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第5話 突然の呼び出し

 今日のお昼すぎ、マーレ学園の学園長アプリコットさんから、呼び出しを受けた。職員用の通用口で手続きをすませると、直接学園長室に来て欲しいとのことだったので、そのまま校舎内へ。



「学園でもお兄ちゃんに会えて、嬉しいの」


「あれ? リナリアも一緒に話を聞くの?」


「うん、お母さ……じゃなかった、学園長先生に来てほしいって言われたの」



 授業中の生徒を呼び出すなんて、もしかして緊急事態なんだろうか。少なくともこの国は、ナーイアスさんの強力な加護のおかげで、平和そのものだ。人魚族は世界中に情報網を張り巡らせているから、他国でなにかあったのかもしれないな。


 それなら、どうしてリナリアが?

 まあ何があったにせよ、できるだけの協力はしよう。


 職員室の奥にある扉を開け、上へ繋がる階段を登っていく。階段は学園長室へ直接つながってるので、話し声がわずかに聞こえてくる。これって盗み聞きとかの対策は大丈夫なのかな……


 もっともここは職員室経由でしか来られないし、密談だったら会議室を使うだろうから、その辺は抜かりないはず。なにせ情報が武器の国だし。


 部屋が近づくに連れ、声がはっきり聞こえだす。男性の声ってことは、やっぱり他国のお偉いさんかも。ちょっと緊張してきた。



「失礼します、学園長。探索者パーティ〝天空の翼〟です」



 国を拠点として活動していくなら、固有の呼び名があったほうがいいらしい。それでこの機会にパーティー名を付けようって話が持ち上がる。僕たちのパーティには飛べるメンバーが三人いるし、クロウは人を乗せることも可能だ。なのでそのアドバンテージを、名前に込めてみた。翼って言葉が入ってるから、クロウが大喜びしてたよ。



「わざわざ呼び立てて申し訳なかったのじゃ」


「いえ、そのために連絡用の魔道具を受け取ってますので」



 僕たちはアプリコットさんから、ラジオみたいな魔道具を預かっている。連絡が入ると色が変わって音が鳴る、大昔に普及してたっていうポケベルみたいに単純なものだ。この世界では画期的な魔道具なんだけど、迷宮の中では受信できないし、距離が離れすぎててもダメみたい。


 ただしアイリスの影に取り込んだ状態なら、距離の制約を無視してしまえる。確かアイリスのスキルは、影の中と現実の空間を重ね合わせてると言っていた。そのあたりが受信できる理由だろう。



「こんにちは、ダイチ君、みんな」


「あれ? カクタス君も来てたんだ。じゃあ、もしかして隣りにいる人って……」



 カクタス君と並んで座っているのは、きれいな金髪を短く刈り揃えた、三十代くらいに見える男性だ。エルフ族って容姿が整いすぎてて、みんな同じような顔に見えてしまう。そんな中でもカクタス君やシアは、他の人とは違うオーラみたいなものを持っている。部屋の中にいる人は、それとは別の迫力があった。



「こちらは百二十八代目[賢聖(けんせい)]ユーフォルビア。私の父だよ」


「私が賢聖ユーフォルビアだ。悪いが今日は帰らせてもらう」


「一体どういうことじゃ、ユーフォルビア殿」


「確かに人選はそちらに一任した、それに少人数の付き人も認めている。しかし、こんな連中が来るとは思わなかった。それが理由だ」



 ユーフォルビアさんの視線は、シアに向けられていた。やっぱり彼女のことを、ダークエルフだと思ってるんだろう。アプリコットさんもそれがわかってるはずなのに、どうしてこの場に僕たちを呼んだんだ?



「お待ち下さい、父上。先程も申しましたが、彼らはとても優秀な者たちです。きっと事態の解決に力を貸してくれます。もう一度お考え直し下さい」


「お前が認めた人物だというから、こうして会ってやったのだ。これ以上わがままに付き合う時間はない。そもそも私は他国の協力を得ること自体、反対だった。長老たちの威令(いれい)で、やむなく賢聖である私みずから足を運んだというのに、よりにもよって……」



