第1話 常夏のイルカ島
第9章の開始です。
章タイトルの通り、エルフの国に事変が……
ですが、まずは海水浴!
呪物の処理も無事終了し、僕たちはとんぼ返りでウーサンまで戻ってきた。エヨンの街も色々見て回りたかったけど、まずはアプリコットさんやナーイアスさんに報告して、みんなを安心させたかったからだ。
行きは列車を使ったけど、帰りは星を三まで埋めたラムネの転移で帰ってきている。まだ国家間は無理なので、途中にあるコトの街とケーキュウの街を経由してるけどね。それでも四泊五日の旅をショートカットできるのは、スケジュール的に大きい。
それに急いで帰ってきたのには、もう一つ理由があった――
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僕たちが住んでいる島は、三日月のように弧を描いた形をしてるけど、外周と内周に二つの出っ張りが存在する。外側にある出っ張りの付け根に温泉があり、内側の出っ張りは岬のようになっていて、それぞれをヒレに見立てると、体を大きく曲げたイルカっぽい。元々名前のない無人島だったこともあり、僕の発案でイルカ島って呼ぶことにした。
内側の湾が遠浅の砂浜なので、学園が休みの今日に合わせ、みんなで海水浴をするのだ!
ネイビーカラーのサーフパンツに着替え、一足先に海岸へ出てきた僕は、まだ誰もいない砂浜に立つ。白い砂浜とマリンブルーの海、そして照りつける太陽はまさに南国! 個人が所有する島にあるプライベートビーチだから、誰に気兼ねすることなく思う存分遊ぶことが出来る。
歌姫のフェスティバルにあった露店で、色々使えそうなものを買ってるから、今日は目一杯楽しむぞ。
「やあ、ダイチ君。今日は僕まで誘ってくれてありがとう」
「来てくれて嬉しいよ、カクタス君」
色白なエルフ族だから海水浴とか嫌いかなって思ったけど、僕の誘いに乗ってくれたのが嬉しい。言伝を頼んだリナリアのおかげかも……
上に薄手のパーカーを羽織り、ボクサータイプのタイトな水着を身につけた格好が、とても絵になる。やっぱりイケメンは何を着ても似合うな!
「まさか吾輩が海で遊ぶことになるとは、思わなんだのである」
「あれ? カトレアさんと来たこと無いんですか」
「当時はやることが山積みだったので、こうしてのんびりする機会などなかったのであるよ」
暴走した吸血族の討伐で受けた傷の回復や、精気を取り込む力を失った土地神の介抱もあったから、そこまでの余裕はなかったのか。そもそも種族的に、太陽の下で活動するっていうシチュエーションとか、似合わない部分もあるしね。
それにしても……大勇者のノヴァさんみたいに筋肉質ではないものの、意外にたくましい体つきをしてる。なんたって肌にピッタリフィットした、ブーメランパンツが異様に似合うくらいだ。あれを着こなせるなんて、凄いぞバンダさんは。
着替えの早い男同士で顔合わせも兼ねて話をしていたら、浜辺の近くに建設した更衣室から女性陣が次々現れる。カクタス君に友だちを誘ってもいいって伝えたけど、見覚えのある女の子が来てくれた。名前は確かプラムちゃんだったかな。花嫁事件の時に倒れていた人魚族の一人で、リナリアのひとつ上って言ってたっけ。
「ダイチー! どう、似合ってるかな?」
「動きやすそうな水着ですごく似合ってるよ」
「さすがご主人さまだ! 見事な着こなしだぜ」
カメリアが身につけているのは、ビーチバレーの選手が着るような、太めの肩紐が付いたビキニだ。これなら激しく動いても、ずれたり脱げる心配はないだろう。髪の毛より鮮やかな赤が、とても眩しい。
「お兄ちゃん、リナリナのことも見てほしいの」
「その水着、すごく可愛くていいね。そんなのが売ってるなんて知らなかったよ」
「リナリアたちの衣装を作ってくれてる職人さんに、お願いしてみたの!」
なんと、オーダーメイドの水着だったのか。薄い水色の生地に、濃い青色で染めた花が散りばめられていて、胸の部分にフリルの付いた可愛いビキニだ。きっとリナリアのイメージに合わせて作ってくれたんだろう。さすが舞台衣装を手掛けるプロは違うな!
