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第16話 マッチョにだけは気をつけてね

 世界樹の杖を握りしめたシアが、ジト目で僕を睨んでいる。背中に〝ゴゴゴゴゴ〟って効果音を背負ってるみたい。すごいプレッシャーだ、目をそらした瞬間に魔法が飛んできそう。


 これってあれかな、先に動いたほうが負けってやつかも。



「このままだと話が進まないわね。場が(なご)んできたところで、真面目に対策を考えるわよ」



 あわや雷撃の餌食になろうかというとき、アイリスが軌道修正をしてくれた。シアも(ほこ)を収めてくれたし、こんな時はすごく頼りになる。いつもありがとうアイリス。


 そもそもリナリアの状態異常をどうにかしようって議論してたのに、どうして僕とアプリコットさんの子孫を残すって話にすり替わってるのさ。わけがわからないよ。



「国の代表者に手を出すような真似は控えてもらうとして、例えば私がやってもらったようにスズランと繋がる方法はどうなのだ?」


「今日はリナリア様と行動をともにして、お風呂場ではお互いの肌を何度も重ねました」



 ちょっ、スズラン!? また言い方がエロくなってるから!

 リナリアが顔を真っ赤にしてるよ。きっとお風呂場でアスフィーにしてるのと、同じ洗い方をしたに違いない。



「ですが一般的な状態異常とは、気配が異なっているのです。それに、かつてのシア様が受けられていた、魂に刻まれた呪いという感じでもありません」


「ねぇ、クロウも同じ精霊なんだし、何かわからない?」


「ご主人さまの期待に応えてやりたいが、俺様にもイマイチよくわからないんだ。ただまあ多分こいつは(たた)りみたいなもんだと思うぜ」



 そういえば日本にも怨霊に祟られて病気になったり、天変地異がおきたなんて伝説があったな。消滅してなお迷惑をかけ続けるなんて、本当にどうしようもないヤツだ。


 精霊の感覚でも捉えられない不確定さがあるから、スズランも僕に勧めてこなかったんだろう。だったらさっき傍観してたのはどうして?


 もしかすると精神的に不安定になったアプリコットさんを、立ち直らせるためだったのかも。そんな気遣いのできるスズランは誇らしいけど、僕をダシにするのは程々にしてね。



「精霊獣の見立てどおり祟りが原因であるなら、専門は土地神なのである」


「この人ってずっと眠ってますけど、起こしても大丈夫なんですか?」


「吾輩が力を送ってやれば、話くらいは出来るのである。干からびた時はよろしく頼むであるぞ、アイリス」


「ちょっと待って下さらないかしら、始祖様。そう何度も力を使い果たしてもらっては困るのだけど」



 ゾンビアタックじゃないんだから、もっと自分の体を大切にしてくださいよ。家族愛が大きすぎるせいかもしれないけど、わが身をかえりみない行動が多すぎる。



「しかし土地神に渡せるほどの精気は、吾輩にしか生み出せぬのである」


「あら、もうお忘れになったのかしら。この私は始祖様を()()()復活させたのよ。ここにいる精力タンクを使えば、いくらでも供給できるわ」


「あの、アイリス。もう少し言葉を選んで欲しいんだけど……」



 その言い方だと、僕が性欲の塊みたいだよ!


 吸血族は人の血に流れる精気を取り出し、エネルギーにしてるって前に教えてもらった。土地神もそれと同じ力で活動してるのかな。



「ダイチは良いのであるか?」


「えっと、アイリスに危険がないなら構いません。ただ土地神のことについて、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」



 バンダさんの話によると、土地神は自然界に漂う精気を取り込んで、エネルギーにしているそうだ。でも吸血族の一人が暴走した時に、土地神からその能力を奪ってしまう。相手が自然の精気を使えるようになったから、バンダさんも命がけで倒すしか無かったってことか。


 力を取り込めなくなった土地神は、徐々に衰弱していく一方。そこでバンダさんは同胞の犯した罪を償うため、結界の維持と土地神の延命に力を使っていたとのこと。だから自分の回復は後回しになってるんだとか。そんな体で動き回ってたなんて、本当にこの人は無茶し過ぎだよ。




「自然界から得られる精気と、人から得られるものはわずかに違うのである。この(たま)はそれを変換する触媒なのである」


「土地神を目覚めさせるには、この水でできた(たま)が白くなるまで、精気を渡せばいいってわけね」



 植物性タンパク質と動物性タンパク質の違い、みたいなものなのかな。


 僕は人間だから、動物性のプロテインってことになる。飲み続けたアイリスが、たくましく成長したりするのかな。そのうち大胸筋が歩きだしたり、上腕二頭筋がチョモランマに見えてきたりして……


 おっと、いけない、いけない。また変なこと考えてるって怒られそうだ。血液をプロテインに置き換えるのは、やめておこう。



「一気に補給するのは、いくらなんでも無理であるぞ」


「とにかくやってみましょう。いいわね、下僕(げぼく)


「うん、いいよ。でもマッチョにだけは気をつけてね」


「……どんな愉快なことを妄想していたのか知らないけど、言っていることが意味不明よ」



 はい、ごめんなさい。



◇◆◇



 バンダさんから精気の譲渡に使う呪文や力の使い方、そして注意点など聞いたアイリスが僕の隣に座る。このソファーはバンダさんの私室にあるものを借りてきた。


 目の前にある液体で出来た(たま)は、丸い形をした台座の上に浮いていて、その中心にいるのが土地神だ。膝を抱えて丸くなった全裸の女性だけど、この位置からならギリギリ問題ない。とにかくシアの機嫌が傾くから、凝視するのはやめておかないと。だって、かなり立派なものをお持ちだから……


