表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/237

第10話 新しい関係

第1章の最終話になります。

 スズランとの儀式を選んだオルテンシアさんを残し、僕は一人で小屋を出る。残念だったとか思ってないからね!


 でも、女同士で一体どんなことをするんだろう……



『どうしても脱がないとダメなのか?』


『はい。私と直接触れ合って、繋がりを作らないといけませんので』


『くっ……まるで凶器のようだぞ、それは』


『オルテンシア様も形が綺麗で、お美しいですよ』



 うわー、なんか聞いてはいけないセリフが、家の中から漏れてくる。このままだとまずい、一旦この場を離れよう。戦略的撤退だ!



◇◆◇



 無心で畑の雑草を(むし)っていたら、小屋の扉が開いてスズランに呼ばれた。どうやら儀式は無事終了したらしい。しかしスズランの肌、またツヤッツヤになってるな。オルテンシアさんが衰弱してないといいんだけど……



「あの、体調はどうですか?」


「あぁ、スズランとサクラのおかげで、すこぶる調子がいいよ。体の中にあった(よど)みのような感覚が、綺麗サッパリ消えている」



 少し疲れのようなものが見えるけど、こちらに向けてくれた笑顔は、今までで最高に可愛かった。きっと今の表情が、オルテンシアさん本来の素顔なんだろう。



「それからダイチには、お礼を言わないといけないな。本当にありがとう、ダイチは命の恩人だ」


「いえ僕の方こそ、オルテンシアさんには助けられてますから。もし森の中で見つけてくれなかったら、今ごろどこかで命を落としていたかもしれません」



 なんたってスズランが身を挺して僕を守ってくれたから、今もこうして生きていられるんだ。そのスズランが上級精霊になれたのは、目の前にいるオルテンシアさんのおかげ。当座の生活資金も宝石を売ったお金だったし、こっちこそ感謝してもしきれない。



「それから私のことはシアと呼んでくれ。敬語も不要だ」


「わかったよ、シア。こんな感じでいいかな?」


「問題ない、それで頼む。私の方も、これからはダイチと呼ばせてもらうよ」



 そういえばシアって、僕のことをずっと君って呼んでたな。略称で呼んでもいいって言ってくれたり、なんだか二人の距離が一気に縮まった気がする。



「狂化の効果は完全に消えたんだよね?」


「これを見てくれるか」



 これまでずっとはめていた手袋を外し、シアが左手の甲を見せてくれた。そこには花びらの模様が四枚ある。今まで教えてもらえなかったけど、シアって四片(クアッド)のスキル持ちだったのか。三片(トリプル)でも珍しいみたいだから、その上ってかなり凄いぞ!



「えっと【魔術】【薬術】【知術】【占術】って書いてるね。……って、あれ? 他人のスキルって見えないはずじゃ」


「やはりダイチにも見えるようだな」


「これってどういうこと?」


「私を通じてマスターとシア様がつながっていますので、スキルの情報が共有されたんです」


「それって僕もシアのスキルを使えるってことかな?」


「これは種族の持つスキルだから、ダイチには使えないはずだ」



 うーん、それはちょっと残念。


 どうやら以前のシアは三片(トリプル)スキル持ちで、【魔術】【薬術】【知術】が発現していたらしい。呪いを受けた後は、それが【狂化】【封印】【停滞】に上書きされた。だが負の効果はサクラの持つ耐性スキルで消え去り、既存の三つに加えて新たに発現したのが【占術】というわけだ。



「凄いよシア! 魔法のこととか興味あるし、こんど教えてね」


「もちろんダイチの願いなら、どんな事でも協力する」


「あっ、これからの事も話しとか無いと。もしシアさえ良ければ、パーティーを組んで一緒に活動したいんだけど、ダメかな?」


「それはこちらからお願いしたいくらいだが、ダークエルフの私と一緒だとダイチにも迷惑を掛けると思う。それでもいいのか?」


「そんなの気にしないから平気だよ。一緒に活動して願いが叶う宝を見つけられたら、シアが元の姿に戻れるよう頼もうね」


「まったく、君って男は……」



 瞳をうるませたシアが、僕の胸に飛び込んできた。こうして触れ合うのは初めてだけど、細くてとても華奢な体だ。こんな細腕で僕を投げ飛ばしたんだから、狂化の衝動って本当に恐ろしい。でもこれからは、そんな不安に怯えなくてすむ。まだまだ力のない僕だけど、大切なものを守れる男になろう。



◇◆◇



「……みっともないところを見せてしまったな」


「嬉しくてこうなったんだから平気、平気」



 つい子供に接する感じでポンポンと頭に軽く触れてみたけど、シアは全く嫌がる素振りを見せない。喋り方はちょっと背伸びをしてる感じなのに、すごく庇護欲を刺激する雰囲気が不思議だ。これがエルフ族の魅力なんだろうか?


