表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/237

第20話 記念にいかがでしょうか

 初めて聞いたリナリアの声は、甘くとろけるようですごく可愛い。舌っ足らずなところも、その印象に拍車をかけてる。耳元で囁かれたりしたら、アスマー(ASMR)動画みたいな雰囲気に浸れるかも。膝枕で耳かきして欲しい……



「あのね、お姉ちゃんって呼んでいい?」


「私をですか?」


「うん、そうなの」


「構いませんよ、リナリア様」



 僕から離れていったリナリアが、スズランをお姉ちゃん呼びし始めた。なんとなくリナリアのことを妹っぽく扱ってると思ってたけど、本人もそれを望んでたのか。スズランにもそんな存在ができたっていうのは、ちょっと嬉しいな。



「様はやめてほしいの。お姉ちゃんなんだから、呼び捨てにしてほしいの」


「うっ……わ、わかりました、リナリア。これでいいですか?」


「ありがとうなの、お姉ちゃん!」



 うわー、スズランがあんな感じにたじろぐ姿、初めて見たよ。クロウは同じ精霊仲間で呼び捨てにしてるけど、人に対して敬称を使わないのって大事件だ。



「スズランまでああなってしまうとは、歌姫というのは凄いものだな」


「あれは歌姫というより、あの子が持っている資質じゃないかしら」


「お願いがあるの。リナリアもシアちゃんって呼びたいの、ダメ?」


「ダメなことなんてないぞ、私のことは気軽に愛称で呼んでくれ。ダイチとつながりを持ったリナリアは、家族と同じだからな。なんなら、私もお姉ちゃんでいいくらいだ」


「姉が何人もいるとややこしくなるから自重なさい」


「アイリスちゃんも色々ありがとうございましたなの。これからよろしくお願いしますなの」


「年上にちゃん付けなんて……と普通なら怒る場面だけど、あなたに言われるのは不思議と受け入れられるわね。私のことは好きに呼びなさい。もっと楽な話し方でもいいわよ」


「わかったの、アイリスちゃん」



 シアとアイリスもなんだかんだで、デレデレになってる。大賢者にもちゃん付けされてたけど、あれは仕方なく受け入れてるって感じだった。でもリナリアに呼ばれてる時は、そんな態度が一切ない。



「クロウちゃん、リナリアを見つけてくれてありがとうなの」


「なーに、それくらいお安いご用だぜ。お礼は一緒のお風呂でいいからな!」


「リナリアの体はお兄ちゃんのものなの。いくらクロウちゃんでも、あげられないの」


「おっ、おう。そら悪かったな。諦めることにするぜ」


「クロウがこんな簡単に引き下がるなんて、リナリアって凄いね」


「そんなことないの。カメリアちゃんのほうが、もっと凄いの。戦ってる姿とか、すごくかっこよかったの!」


「えへへへへへ~。そんなふうに言われたら、ボク照れちゃうな」



 なんかもう、すっかり我家のアイドルって感じに受け入れられてる。僕だって当然同じだよ。もうお兄ちゃんって呼ばれた時点で、拒否するなんて選択肢は存在しなかったから。



「お兄ちゃん、あのね……」


「どうしたの、リナリア」


「ぎゅってして欲しいの」


「うん、いいよ。こっちに来て」



 近づいてきたリナリアを抱きしめると、僕の背中に腕を回して密着してきた。体に顔をスリスリこすり付けてくるのは、ちょっと猫っぽいかも。とにかく何をやってもこの子は可愛い。仕草や声そして喋り方、存在すべてが萌えで出来てると言っても、過言じゃないだろう。



「ずっとお兄ちゃんが欲しかったの。やっと夢が叶ったの」


「可愛い妹が出来て僕も嬉しいよ。これから仲良くしようね」



 カメリアも僕のことを兄っぽく慕ってくれるから、これで二人目の妹ができたことになる。立派なお兄ちゃんになれるよう、これからもっと頑張っちゃうぞ!