 年齢は二十五歳くらいかな。スズランより少し年上って感じ。眠ってる姿しか見てないから断言できないけど、神秘的な風貌が少し似てるかも。二人とも神が造りし造形って思えるほどの完璧さがある。



「いくわよ、下僕」


「あまり無理しないでよ」



 〈包影(ほうえい)



 自信ありげに微笑んだアイリスが呪文を唱えると、影が伸びて球体を包み込む。



「くっ……際限なく力が持っていかれるわね。まるで底のない入れ物に、水を注ぎ込んでるみたいだわ」


「力の経路を開きすぎないようにするのである」


「補給しながら力を渡すから、しっかり私を支えていなさい」



 膝の上に乗ってきたアイリスが倒れないよう、両腕でそっと抱きしめる。いつもより密着してきたので、少しドキッとしてしまう。頭にそっと手を置いてみたけど、嫌がってはなさそうかな。


 首の付根にチクリとした痛みが走り、アイリスの舌がいたわるように触れてきた。これで痛みはなくなるし、傷跡も残らないんだよね。そうじゃなかった僕の首筋は、薬をやめられない人みたいになってただろう。なんたって、毎晩吸われてるので!



「ふぅー……ふぅー……んっく」



 アイリスの息が徐々に荒くなり、体が熱っぽくなってきている。バンダさんを復活させる時は、いつもより少し多めに舐め取るだけですんだけど、今は血を吸われてるって感触がはっきりわかる程だ。やっぱり土地の守護者を回復するには、膨大なエネルギーが必要なんだな。



「大丈夫? アイリス」


ひんぱい(心配)いりゃないわ(いらないわ)……はなたは(あなたは)らまって(黙って)ふわれてなはい(吸われてなさい)



 こんなに長時間給血行為をしたのって初めてだし、やっぱり心配になってくるって。首筋に当たる息がすごくくすぐったいから、気を紛らわせるために頭でも撫でてみよう。


 僕たちの中では一番年上だけど、アイリスの身長は小学校の高学年くらいだ。どうしてバンダさんは、こんな小さな子を眷属にしたんだろう。眷属になる前の記憶って消えるらしいから、アイリスもその理由を知らない。


 目の前にいるバンダさんが答えを知ってるけど、興味本位で聞いていいことじゃない気がする。だけど吸血族になる前の彼女が、どんな子供だったかは何となく察しがつく。きっと優しくて思いやりのある女の子だったに違いない。


 そんな事を考えて頭を撫でてたら、アイリスの呼吸が少し落ち着いてきた。もしかしたら、なでなでの効果があったのかも。


 この状態で、しばらく力の譲渡を続けていく。



「ねえ、影の薄くなったところから光が漏れてるよ」


「もう十分なんじゃないか?」



 (たま)の後ろ側に回り込んで見守っていたカメリアとクロウから声がかかる。結構吸われた感じだけど、もしかしてフルチャージしちゃったの? これが異世界人の謎パワーってやつだとすれば、ちょっと怖くなっちゃいそうだ。自分の体なのに……



「供給を止めるのであるアイリス。もうこれ以上は必要ないであるぞ」


「……もっろ(もっと)………もっろ(もっと)ひょうらい(ちょうだい)


「アイリス、もう十分だから離れてもいいよ」


らめよ(だめよ)……こえは(これは)わらひの(私の)……ものなんらから(ものなんだから)


「ぬぅ……これはいかんのである」



 〈断影(だんえい)



 ひざまずいたバンダさんが、アイリスの影に手を置いて呪文を唱えると、そこに真っ直ぐ切れ目ができる。他人の影に干渉して、強引に接続を断ってくれたのか。そんな事ができるなんて、さすが吸血族の始祖はすごい。


 (たま)を覆っていた影が消えて、祭壇にいる僕たちを明るく照らす。中身が見えないくらい光ってるけど、これって大丈夫なんだよね?


 とりあえず今はアイリスの介抱をしないと。ふらふらとしながら吸血をやめてくれたけど、顔が上気して目がとろんとしてる。こんなになるまで頑張るなんて……



「しっかりして、アイリス」


「なんらか胸の奥が切ないの……ギュッっれしてダイチ」


「こんな感じでいい?」


「らめよ……もっろ、もっろ触れ合いたいわ」


「……ッ!? んーーーーー!!!」



 抱き寄せたアイリスが、いきなり僕の唇を奪いに来た!?

 しかも、舌が! 舌がっ!

 ちょっと強引すぎるよ、これじゃあ息ができないって!!



「こっ、こっ、こっ……こんな人前で(さか)るとは何事だぁー!! 離れろ、今すぐ離れるんだアイリス。やるなら家に帰ってからにしろ!!」



 あっ、シアがキレた。



「んっ……ふはぁー。あなたらっていつもしてるじゃない。私もダイチとシテいいでしょ?」


「いっ、いつもしてるわけではない。それに私はちゃんと節度を持ってやっている」



 なんか言葉のニュアンスがおかしいよ、アイリス。しかも以前見たことある、捕食者の目になってるじゃないか。このままだと性的に食べられてしまう。



「バ、バンダさん。アイリスは一体どうなってしまったんですか?」


「これは間違いなく精気酔いなのである。ダイチの強すぎる力を、過剰摂取したのが原因であるな」



 うわー、やっぱり僕のせいなんだ。

 でも、どうしようこれ。酔ってキスを迫ってくる女の子の対処法なんて、僕は知らないよ……


次回、なんとか家へ帰ってきた主人公たち。

しかしアイリスの暴走は止まらない……


「第17話 もしかして、なんか出ちゃいそう?」をお楽しみに!


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