「その……私はどうだろうか?」
白い大胆ビキニを着て、腰にパレオを巻いたスズランの後ろから、恥ずかしそうにシアが出てきた。上半身に薄いレースのカーディガンを羽織ってるけど、そこから透けて見えるのは淡い緑色のビキニ。どんな水着を選んだか当日まで内緒と言ってたけど、きっと恥ずかしかったんだろう。
「いつもの数割増しで魅力的だよ、シア。それにその髪型、すごく似合ってる」
「以前ダイチが見たいと言っていたからな。長い髪は水に入るとき邪魔だし、思い切ってポニーテールにしてみた」
「ボクとお揃いだね!」
シアの髪って絹糸みたいに細いストレートだから、海風を受けてキラキラ光りながら揺れる光景が素晴らしい。余剰精気を出してる時のリナリアと同じくらい輝いてるね!
「ダイチさん、ダイチさん。わたくしのことも見て下さい」
「あっ、やっぱり来たんですね、ナーイアスさん」
「うぅっ、最近のダイチさんは、妙に塩対応な気がします……」
そんなことないですよ?
水場なので来ると思ってましたし、何度も温泉に乱入されてるから、慣れちゃっただけです。
ナーイアスさんが身につけてるのは、青いムラ染めの水着。上はホルターネックタイプで、下は左右を紐で結ぶタイサイドのビキニだ。この世界の水着って、地球に負けないくらい種類が豊富にある。何も効果がついてないってことは既製品だろうし、どうやって手に入れたのかな?
「スズランに協力してもらったが、サイズが合っとるようで良かったのじゃ」
「皆様とは違う形で、とのご要望でしたのでそちらにしてみましたが、よろしかったでしょうか?」
「全く問題ありませんよ、スズラン。アプリコットにも苦労をかけましたね。とても素晴らしいものを選んでいただきましたし、これでダイチさんの視線を釘付けに……」
僕なんかよりクロウの目が釘付けになってます、ナーイアスさん。
「えっと、こちらの女性と会うのは初めてだと思うのだけど、紹介してもらってもいいかな?」
「あっ、カクタス君とプラムちゃんは初対面だったね。この人はナーイアスさん。ウーサンを守ってくれている、土地神だよ」
「……それって我が国にいらっしゃる、風の守護者みたいな?」
「はい、そうですよ。彼女は風を司っていますが、わたくしは水の番人をしております」
「まっ、待って下さい。土地神って、そう簡単にお会いできるものでは……」
「オッゴにいる風の守護者は気ままな性格ですし、なかなか姿を現さないかもしれませんね」
カクタス君とプラムちゃんが固まってしまった。まあ国の祀っている神様が、こうして遊びに来るなんて異常事態だから仕方ない。僕たちにとっては、すっかり日常になっちゃったけど!
「そんなことより、ここで突っ立ってたら日に焼けてしまうわ。日よけ小屋を準備していただいても、いいかしら」
「そうであったな、すぐ影から取り出すのである」
「アイリスもその水着、すごく似合ってるよ」
「始祖様が用意してくださったのだから当然ね」
ラムネの持ってる【解析】を発動してみると、[固定]と[遮断]の効果がついていた。前者が脱げてしまうのを防いで、後者は水で透けないための対策だろう。胸元にリボンをあしらったワンピースタイプの黒い水着だけど、しっかり秘宝級になってるのは、流石バンダさん謹製の品だ。
とりあえず驚いて固まっている二人が復帰するまで、日よけ小屋で少しのんびりしよう。
次回、この世界でビキニスタイルの水着が発展している理由とは?
第2話「天に代わって成敗いたす」をお楽しみに!
(流れるBGMは〝IIII-43〟(嘘))