表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/237

第22話 それならリナリアにお任せなの

第7章の最終話になります。

 この世界に特級精霊は一人しかいないと思うけど、土地神と呼ばれるような人から見ても、不思議な存在に映るのかな。



「何者かと問われましても、ダイチ様にお仕えする特級精霊としか、お答えできません」


「生まれはどちらになりますの?」


「アーワイチにある森の中で意識が芽生えました。マスターがこの世界に迷い込まれた時、白の微精霊だった私と契約が成立していたのです。契約に至った経緯などは記憶に残っていません」


「それはなかなか興味深いですね」



 これは僕の方からも話しておこう。もしかしたら、なにか情報をもらえるかもしれないし。



「出会ってすぐ名前をつけて、それからずっと一緒に生活していたんです。ですが上級精霊になって星も全て埋まった状態のスズランと僕は、迷宮内でモンスターの巣に閉じ込められました」


「そんな絶望的な状況の中、マスターは自分の身を盾にして、私を守ろうとしてくださいます。そして流れ出した血が私にかかった時、体の奥からとても熱いものがこみ上げてきました。それを制御しきれなかった私はマスターから離れ、モンスターの群れに力を解き放ったのです。その後マスターから呼び出してもらった時には、今の姿になっていました」


「なるほど、名付けと精気あふれるダイチさんの血ですか。そんな力を内包しているから、わたくし達と同格に感じられるのですね」



 もしスズランがナーイアスさんと同じような存在だとしたら、さしずめ光の精ってところかな。僕をずっと支え続けてくれた、希望の光って感じだし。



「スズランは精霊ってことでいいんですよね?」


「えぇ。本人もそのように認識していますし、土地に縛られている様子はありませんので。これからも精霊としてダイチさんに仕えているのが、一番だと思います」


「もしかしてナーイアスさんって、この国を離れられないんですか?」


「そうなんですよー。色々と面倒な制約もあるし、自由に外へ遊びに行くこともできません。この国を影から支えるって役目に縛られた、暇を持て余すだけの悲しい引きこもりなんです」



 ナーイアスさんが目頭を押さえながら、僕の足元に膝から崩れ落ちる。その柄付きハンカチ、一体どこから取り出したんです?



「僕で良ければ話し相手になりますから、元気だしてください」


「ホントですか!?」


「はい、時々遊びに来ますので」


「絶対ですよ、約束しましたからね。ついでにキスしてください」


「それはもののついでに、することじゃありません」


「ちぇー」



 なんだかこの人、どんどんキャラ崩壊していってるよ。他の人と話す時は威厳たっぷりなのに、なんで僕の前だとポンコツになるかな。まあ、それだけ気を許してもらってると思うことにしよう。



◇◆◇



 何度も念を押すナーイアスさんと別れ、全員で学園長室へ向かうことに。特級精霊については彼女も知らない様子だったし、今まで通りの関係を続けていけばいいだろう。越境人(えっきょうじん)についても、偶発的な事象が生み出すものなので、帰還方法や記憶の一部がない理由もわからずじまいだ。土地神と言っても全知全能ではないし、そもそもナーイアスさんはずっと寝てたんだから仕方ない。


 気を取り直して地上へ出てきたけど、今日は臨時休校らしく校舎のある敷地内には誰もいなかった。昨日のうちに連絡便は運行再開してるから、学生たちは寮で休んでるんだろう。大学の時は突然休講になったら損した気分だったけど、高校までは警報が出て休みになる日とか嬉しかったっけ。この世界の学生も同じなのかな。