 僕たちをほったらかしにして論争を初めてしまったので、事態がさっぱりわからない。事前に説明を聞ければよかったんだけど、電話やメッセンジャーアプリのない世界だし。



「なんだか面倒くさそうね。帰ってもいいかしら」


「すまぬがもう少し待って欲しいのじゃ」


「そもそも私たちを呼んだ時点で、こうなることはわかってたんじゃないの?」


「それはそうなのじゃが……」


「その責任は私にあるんだ、アイリス」


「どういうことなのかしら。説明なさい」



 歌姫であるリナリアと共に活動していく以上、いずれオッゴの国にも行くことがあるだろう、シアはそう考えていた。そのたびに一人別行動を取るのは嫌だし、なによりハイエルフという自分に誇りを持っている。すぐに理解してもらうのは不可能にしても、祖国から逃げ回るような真似はしたくない。


 だからオッゴ絡みの案件でも参加させて欲しいと、アプリコットさんに頼んでたみたいだ。



「私のワガママにつき合わせて申し訳ない。今さらオッゴで暮らせるとは思っていないが、それでも自分の祖国だ。なにか出来ることがあるなら協力したい。これからお互いの関係を変えていく、きっかけになると思ってるからな」



 凄いなシア。出会った頃は自分を卑下(ひげ)してばかりだったけど、ちゃんと前を向いて歩き始めてる。僕もそんな部分は見習っていかないと……



「何がハイエルフだ、肌の汚れた汚らわしいダーク――」



 ――ダンッ!!



「それ以上はやめてもらえますか」


「貴様は賢聖である私を脅すつもりか!」



 僕は思わずユーフォルビアさんに近づき、テーブルの叩きつけながら睨んでいた。



「賢聖がどれだけ偉いのかわかりませんが、言っていいことと悪いことがあります。いくらなんでも大切な人の悪口は聞き流せません。さっきの言葉は撤回して下さい」


「人族風情が偉そうに! 無礼にもほどがある」


「無礼なのは貴方の方です、エルフの子よ」



 突然僕の横にナーイアスさんが現れ、ユーフォルビアさんを睨みつける。いつもと違って彼女の体から風のようなものが出てるけど、これって神威(しんい)なのかな。



「こっ、こっ、こっ……こちらの方は」


「この人はウーサンの国を守護しておられる土地神様ですよ、父上」


「そっ、そのようなお方が、どうしてこんな場所に……」


「先程からとても不快な波動を感じたので様子を見ていたのですが、オルテンシアを罵倒しようとした挙げ句、それを止めに入ったダイチさんに暴言を吐きましたね」


「……ひっ」



 あっ、ナーイアスさんの存在感がさらに大きくなった。この感じはカメリアの使う【威圧】が発するプレッシャーに近い。正面から受けてるユーフォルビアさんは顔を青くしているし、隣のカクタス君も汗をかきはじめる。そろそろ止めたほうがよさそう。



「ナーイアスさん、それくらいにしてあげて下さい。気絶とかされたら、話ができなくなりますから」


「あら、ついうっかり。ダイチさんに恥ずかしいところを、見られてしまいましたね」


「いえ、僕たちのことで怒ったくれたのは、すごく嬉しかったです」


「当然じゃないですか。わたくしの神域と呼べる場所で、恩人へ仇なす行為を見過ごしたとあっては、土地神の名折れです」



 ナーイアスさんから出ていた威圧感はきれいに消え、ふんわりとしたいつもの笑顔を浮かべてくれた。さっきの凛とした姿もかっこよかったけど、やっぱりこの人は笑ってるほうが断然いい。



「どうしてあの男は、平然と話ができるのだ。相手は神だぞ……」


「ダイチ君は土地神様を助けた功労者ですからね、お互いに特別な絆で結ばれているそうです」


「お前はどうなんだ、恐ろしくないのか?」


「最初にお会いした時は驚きましたが、先日海水浴を一緒に楽しみましたので、話くらいは普通にできるようになりました」


「か、海水浴……だと」



 小声でカクタス君と話を始めたユーフォルビアさんは、さっきの勢いがすっかり消えている。これなら話し合いを進められそう。今回は乱入してくれたナーイアスさんに感謝だな。


 なんとなくその辺りを見越して、アプリコットさんはこの場をセッティングしてそうだけど。


 国と学園のトップを長年務めてるだけあって、なにげに策士だもんなこの人は。


次回、学園長室に意外な人物が……

第6話「もうやめてあげて!」をお楽しみに!

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