのじゃ。何かあるとは思っておったが、話を聞いたときは驚いたのじゃ」


「なにか予兆があったとか、他に異変がおきてるとかはないんでしょうか?」


「予兆については何もわからない、ただ……」



 そこでユーフォルビアさんが言いよどむ。



「オッゴの神樹様は、迷宮の暴走を抑える役目をしている。もし何かあるとすれば、そちらに影響が出ているはずだ」


「探索者の事故が増えていると噂になっておったが、そう繋がるわけじゃな」


「……その通りだ。他の賢聖や実力者たちは、そちらの対処で手が離せない」



 以前シアから賢聖は三人いると聞いてたけど、国家の最高戦力を二人とも投入しないといけないほどの事態か。そんな状態で賢聖の一人を派遣してきたんだから、状況は逼迫(ひっぱく)していると考えたほうがいいだろう。


 だけどいくらシアの姿を見たからって、いきなり使命を放り出して帰ろうとするのは、どうかと思うけどね。一番若いから特使に選ばれたのかもしれないけど、人選を間違ったんじゃないかな。



「それならリナリアの歌で元気にしてあげるの」


「し、しかし、神樹様のいる聖地に得体のしれん者を入れるわけには……」


「貴方はまだそんなことを言っているのですか。そのような状態になっているのなら、おそらく風の守護者にも影響が出ているでしょう。わたくしを救ってくださった彼らなら、事態の収拾を図れるかもしれません。この者たちは神の使い、水の守護者ナーイアスの神使(しんし)として扱いなさい。よろしいですね」


「はっ、ははーっ! 土地神様の仰せのままに」



 ちょっとパワハラっぽくなってるけど、ゴネてる時間なんてないはずだ。非常事態なんだから、無理矢理にでも納得してもらおう。



「あらら。やっぱりナーイアスさん相手だと、ユーフォルビア君も形無しね」


「おっ、お前は!?」



 階段を上がって学園長室に入ってきたのは、カトレアさんだった。それを見たユーフォルビアさんが驚いた顔をしてるけど、二人は知り合いなんだろうか? エルフは三百年以上生きられる種族だし、カトレアさんも元歌姫で世界を回っている。どこかで顔を合わせていても、おかしくないな。



「おばあちゃん、どうしてここにいるの?」


「来月から学園で非常勤の講師をすることになっててね、それの手続きをしに来たんだ。そしたらユーフォルビア君が来てるって聞いたから、顔を見に寄らせてもらったの」



 時間を持て余すから何かしたいって言ってたけど、学園の講師に決まったのか。ここにすんなり入らせてもらえるってことは、すでに教員たちの信頼を得てるんだろう。なにせ社交性に富んでる人だし、人好きのする性格をしてる。きっと生徒たちからも、高く評価されるはず。



「カトレアさんと父上は、顔見知りだったのですか?」


「知らん。私はこんな女性など見覚えがない。そもそも彼女は死んだと聞いている。百年以上経ってるのに、以前と同じ姿で現れるわけ無いだろ。私を(たばか)ろうとしているのだろうが、その手にはのらんぞ」


「もー、つれないなー、ユーフォルビア君は。私に振られたからって、そんなこと言わなくてもいいのに」


「ぐはぁッ」



 いきなり爆弾を落としてきたぞ、カトレアさんは!

 ユーフォルビアさんがクリティカルヒットを受けてるじゃないか……


 この人は枯れ専なんです。青年期の容姿が長いエルフ族は、絶対に振り向いてもらえませんから、落ち込まないで下さい。ファイトですよ、ユーフォルビアさん!



「本当なのですか、父上!? 確か以前、自分に失恋の経験など無いと、おっしゃっていたはずでは……」


「あっ、当たり前だ。私は賢聖ユーフォルビア、全てを兼ね備えた男なのだぞ。このような世迷い言に、耳を傾ける必要など断じてない!」


「そういえば私が出演してた歌姫の祭典会場でも、魔人族や獣人族の女性に声をかけてなかった?」


「でゅくしッ」



 もうやめてあげて! ユーフォルビアさんのライフはゼロだから!!



「もしかして、父上がエルフ族しか(めと)らなかったのは……」


「ちっ、違う! 誤解してはいかんぞ、カクタス。それはエルフ族の女性が素晴らしいからだ。決して他の種族に振り向いてもらえなかったからではない。だからお前も嫁にするなら、エルフ族の女性を選ぶんだ。いいな」


「申し訳ありません、父上。私は人魚族の女性とお付き合いをしております。卒業後は彼女と家庭を持つつもりです」


「なっ……なん、だ……と」



 海水浴に行った日の夜、花火をバックにプラムちゃんと結ばれてるんだよな、カクタス君は。すごくお似合いの二人だし、きっと素敵な家庭を築けると思うよ。



「卒業して歌姫を引退したら、カクタスさんに人魚の涙を捧げるって、プラムちゃんは言ってたの」



 人魚族の女性が家庭を持つって、つまりそういうことになる。カクタス君も世の男性が憧れる恩恵を、手に入れるってことだ。


 呆然としていたユーフォルビアさんだったけど、カクタスくんの両肩にゆっくり手を乗せた。



「ふっ……父を超えたな、カクタス」


「ありがとうございます、父上。賢聖の息子の名に恥じぬよう、今後も邁進(まいしん)していく所存です」



 エルフ至上主義の嫌な印象しかなかったけど、なんだかすっかり見方が変わってしまったな。これで少しは付き合いやすくなるかもしれない。弱みも握ったし!



「あっ、そうそう、ユーフォルビア君。そこにいるダイチ君も、人魚の涙を受け取ってるよ。ちなみに相手は私の孫だからね」


「おうふッ……」



 どうにか復活したユーフォルビアさんに、カトレアさんはとどめの一撃を放つ。テーブルの上に崩れ落ちてしまったけど、大丈夫だろうか?




 とにかく僕たちは賢聖の一人から、一目置かれる存在になった気がする。この人に協力してもらいながら、神樹の治療をやってみよう。


エルフ族の長老に迎えられる主人公たち。

オルテンシアも姿を隠さず、堂々と長老たちの前に立つが……


次回「三人の重鎮」をお楽しみに!

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