「さて早速で悪いのじゃが、報酬の件で提案があるのじゃ」


「僕らとしては、浄化装置に使う特殊な人魚の鱗を定期供給してくれる、とかで構いませんよ」


「それならリナリアにお任せなの」


「そういえばリナリアは【水泳】【演奏】【歌唱】【浄水】の四片(クワッド)だったね」


「お兄ちゃん、リナリアのスキルわかるの?」


「うん、僕って繋がりを持った人のスキルが見えちゃうんだ。もし秘密にしておきたかったのならゴメンね」


「あとで言おうと思ってたから、知られても平気なの。でも他の人のスキルがわかるなんて、さすがはお兄ちゃんなの!」



 あまり高額な報酬は困るなと思って予防線を張ってみたけど、リナリアが提供してくれる流れになってしまった。特殊な加工が必要とはいえ、原価がかからないのは助かる。



「歌姫の鱗なんてオークションが開かれるくらいの貴重品だよ。可愛い孫娘に愛されてるようで幸せ者だね、このこのー」



 脇腹をツンツンしないでください、カトレアさん。くすぐったいです。

 それにしてもやっぱり世界的なアイドルだけあって、ブランド物みたいな扱いになるのか。偽造やなりすましを防止するため、鑑別書付きで売ってそう。



「話を元に戻すのじゃが、報酬として島を一つもらってくれんか?」


「えっ!? 島をって一体……」



 確かにこの国には大小様々な島があるけど、いきなりそれをやるとか言われても、どう反応していいか困る。シアたちも唖然としてるよ。



「元々親父殿に渡そうと思っておったのじゃが、知ってのとおり祭壇から離れられなんだので、誰も住んでおらんのじゃ」


「吸血族の管理する自治区にと言われておったのである」


「あら、それは素敵じゃない」


「少し噂を集めさせてもらったのじゃが、お主は吸血族が安心して暮らせる場所を、欲しておるのではないか?」


「えぇ、そのとおりよ」


「ここならば国を挙げて保護してやれるのじゃ」



 さすが世界中から情報を集めてる国だ。店の中や通りを歩きながらする会話みたいな断片情報でも、大量に集めると何かしらの結論を導き出せるってことかな。



「かなり魅力的な話だけれど、全員が了承しないと受けられないわよ」


「それはもちろんじゃ。我らの持つ武器は情報じゃからな。お主たちの役に立つものを、いくつか開示するのじゃ」



 アプリコットさんは、次にカメリアの方へ視線を向けた。



「お主はアーワイチにある、小さな村の生き残りじゃな?」


「うん、そうだよ」


「そこを襲ったモンスターに関する手がかりなのじゃが、関わっとる可能性が高いのは〝迷宮解放同盟〟と呼ばれておる組織じゃ」


「それが村にモンスターをおびき寄せたの!?」



 厳しい顔つきになったカメリアの手を、スズランが優しく包み込んでいる。ずっと探し続けていた仇の手がかりだ、冷静ではいられないだろう。



「その組織は世界の混沌を、望んでおるらしいのじゃ。モンスターが跋扈(ばっこ)する世の中を作るため、地上の迷宮化を企んどるようじゃ」



 確かにそんなことが目的なら、迷宮の裂け目以外でモンスターを外に出しかねない。なんの目的でカメリアの村を襲ったのか知らないけど、組織的な関与があったなんて……



「それどこにあるの? ボクが行ってあの男だけでも倒してくる!」


「申し訳ないのじゃが、組織の実体については大部分が不明なのじゃ。今わかっとるのは、名前と目的くらいなんじゃよ」



 どうやらかなり巧妙に人の目を逃れながら、活動を続けているようだ。この国ですら尻尾をつかめないんだから、全員が知らなかったのも無理はないか。まだ各国の連携も取れてない状態なので、うっかり口外しないようにしないと。


 他にはシアを襲った三人組についても情報を持っていた。人魚の涙を渡すように脅したり、かなり悪評が立ってたみたい。そしてゼーロンでは、臨時パーティーに誘ったエルフ族を実力不足だと、非難する行為を繰り返している。その情報をオッゴに流し、国から正式な抗議文を出させたそうだ。


 シアを斬った件も突き止めて、殺人未遂としてすでに逮捕されたらしい。違法薬物を購入したことも暴露され、探索者資格は剥奪されているし、今ごろ強制労働させられてるとのこと。あれから一切関わってなかったけど、そんな事になってたんだな。まあ、彼らがどんな運命を辿ろうが、僕たちにはもう関係ないけど……



「この国を拠点にしてもらえるのなら、情報も渡しやすいのじゃ。報酬として考えてもらえんじゃろうか」



 さすがに僕が越境人ということまでは掴んでなかったけど、そうした情報も希望すれば集めてくれるみたい。



「リナリアと一緒に過ごせる時間が増えるし、ナーイアスさんにも会いやすくなるから、僕はいいと思うな」


「私と同じ肌をした者が多いこの国は出歩きやすいし、アイリスの望みが叶うのだから反対する理由はない」


「ボクも迷宮解放同盟について、もっと知りたいから賛成だよ」


「おっぱいの国に定住とか素晴らしいじゃないか! 俺様も大賛成だ」



 一応これでも無害なんですよ、バンダさん。だから再封印したそうに構えるのは、やめてください。カメリアが泣いちゃいますので。



「聞くまでもないと思うのだけど、スズランはどうかしら?」


「私の居場所はマスターの隣ですから、どんな場所でも構いません。マスターさえいてくだされば、私は幸せになれます」


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、ラブラブなの」


「わっ、私とダイチだってラブラブだぞ」



 あー、もう、頬を染めながら張り合うシアは可愛いな。カトレアさんがニヤニヤしながらこっちを見てるけど、気にせずシアの頭を撫でてあげよう。



「イチャイチャするのは帰ってからになさい。ともかくここを拠点にするってことで、話はまとまったわ」


「お主たちのように、力のあるものが居着いてくれるのは、ありがたいのじゃ。すでに屋敷なども一通り建てておるが、整備が終わるまで上陸は待って欲しいのじゃ。温泉のある島じゃから、住心地も良いと思うのじゃ」


「温泉あるの!?」



 アイリスのおかげで毎日お風呂に入れる生活をしてるけど、温泉はやっぱり別格だからね。そんな島があるなんて、ウーサンって素晴らしい国だ。スズランがとてもいい笑顔でこっちを見てるけど、今は気にしないでおこう。






 こうして僕たちはウーサン国の住人になった。


 次回はおなじみの幕間をはさみ、第8章はリナリアの閑話からスタートです。

 学園生活に戻ったリナリアが、うっかり主人公のことを……


 第8章は温泉やコンサート、そして二人目の土地神と盛りだくさんでお送りしますので、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 実はスズランがラスボス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