◇◆◇



 リナリアは家族と一緒に、声が戻ったことを喜びあってる。この光景が見られて、本当に良かった。人魚の涙に関する詳細を教えてくれた土地神には感謝しないと。なにせアプリコットさんですら、一部しか知らなかったことだから……



「色々とありがとうございました、リナリアが元気になって嬉しいです」


「こちらこそお世話になってますから、気にされなくて構いませんよ」



 どうやら土地神は迷宮の内部に、干渉できないらしい。だから邪神の蛮行を止められず、心を痛めてたみたいだ。(たま)から外に出られるほどの精気を譲渡したことなど、何度もお礼を言ってくれた。



「それにしても、一度の儀式だけで魂の輝きを取り戻すなんて、驚きました」


「普通はもっと時間がかかるんですか?」


「えぇ、最低でもキスくらいはしていただこうと、思ってたのですよ。それが見て下さい、リナリアの髪から余剰精気がこぼれ落ちてます。少しもったいないですね……」



 リナリアの髪が揺れるたびに、光の粒が辺りに舞い散ってたんだけど、あれは精気が可視化されたものだったのか。アイドルはやっぱりキラキラ輝いてるな、くらいにしか思ってなかったよ。


 う~ん、リナリアを見つめる土地神の口から、よだれが零れそうになってる。もしかしてすごくお腹が空いてます?



「あのぉ……よろしければ、わたくしとキスしてみませんか?」


「えっ!?」


「ちょっとお腹が……じゃなくて、お礼にです」



 言い直した。いま確かに言い直したよ!

 それにこの表情は見覚えがある。アイリスが時々やる捕食者の目だ。



「わたくしと口づけを交わした者などおりませんし、記念にいかがでしょうか」


「スタンプラリーじゃないんですから、軽々しくそんなことを言わないで下さい」


「……? よくわかりませんが、いいじゃないですか。減るものではないですし」



 減ります。精気がガッツリ減ります。だってあなた、吸う気まんまんでしょ。



「そっ、それより、えっと……そう! 名前、あなたの名前を教えて下さい」


「わたくしの名前ですか?」



 みんな土地神って言ってるけど、その人が持つ固有の名前じゃないと、なんか呼びづらい。



「そうです。お礼というなら、名前が知りたいです」


「そんなものはありませんよ。そもそも神などと呼ばれていますが、わたくしは自然の一部みたいなものですので。人の感覚で言うなら、妖精といったところでしょうか」


「そうなんですか……。名前でお呼びしたかったのに、残念です」


「でしたらマスターが付けて差し上げれば、良いのではないでしょうか」


「あら、それはいいですね。お願いしても?」



 そんな子供みたいな目で見られたら断りにくい。でも土地の守護者みたいな人に命名するのって、許されることなのかな。まあ、本人が希望してるんだし、考えてみよう。



「こいつはいつものパターンだな」


「なにか凄いことが、おきるんだよね。ボク楽しみ!」


「まったく……土地神とキスなど、不敬はなはだしい。相変わらず人の(ことわり)から外れた者に、好かれすぎだ」


下僕(げぼく)の名前好きも、事ここに至るって感じだわ」



 僕もなにかおきる気がするけど、こんなに期待されたら応えてあげたい。本人が精霊だって言うなら、名前はウンディーネが一番似合いそうだけど、違うみたいだしなぁ。水にまつわる名前で、なにかいいのはあったっけ……



「ではナーイアスという名前はどうでしょう?」


「全く聞き覚えのない響きですね」


「僕がいた世界に伝わる、水の精を表す言葉なんです」


「まあ! それはわたくしにピッタリではないですか。それではこれから、ナーイアスと名乗ることにしましょう」



 土地神が名前を受け入れてくれた瞬間、祭壇全体が眩しく光りだす。

 うん、やっぱりこうなったか……


土地神に訪れた変化とは?

次回「さすがはお兄ちゃんなの!」をお楽しみに!

略して「さすおに」。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