表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/237

第6話 ヒントはどこにでも眠っている

誤字報告ありがとうございます。

「I」の横に「U」があるので!(釈明


発注()たキーボードですが、密林特有のアレで発送日未定になりました(笑)

 いよいよ歌姫たちの祭典が始まろうとしている。会場となる敷地の端には屋根付きの舞台があり、そこからすり鉢状に複数の段差がつけられていた。こうした作りは地球にある野外ステージと同じだ。


 日が落ちて徐々に暗くなってきたけど、広場には魔道具のポールがいくつも立っているので、移動が困らない程度に明るい。そのポールを利用して観客席はいくつかのエリアに分けられ、ステージの上手(かみて)側にある関係者席は、周りから高くなった場所にある。そこから見渡してみた限り、広場はほぼ埋まってるだろうか。


 ステージに近い場所など、一部のエリアは抽選で割り振られるが、それ以外は自由に入れるし入場料だっていらない。歌姫のフェスティバルがただで見られるんだから、大勢の人が押し寄せるのも納得だ。昼間に会ったカローラちゃんもどこかで見てるのかな……


 こうして外から来訪者が集まれば国も潤うし、それだけで十分ペイできるってことだろう。さすがに観光が主要産業の国だけはある。



「このような催しに参加するのは初めてだが、みな行儀が良いので驚いたよ」


「アプリコットが言っていたのだけど、下手に騒ぎをおこすと世界中に知られるらしいわ」


「なるほど、各国にいる人魚族に悪評を流されるなど、悪夢でしかないな」



 まあライブパフォーマンスが始まれば、ハメを外して盛り上がる人も出るだろうけどね。なにせ揃いの格好をしたり、同じグッズを持った集団が、あちこちに点在している。それに昼間見た色付きの棒は、魔道具の一種みたいだ。ケミカルライトほど明るくないけど、淡い光を放ってるからよく目立つ。



「あの光る棒、ボクも買っておけばよかった」


「売ってるお店あったもんね」


「あんなにきれいに光るってわかってたら、絶対買ってたんだけどなぁ……」



 この世界に光属性の魔法はないけど、ラムネの持ってる【自然】スキルで照明を作り出せる。それによって生まれた光や、魔道具の明かりは触っても熱くない。つまり白熱灯や太陽なんかの熱放射とは別の原理だろう。


 光る魔道具の発光部分は透明素材で出来た空洞だから、ケミカルライトのような化学反応というのも考えにくい。もし励起(れいき)状態の輝力やマナが、基底(きてい)状態へ遷移(せんい)する時に発光するのだとすれば、魔法で再現することも不可能じゃないはず。


 細かい原理はわからなくても、この世界を支配している魔法システムが理解可能な魔言(まごん)さえ与えてやれば、勝手に作り出してくれるかもしれない。



「ねえシア、薬を作る時に使う攪拌棒(かくはんぼう)の余りってある?」


「それならいくつも予備があるぞ。いま必要なのか?」


「とりあえず握りやすくて短いのを、一本だけ出してもらっていいかな」



 シアが出してくれたのは、両端が丸くなった二十センチくらいの細い棒だ。これなら振り回しても危なくないから丁度いい。


 肝心の魔言だけど、エネルギーの状態変化でおこる発光現象は、〝ルミネ( lumine)センス(scence )〟と呼ばれている。これをシアのスキルで付与すれば、光ってくれると思う。近くに光る棒を持った観客がいるから、魔法のイメージで苦労することもない。



 〈発光付与エンチャント・ルミネセンス



 僕がメモ用紙に書いた英単語をシアに渡し、スペルブックに書き写してもらった。そして対象固定の付与魔言を発動すると、なんの変哲もなかった木の棒が淡く光りだす。触っても熱くないし、これなら手で持っても大丈夫。



「やったねシア、成功だよ」


「光の付与か。これはなかなか便利そうだな」


「うわー、きれいだねー」


「炎の剣を作ったとき同様、持続時間はあまりないはずだ。光が消えたら再度付与するから言ってくれ」


「うん、ありがとう! 二人とも大好き!!」



 ぶんぶん揺れるしっぽが幻視できるくらい喜んでくれると、やっぱり嬉しい。こうした何気ない日常にも、魔法を進化させるヒントは眠っているんだな。



「即興で魔法を作り出すとか、君たちは無茶苦茶だね」


「開いた口が塞がらんのである」


下僕(げぼく)やシアのやらかしは、いつものことよ。そのうち慣れるわ」



 やらかしとか言わないでよ、アイリス。そもそもこの世界の魔法は攻撃手段ばかりで、他の使い方がまったく発展してないんだ。魔法として実行可能なスペックがあるのに、それを使いこなせないのは勿体ない。



