第2話 天に代わって成敗いたす
誤字報告ありがとうございました。
一度Konozamaを受けて23日後にキャンセルされたキーボード、再度発注をかけてみました。
今度こそ!
大工さんにお願いして作ってもらった日よけ小屋は、木の柱に細い格子の屋根だけ付いた簡易的なもの。そこに机と椅子を並べ、ニナが用意してくれた果実水を飲む。適度に冷えてて美味しいな。
今日は三人の使い魔も全員が水着姿だ。イチカとミツバがシンプルなワンピースタイプ、そして意外なことにニナがビキニタイプを選んでいる。色はアイリスとおそろいの黒だけど、こっちは市販品みたい。
「主様。海に入ってみたい、付き合って」
「せっかくアスフィーの水着も買ったんだし、泳ぎに挑戦してみようか」
「泳げる魔剣、きっと世界で唯一。挑戦してみる」
アスフィーが着ているのは、赤い生地に白の水玉模様がついたワンピースタイプ。下がスカートになってる、可愛らしいやつだった。水泳をマスターした魔剣という、新たな属性を取得するため、今日は頑張ってもらおう!
「プラムちゃんはリナリアと一緒に行こうなの。ここなら安心して遊べるの」
「うん。こんな場所で泳げるなんて夢みたい。ちょっと行ってくるね、カクタスくん」
「ああ、私ははもう少し休んでるから、気兼ねせずに楽しんでくるといい」
「あっ、リナリア」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「今日はメロンのスキルを発動してるから、力の出しすぎに注意してね」
「うん、わかったの!」
メロンの強化スキルに慣れるため、ちょっとした練習も兼ねて遊んでもらうことにしてる。先日エヨンでドラゴンに化けたイグニスさんと戦ったけど、そのとき発動したスキルの余波を受け、リナリアが同級生の前で失敗をしてしまった。
失敗とはいっても、重い荷物が軽々持ち上がってしまったので、驚いて変な声が出たって程度の可愛いものだけど……
人魚族もあまり筋力がない種族だから、上昇率はそんなに大きくない。リナリアは何気に器用な子だし、今日中に慣れてしまうかも。
「ボクもちょっと泳ぎに挑戦してみる!」
「俺様も付き合うぞ、ご主人さま。他の連中が泳いでる姿をバッチリ観察したから、早速実践してみようぜ!」
そういえば【鳥瞰】で視覚を共有したまま、クロウが海水浴場へ遊びに行ってたっけ。体で覚えるタイプのカメリアだから、泳ぎのフォームさえしっかり再現できれば、あっという間に上達しそう。
「水に入る前にちゃんと準備運動して、ゆっくり入っていかないとダメだよー」
「うん、わかったー!」
波打ち際で屈伸運動してる姿を改めて見ると、カメリアって足が長くて均整の取れたスタイルだよな。ウーサンで暮らすようになって髪を少し短くしたけど、今日もボリュームのあるポニーテールが元気に動いてる。
クロウが地面に降り立って見上げてるのは、揺れるおっぱいを堪能してるに違いない。バンダさんが封印したそうに見てるから程々にね。
「水難事故の心配は無用ですから、思う存分楽しんで下さい」
「ナーイアス殿が力を取り戻してから、ウーサンでは海上での事故が発生しておらんのじゃ」
「さすが国の守り神です、ナーイアスさん」
「なにせわたくしは水の守護者ですから(えっへん)。頑張ってるご褒美に、後で遊んでくださいね、ダイチさん」
そんなに胸を大きく反らす動きをしないで下さい。男の悲しい本能が発動してしまいます。だからシア、世界樹の杖を顕現させるのはやめて!
