第18話 癖になってしまいそう……
誤字報告ありがとうございました。
推敲に使ってるAndroidタブレットを7inch WSVGA(1024x600)から10.1inch WUXGA(1920x1200)へ更新したので、減っていけばいいな。
(むしろゲームが捗りすぎて……ゲフン、ゲフン)
影転移で戻ってくると、バンダさんの私室には誰もいなかった。外から声が聞こえてくるので、みんな祭壇にいるんだろう。
そして部屋を出ると祭壇の近くにはバンダさん一家の他に、透き通るような青色の髪をした女性が立っている。どうやら土地神が無事に目覚めたみたい。
真っ白の大きな布をワンピースにした感じの、ゆったりとした服を着た姿は天使のようだ。羽は生えてないけど……
「おはようございます」
「おはようなのである。アイリスは大事ないであるか?」
「始祖様に追加で力を渡せるくらい万全よ」
「あれ程の力をやり取りした翌日に動き回れるとは、ダイチとアイリスはよほど相性がいいであるな」
アイリスが頬を染めながら、バンダさんから視線をそらした。昨日のことを思い出しちゃったのかな。起きてからシアやイチカたちに何か言われるかと思ったけど、みんな軽く触れる程度でスルーしてくれてる。アイリスの頑張りがわかってるだけに、気を使ってくれてるんだと思う。だからバンダさんも、ニヤニヤこっちを見るのはやめてあげて!
「あなた方がわたくしを目覚めさせてくれたのですね。感謝いたします」
土地神の女性がこちらに近づいてくると、優雅に頭を下げながらお礼を言ってくれた。昨日は水の球に入ってたからわかりにくかったけど、僕たちの中で一番色白なスズランと変わらない肌だ。それに慈愛のこもった目で見つめられると、吸い寄せられそうな気がしてくる。
さすがにこれはシアやカメリアも、見とれてしまっていた。だけどクロウが凝視してるのは、間違いなくおっぱいだろう。上半身にケープを羽織ったような構造の服だけど、たわわな存在がしっかり自己主張してる。つい目が行くのは仕方ないとはいえ、神と呼ばれる存在をガン見してるとかすごいよ……
「初めてのことだったので加減を間違えてしまったんですが、なにか不調は出ていませんか?」
「何も問題がないどころか、とても濃厚な精気をいただいたおかげで、お肌もツヤツヤになりました。ありがとうございます」
そういえば僕やシアと睦み合ったあとのスズランも、あんな感じのツヤツヤ肌になるんだよな。もしかして何か吸われてたの?
あっ、スズランが僕をすごくいい笑顔で見つめてる。
「問題がないのなら良かったです。また力が必要になった時は、アイリスにお願いしてみますので」
「再びわたくしをあなたの精気で白く染め上げていただけるなんて、思い出すだけで全身が火照ってきます。癖になってしまいそう……」
えっと……なんか言い方がエロくないですか?
両手を頬に当てながら、体をクネクネしないで下さい。
異世界人の精気って、こっちの人に悪影響とか及ぼしてないよね。
「下僕の力だって無限じゃないのだから、安請け合いしてはダメよ」
「うん。心配してくれてありがとう、アイリス」
「私の分が無くなったら困るだけよ、心配しているわけではないわ。それよりリナリアの件は、なにか進展があったのかしら」
「邪神と呼ばれていたモンスターは、声を返すこともできたみたいなんです。もし祟りが原因になっていて、それを祓うことができるなら、力を貸していただけませんか」
隠れていたモンスターが、声を戻すと独り言をつぶやいてたのは確かだ。しかし髪の色を変えてしまうくらいだから、シアが受けた呪いのように厄介な代物のはず。それが種族特性にまで影響を及ぼしていたら、僕たちの手に負えない。それこそ願いを叶える宝や、神の力が必要になる。
「今のリナリアが陥っている症状なのですが、魂の輝きが失われた状態なのです。その治療はほぼ不可能と言って差し支えありません」
「魂の輝きが失われた……ですか?」
「言い換えますと、魂の一部を食べられたことが原因で、声を失い髪が変色している。そうお考え下さい」
人魚族の声というのは、自分の魂と密接に関係しているらしい。だから【歌唱】という種族スキルがあり、歌声に様々な強化効果が乗る。ただしゲームみたいな攻撃力が何割増しとか、そこまで大きな効果はないそうだ。歌を聞いているとリラックスできたり、落ち込んでいた気持ちが前向きになったりするのは、白い精霊のスキルに少し似てるかも。
そして邪神と呼ばれていたモンスターは、人魚族の魂が大好物だった。自分の好みに合う魂を見つけると、少し味見して持ち帰ってしまう。それが声を失い、髪の変色をまねいた理由とのこと。クロウが祟りだと思ったのは、味見した際に付着した怨念の残滓を、感じ取ったからみたい。
だとすれば、声を戻すってどうするつもりだったんだろう。舐めかけの飴を返すみたいな感じ?