「材料の予備はまだ残ってるから、スズランやアスフィーも使ってみるか?」


「お願いしてもよろしいですか、シア様」


「いつも振られる側だけど、自分で振ってみるのも一興」



 スズランとアスフィーだけでなく、使い魔の三人も使ってみるようだ。今日は三人とも私服だから、いつもより明るい雰囲気に見える。あのイチカですら、ちょっと興奮してるみたい。仕事のことは忘れて、目一杯楽しんでね。



◇◆◇



 二十四人が舞台で挨拶をしたあと、ユニットを組んだ歌姫たちが代わる代わる登場し、アップテンポなものからスローなものまで歌ってくれた。どの子も可愛くて歌がうまいし、聞いてるだけで明るい気持ちになれたり、心が落ち着いてきたりする。これが人魚族の持つ【歌唱】スキルで生まれるバフ効果なんだろう。


 リナリアも二つのユニットに参加してたけど、一番目立ってる感じがしたのはやっぱり贔屓目かな。観客席の応援団も、リナリアのソロパートで特に盛り上がってた気がするんだ。


 コールに合わせて光る棒を振るイチカ。体全体でリズムを刻みながら見守るニナ。短い撹拌棒に光を付与してもらい、八本同時に持って応援するミツバ。使い魔の三人ですらこんな状態だから、余計にそう感じてしまったかもしれない。



「あのステージ全体が魔道具というのはすごいですね」


「……床から人が出てきたり、照明が歌ってる人を追いかけたり、ちょっとびっくりした」


「声が大きくなるから、聞こえやすくていいよ」



 さすがコンサートに特化した作りだけあり、ステージの下にある奈落から人が()り上がってきたり、スポットライトが設置してあったり、ギミックが満載だった。それに二枚貝の形をしたステージには、音響装置も組み込まれているらしい。マイクとか持ってないのに、歌声やトークが会場全域に届いている。



「私たちが納入した輝力(きりょく)も、あそこで使われているのよ」


「探索者活動の成果を直接目にする機会など、一般的にはほとんど無いはずだ。私も初めての体験だが、こんなに充実感を得られるとは思ってなかった」


「この前みんなで迷宮調査したときの輝力は、ギルドでなく国が買い取ってくれたもんね。こんな形でリナリアの手伝いができたし、ボクも嬉しい」


「モンスターの氾濫被害をゼロで収拾できた記念でもあるのに、例の邪神に関して非公表なのは残念だけどな。俺様もいっぱい頑張ったのによ」


「カトレアさんのことはずっと秘密だったし、花嫁制度のことはみんな忘れかけてるんだから、今さら蒸し返すことじゃないと思う。それに英雄なんて存在にされると、生活しづらくなっちゃうしさ」



 大勇者と呼ばれるようになったノヴァさんや、大賢者に祭り上げられたエトワールさんが、人里離れた山奥で暮らしてるのは、そうして騒がれたことも一因だ。この世界に来てから一年も経ってないのに、自由に動き回れないような生活は避けたい。


 もちろんシアやアイリスたちも、同様の結論に達している。そんな思惑もあって、あの事件の詳細は非公開となった。対外的には観光に来ていた高ランクパーティーが討伐し、報酬を受け取ったあと別の国へ行ったことになってる。ウーサンは情報の扱いに()けた国だし、その辺りは抜かりないだろう。



「楽しんでおるか?」


「あっ、アプリコットさん」



 第二部が始まるまでの長い休憩時間を利用して、裏方を統括しているアプリコットさんが来てくれた。事前に配られているセットリストによると、第一部はユニットで歌う曲、第二部は全員がソロでの出演となる。なんと今回のトリを務めるがリナリアだ。



「こんな催しを見るのはみんな初めてですけど、すごく楽しめてます」



 他の家族からも肯定の言葉をもらって、とても嬉しそうにしている。だけど忙しいはずなのに、どうしたのかな。もしかしてトリを務めるリナリアが緊張してるとか?


 もしそうなら、少しでも力になってあげたい。



「婿殿に少し頼みたいことがあるのじゃが、かまわんか?」


「えぇ、僕にできることなら、なんでもいいですよ」


「この子の演目が終わった後で構わんのじゃが、リナリアの控え室まで行ってやって欲しいのじゃ」



 アプリコットさんは伝言を頼まれただけで詳しいことは知らなかったけど、リナリアが会いたいと言ってるなら行くしかないだろう。可愛い妹の頼みを断れる兄など、この世に存在しないのである!


 なんて、ちょっとバンダさんぽくなってしまった。


 本番前の現場に行くとか初めての経験だし、粗相の無いようにしよう。そういえばこの世界でも、挨拶は昼夜問わず「おはようございます」なのかな。アプリコットさんに聞いておけばよかったよ……


次回、リナリアのマネージャーと初顔合わせ。

人魚族のちょっとした国民性も明らかに。


第7話「姉は間に合ってますので!」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