撃ち抜かれる前に、アスフィーを連れて泳ぎに行こう。
◇◆◇
抱っこしてもほとんど苦にならないくらい軽いからだろう、アスフィーは何もしなくても水に浮く体質だった。なので手足の動かし方を教えるだけで、あっという間に泳げるようになってる。本島の雑貨屋で売ってた、棒状の浮き輪を買ってるんだけど、出番はお預けだ。
「あら、もう泳げるようになったのね」
「この水、温泉より浮きやすい。プカプカ出来るから、快適」
塩分濃度が地球より濃いのかな。確かにかなり浮きやすい気がする。だけどアイリス、水の上を歩いて移動するのは、ちょっと違うんじゃないかな。
「アイリスは海に入らないの?」
「愚問ね下僕。そんなことをしたら濡れてしまうじゃない」
「濡れてもいいように水着が存在すると思うんだけど……」
水面にピッタリ足の裏をつけてるから、波に合わせて体が上下してるのとか、すごく器用だと思うんだけどさ。海の楽しみ方って、そんなのじゃないハズなんだ。
「油断大敵であるぞ、アイリス!」
「……ちょっ、なにするの始祖様」
後ろからこっそり近づいてきたバンダさんが、アイリスに水をぶっかけてる。手加減無しでやってるらしく、全身ずぶ濡れになってしまった。肩がプルプル震えてるけど、これは激おこモードかな。アスフィーと一緒に、ちょっと遠くへ避難しとこ。
「やりすぎだよ、バンダ君。私しらないからね」
「よくもやってくれたわね始祖様。こんな真似をして、ただで済むと思ってるのかしら」
「そんなところで高みの見物をしている、アイリスが悪いのである。海に来たのであるから、一緒に楽しまねば損であるぞ」
「ふ……ふふふふふ、なら始祖様にも存分に楽しんでいただかないとダメね」
〈凝影〉
あっ、これ対吸血族用の拘束呪文だ。
「なにをするであるかアイリス! スキルを使うのは卑怯である」
「私はあなたの眷属なのだから、始祖様らしく力ずくで抜け出してご覧なさい」
「いかに吾輩の力といえども、ダイチの精気には敵わんのである」
「ミカン、ちょっとこっちに来てちょうだい」
スキルをカンストさせてる、【爆炎】と【轟雷】は使わないであげてね。とはいえ他の二つも、赤の上級精霊を超える魔法が発動できるんだけど……
「確かシアの使ってた魔言はこうだったわね」
〈水の大波〉
「吸血族が属性魔法を使うなど、前代未聞なのであるぅぅぅぅぅぅぅー」
ドップラー効果を伴いながら、大波にさらわれたバンダさんが沖へ流されていく。
「かなり元気になりましたね、バンダさん」
「うん、キミたちのおかげだよ」
同じ場所に避難していたカトレアさんは、にこにこ顔で二人のやり取りを見ていた。この人たちが夫婦になったあとも、バンダさんは祭壇にこもりっきりだったから、こうしてはしゃぎ回れるくらいの余裕ができて嬉しいんだろう。
「いつもみんなが入ったあとに、バンダ君と温泉に行ってるんだけど、すごく回復が早いんだよ。きっとキミやナーイアスさんから溶け出した、精気のおかげじゃないかな」
「確かにあそこの温泉なら、何かしら影響を与えてる可能性も、捨てきれません」
吸血族に肌から精気を取り込む力はないけど、温泉成分って全身に染み渡るからな。一緒に取り込んでるとか、あってもおかしくない。なにせ帰り際のナーイアスさんって、いつも髪から余剰精気がこぼれ落ちてるくらいだし。
「ふぅ、スッキリしたわ」
「ずぶ濡れになっちゃったね、アイリス」
「せっかくだしお昼の時間まで、アスフィーと一緒に浮かんでようかしら」
「一緒にプカプカ、歓迎する」
アスフィーと一緒に水面を漂いだしたけど、これって【飛翔】スキルも使ってるよね。浮かぶというより、水面に寝転んでるようにしか見えないから……
「親父殿を回収に行ってくるのじゃ」
「リナリアも行くの」
あれ? 二人の下半身が、水色の魚になってる!
これが人魚族の持ってる【水泳】のスキルか。浄化装置に使う〝人魚の鱗〟は、この状態で抜けたものを売ってるんだったな。スキルを使った姿って初めて見たけど、物語に出てくる人魚と全く同じだ。神秘的な姿がすごくいい。
「婿殿、これを預かっておいて欲しいのじゃ」
「リナリナのもお願いなの」
二人から小さな布を手渡されたけど、これはなんだろう?
少しツルッとしてるけど、とても肌触りがいい。
……って、両方とも水着じゃないか!
下半身が魚の姿になってるから、履けなくなるのは仕方ないけど、どうして僕に渡すのさ。隣にカトレアさんがいるんだから、そっちにお願いすればいいのに。
「ちょっ……二人とも待って!?」
「脱ぎたてじゃから、まだ温かいじゃろ?」
「すぐ戻ってくるから、お兄ちゃんに持っててほしいの」
子供体型のアプリコットさんまで、セパレートの水着だった意味がやっとわかった。この世界でビキニスタイルの水着がやたら発展してるのは、人魚族の種族特性が影響してたんだな。
いやいや、そんな考察をしてる場合じゃない。後ろからものすごいプレッシャーを感じる。振り返らなくてもわかる、これはシアの波動だ。
助けを求めるようにカトレアさんを見ると、とてもいい笑顔でサムズ・アップされた。この状況を楽しんでますね、あなたは。
少しずつ僕から離れていくのは、どうしてでしょう?
もしかして魔法の射程距離から退避してるんですか?
「けしからん。女性の水着を握りしめ、あまつさえ目の前に広げて凝視するなど、実にけしからん。このオルテンシアが、天に代わって成敗してくれる」
背後から呪詛のようなつぶやきが聞こえてくる。
――僕の命運はここまでかもしれない。
次回はビーチボール遊びとナーイアスのターン。
第3話「エクストリームビーチバレー」をお楽しみに!