 身長はスズランより数センチ低いだけだから、決して子供みたいな人ではない。その長い耳さえ気にしなければ、海外から来た留学生って感じで高校に通えそう。きっと人気が出るだろうなぁ……


 僕は一人っ子だったはずだけど、妹ができたらこんな感じなのかも。いや、シアのほうがはるかに年上なんだけどね。でも、今まで感じていた儚げで神秘的な雰囲気が消え、可愛くて守ってあげたくなる女の子になった。


 シアのこんな顔を見られたのは、スズランとずっと仲良くしてきたおかげだ。白い精霊を連れてると、心配されたり笑われたりしたけど、ずっと一緒にいて良かった。道を歩いてた時に親子連れから、「お母さーん、あのひと白い精霊つれてるー」「しっ! 見ちゃいけません!」とか言われたこともあったよ。マンガの登場人物になった気分を味わえたね!


 そんなことが何度もあったせいで、同じ白い精霊をつれて話しかけてきた、アークとヤーク兄弟を信用しちゃったんだけど……


 もっとも、あの時の出来事があったから、スズランは特級精霊になれた。慎重さや疑念が足りなかったり、色々反省すべき点も多かったけど、いわゆる結果オーライってやつだ。これからもポジティブに生きていこう、それが僕の取り柄なんだから。



「一緒に活動するならシアも街に引っ越したほうがいいと思うけど、ここの荷物とかどうする?」


「それは私の精霊が運べるから問題ないが、こんな姿のエルフを泊めてくれる宿があるかどうか……」


「僕がずっと使ってるところなら問題ないと思う、そこのおばさんって無口だけどすごくいい人だし」



 仲介ギルドで紹介してもらった[静かな湖畔]は、人族のおばさんが経営する宿だ。ちなみに近くに湖はないし、目覚ましにカッコウが鳴いたりもしない。一階は食堂になってて、夜はけっこう騒がしいし宿泊客も多い。でも床や壁が厚いおかげで静かに休むことが出来るから、ずっと利用させてもらってる。


 そこを切り盛りしているのは、あまり喋らない代わりにボディーランゲージで会話を成立させる、すごい人だ。微笑み大百科(仮)で見かけた記憶があるけど、あれが肉体言語ってやつなのかな?


 こっちの(こよみ)二ヶ月(48日)すごしてきたから、あの宿がすごくいい所だってのはわかっている。シアのことだって、何も言わずに泊めてくれるだろう。



「そういえばダイチとスズランはどうしてる、やはり別の部屋を借りているのか?」


「私は部屋につくまで姿を隠していますから、マスターと一緒に暮らしてますし、同じベッドで眠ってますよ」


「いっ、いくらスズランが精霊とはいえ、男女が同衾(どうきん)するなど、ふしだらだ!」


「ですが精霊たるもの、マスターのお側に控えているのが当たり前ですし、離れてなんて暮らせません」


「ぐぬぬぬぬ……こうなったら私も同じ部屋に泊まって、二人がただれた生活をしないよう監視するっ」



 頬を染めながら(まく)したてるシアも可愛いなぁ……


 だけどシアって、ちょっと潔癖症なところがある。きっと恥ずかしがり屋なんだろう。そんな彼女が男の僕と同じ部屋で暮らすとか大丈夫かな。それに僕だってスズラン一人でも一杯一杯なのに、もうひとり女の子が増えたら理性が持つか不安だ。



「本当に同じ部屋でいいの?」


「いや、その、なんだ……わ、私を愛称で呼んでいいと許したのだ。それは私にとって、家族の証みたいなもの。だから大丈夫だ。ダイチのことは信じてるからな」



 そっか……シアって愛称には、そんな想いが込められてたのか。その気持を裏切らないようにしないと。同じ部屋なら宿泊代金も安くなるし、今はそっちのメリットだけ考えよう。



「そんな大切な名前で呼ばせてくれてありがとう、シア」



 ついつい嬉しくなって、隣りに座ってるシアの頭を、またなでてしまった。真っ白なストレートヘアがサラサラで、すごくさわり心地がいい。



「マスターとシア様がそうして仲良くしていれば、新たな精霊が生まれるかもしれませんね」


「【新生】の解放条件って、僕が誰かと仲良くすることなの?」


「それは私にもわかりませんが、もしお二人が重なり合いたいと思った時は、遠慮なく言ってください。私とサクラちゃんは、いつでも隠れますので」


「なっ……破廉恥(はれんち)な行為は禁止だぁーーーーっ!」



 結構いい雰囲気だったのに、色々ともう台無しだよ!!


 閑話を2話挟んで、第2章へ。

 彼らたち最大の問題が解消(ご都合主義w)


 夕方投稿予定の閑話第一弾は、主人公を陥れたアークとヤークサイドの話。

 はたして兄弟の運命は? お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  「なっ……破廉恥な行為は禁止だぁーーーーっ!」  何か結局ダイチといたす事にはなりそうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