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閑話16 カローラとロータス

 大地(だいち)たちと別れた迷宮解放同盟の盟主(カローラ)とロータスは、イベント会場を離れ宿泊施設へ移動していた。この街で活動している構成員から、報告を受けるためである。


 ウーサンでは組織の主導で、外部から迷宮に干渉するという実験が進められていた。この国に広がる迷宮は海上部分に伸びているという特徴があり、水深のある場所は迷宮の壁が薄いといわれているため、実験をするのに適した環境だからだ。装置を海に沈めてしまえば人の目に触れる心配がなく、何より地上と違って障害物が存在しない。秘密裏に事をすすめるには、最適な場所だった。


 そして試作品が邪神の結界に影響し、今回の騒動に繋がってしまう。その反作用を受けたバンダが、地下祭壇で干からびてしまったのだ。



「歩き疲れたりはしていませんか、盟主(カローラ)様」


「ずっと抱っこ……してもらってた……だから大丈夫」


「そうですか、それなら問題ありませんね」



 今の彼女は不思議な感覚に支配されていた。同じように〝カローラ〟と呼んでもらっても、大地とロータスでは感じ方が全く違っていたからである。ロータスは自分ではなく、なにか別のものを呼んでるのではないか。今まで感じていなかった違和感に、彼女の心は揺れてしまう。


 それはある意味当然といえる。カローラという呼び方は、名前ではなく役職なのだから……



「今から……なにするの?」


「先日行った試みの成果が出ましたので、盟主(カローラ)様に褒美の授与をして頂く予定です」


「わかった……終わったら歌……聞きに行く」


「今度は盟主(カローラ)様を見失わないよう、細心の注意を払いますので」



 普段のロータスは、カローラにあまり注意を向けていない。他に頼る者のいない少女が、勝手に自分から離れたことなど無かったからだ。しかし今日はカローラが露店の人形に気を取られたため、離れ離れになってしまった。


 再びそうしたことが起こらないよう、ロータスは片時もカローラから目を離さず歩いていく。今は大事そうに抱えたお菓子の袋と、手の中にある人形に夢中なため、カローラはその鋭い視線に全く気づかない。



「(すぐ癇癪を起こして見つけられると思っていたが、意外だったな。しかも今まで見たこと無いほど機嫌がいい。これなら力の制御も問題ないだろう……)」


「なにか……言った?」


「いえ、何も。あちらが本日泊まる宿です。最上級の部屋をご用意しておりますので、お呼びするまでごゆっくりお休み下さい」



 各国に構成員が存在する迷宮解放同盟は、いろいろな組織を隠れ蓑に使っている。ある時は大手商会だったり、またある時は資産家であったり、その実体を次々変えていた。人魚族の情報網でも全貌を把握しきれないのは、そうした工作によるものだ。


 今回はウーサンで歌姫たちの祭典があるため、そんな裏工作をしなくても目立たない。木を隠すなら森の中というわけである。何かあった時のために、投資家の孫娘が執事を連れて観光に来た、というシナリオは用意されてるのだが……



「精霊を……あげればいいんだよね?」


「成果を収めた者への褒美ですので、よろしくお願いいたします」


「わかった」



 了承の言葉を発したあと、カローラは用意された部屋へ消える。頭を下げながらその姿を見送ったロータスは、扉の前から人の気配が遠ざかったのを確認して肩の力を抜く。再び前を向いた彼の顔は一変し、氷のように冷徹な目つきになっていた。



◇◆◇



 歌姫たちの祭典が終わり、カローラたちは宿屋へ戻ってきた。彼女とは別の部屋で休んでいたロータスの元へ、一人の来訪者が訪れる。



「子守ご苦労さまだったわね、ロータス」


「たまにはカレンデュラも面倒を見たらどうだ?」


「あんな化け物と四六時中一緒なんて、怖いから嫌よ」



 ノックもせずに部屋へ入ってきたのは、幹部(ポレン)の一人であるカレンデュラだ。さすがに一般の宿ということもあり、今日の彼女は黒ローブを羽織っていない。それに黒い精霊も消したままだった。



「アレのご機嫌取りくらい、誰でもできるだろ」


「あんな爆弾みたいなモノを扱えるのは、ロータスだけじゃない。だから最高幹部(ブルーム)なんて呼ばれてるんでしょ?」


「そうでもないぞ。今日は少々トラブルに巻き込まれたが、そのおかげで上機嫌になっていたからな」


「それは興味深いわね。何があったの?」



 ロータスは昼間にカローラとはぐれてしまったこと、そして二人組の探索者に保護されたことを話す。それを聞いていたカレンデュラは、感心すると同時に愉悦の表情を浮かべる。