日本人の感覚で丸に近い形から連想しちゃったけど、それってむちゃくちゃ気持ち悪いな。あんなのが口に入れたものを返されたら、絶対に状態異常がひどくなる。
「魂の一部を奪ったモンスターを倒した僕たちって、もしかして取り返しのつかないことをしてしまったのでは……?」
「いえ、逆に倒していただいて良かったのです。仮に戻すことが可能だったとしても、不完全な魂やまがい物で置き換えられた可能性が高いでしょう。そうなると、もう手の施しようがありませんでしたから」
「では、先程あなたが〝治療はほぼ不可能〟とおっしゃったように、今の状態なら元に戻す方法があるのですね」
しっかり話を聞いてたことを褒めるように、土地神の女性がにっこり微笑みながら近寄ってきた。なんとなく物欲しそうな表情にも見えるんだけど、もしかして僕の精気を狙ってます? 必要なら差し上げますけど、今のあなたってとても健康そうですよ。ぷるぷるしっとり肌って感じですし!
「実は過去に、魂の輝きを取り戻した事例があるのですよ」
「それが吾輩とカトレアなのである」
そういえば水晶に中にいるカトレアさんって、髪の色が普通の人魚族と同じだった。花嫁として迷宮の隠し部屋まで連れ去られてるから、そのあと元に戻すことができたんだ。
「あら、昨日はそんなことを言ってなかったと思うのだけど? とうとう始祖様も耄碌したのかしら」
「アイリスが辛辣なのである。これが反抗期といものであるな」
「誰もが通る道なのじゃ。適度な距離を保って見守ってやることが大切じゃぞ、親父殿」
あの時は出来ることを全て試していたから、何が影響していたのかわからなかったみたい。土地神に聞こうにも今日まで眠ってたし、バンダさん自身も愛の力だとしか思ってなかった。しかしこの人って、スキあらばカトレアさんのことで惚気けてくるな。
水晶の封印は簡単に解けないと言ってたし、そっちも絶対に手伝わせてもらおう。
「それはどんな方法なんですか? もし協力できることがあれば、なんでも言って下さい」
「さすがダイチは漢であるな。あっぱれなのである」
「ダイチになら任せられるのじゃ」
「なんとなくオチが読めてきた気がするわね」
「奇遇だな、アイリス。私も同じ意見だ」
「ボク、まだよくわからないんだけど……」
「俺様が説明してやるから、ちょっとあっちに行こうぜ、ご主人さま」
バンダさんとアプリコットさんの言葉。もじもじしながら、こちらの様子を伺ってるリナリア。スズランと同じ笑顔で僕を見ている土地神の女性。これはもうアレしかないだろうなぁ……
「時間もあまりありませんので、お伝えしてもよろしいですか?」
「はい、覚悟はできました」
「大変素晴らしい心がけです。では、その決意に敬意を表して、リナリアと繋がって下さい」
……あっ、やっぱり。
次回、リナリアの声を取り戻すため、彼女と繋がることを決意する主人公。しかしバンダやアプリコットから、とんでもない要望が……
第19話「ハードルが高すぎますって!」をお楽しみに!