「へぇー。あの人の形をしたモノに、そんな感情があったなんて驚きね。しかも木彫りの人形を宝物だなんて、同族とでも思ったのかしら。似合いすぎて笑えるわ」


「おかげで面倒なペット探しをせずにすんでヤレヤレだ」



 イノーニで手に入る予定だった精霊獣(クロウ)に逃げられて以降、カローラの機嫌は傾いたままだった。あれこれ手を尽くしてはみたものの、ロータスの買い与えるものには関心を示さない。そうした八方塞がりの状態を少しでも解消すべく、この国までフェスティバルを見に来たのだ。



「そんなに機嫌がいいのなら、役員(ストーク)認定はスムーズに終わったのね」


「珍しく一度で成功した」


「それは良かったじゃない」


「あの二人組、アイツの世話係に欲しいくらいだ」



 ロータスがカローラの世話をしているのは、本人が望んでやっているわけではなかった。組織の中でもっとも当たり障りのない対応ができたからだ。そのおかげで彼だけが、黒い上級精霊を授かっている。



「それにしてもアレを友だちだなんて、実態を知らないだけあって怖いもの知らずね」


「まだ若い連中だったし、見た目で騙されたんだろう」


「とにかく道具は使いやすいのが一番よ。ちょうど迷宮に大量の水を発生させた魔法の使い手を探してるし、ついでにその二人組を見つけたら声をかけてみるわ」


「勝手に探すのは構わんが、捨て駒(ウィード)を集めるのは程々にしておけ」


「私が切り捨てるのは、使えないヤツだけよ」



 目を細めながら妖艶な笑みを浮かべるカレンデュラを見て、相変わらずの冷血ぶりにロータスはため息をつく。この女にはこれ以上なにを言っても無駄だと、話題を変えることにした。



「迷宮から這い出したモンスターを倒した人物のことで、何かわかったか?」


「そっちはさっぱりね。ただマーレ学園に賢聖(けんせい)の息子が在学中らしいわ」


「ほう、それは初耳だな」


「ギルドで自慢気に話しているのを、その場に居合わせた探索者が耳にしてるそうよ」


「学園島にはそれなりの戦力があるということか……」


「一般生徒と教職員は本島に避難してたけど、その中に賢聖の息子とやらは居なかったみたいだし、なにかやったんじゃない?」


「あの島は部外者が入りづらいから、なにがおきたのか調べるのは困難だな。まあいくら優秀でもただの学生だ、我らの障害にならない限り放置でいいだろう」



 その後も細々とした報告をすませ、カレンデュラは部屋から出ていく。一人取り残されたロータスは、飲みかけのグラスを傾け大きく息を吐いた。



「ふぅー。まったくアイツの自由奔放ぶりは、ある意味清々しい。それなりの結果を残しているから、切るわけにもいかんし、困ったものだ」



 外部から迷宮に干渉するという今回の実験で利用した材料の一つが、以前カレンデュラがアーワイチの隠し部屋で手に入れた(つぼ)の中身だ。そうした実績を残していたり、自分の美貌とコミュニケーション能力を生かした情報収集が得意なため、組織の幹部(ポレン)として重用されている。


 しかし、組織の資金や人材を自分勝手に利用する気ままさが、ロータスにとっては頭の痛い問題であった。



「今は互いに利用し合う関係がベストか……」



 歌姫の祭典という慣れない環境に長時間いたため、今日のロータスは疲れ切っていた。もし万全の体調だったなら、モンスターの討伐を成した者について、更に追求していたかもしれない。しかし実験がうまくいったことに加え、カローラの機嫌が良くなったこともあって、適当なところで思考停止してしまったのだ。




 席を立ったロータスは、隣の部屋へ向かう。そして木彫りの黒い鳥を枕元に置いて眠るカローラを確認したあと、自分の部屋で眠りにつくのだった。


(車仲間なのにw)子育てには向いてなさそうなロータスさん。

そして幹部待遇で迎え入れられそうな主人公一行(笑)


次回からはエヨンの土地神編です。

呪物の処理をお願いしに行った主人公たちに、土地神がある要求を……


第8話「山登りはショートカットで」をお楽しみに!

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