第7話 新しい精霊
人と同じ姿になったスズランと出会って一夜明けた。
僕からたくさんの力をもらったと満足そうにしていたスズランは、隣ですやすや寝息を立てている。なんだか肌とかツヤッツヤだな!
銀糸のように輝く髪は、少し青みを帯びてるだろうか。朝日を浴びるスズランはあちこちキラキラしてて、ちょっと神々しい。優しく慈愛のこもった寝顔は女神様みたいだし、間違い電話で呼び出されたりしそう……
それで昨夜はどうだったかって?
とろけるような手触りが、大変まろやかでした!
ひとまずそれは置いといて、今の僕には気になる存在がある。
僕たちの間で寝ている、ピンク色の小さな人(?)だ。
「これって精霊だよなぁ……」
「おはようございます、マスター。もちろんこの子は、私とマスターから生まれた愛の結晶です」
二人同時に起きたらしく、スズランはこちらを優しく見つめ、ピンク色の精霊は布団の上にふわりと浮き上がる。この世界にこんな色をした精霊は存在しないから、きっと特別な力を持ってるんだろう。この子がオルテンシアさんを、狂化の影響から救ってくれるんだ。
だけど一晩で子供が生まれるなんて、さすが精霊!
その瞬間は見てないけど、どこから出てきたんだろう?
興味はあるけど、聞かないほうが良い気がする。
僕の予感って当たるんだ。……多分。
「この子の力って、なにがあるの?」
「その前に名前をつけてあげませんか? マスターから与えられる名前には、力が宿りますから」
「へー、そんな効果があるんだ」
それならいい名前を考えてあげないと。ピンクといえばハートとか、戦隊モノのメンバーが思い浮かぶけど、日本人ならやっぱりあれだよな!
「それならサクラって名前はどう?」
僕がそう告げると、ピンクの精霊改めサクラが、嬉しそうに頬へすり寄ってくる。やっぱりこの子もスズランと同じで、甘える姿がとても可愛い。
「そういえばサクラの声が聞こえないけど、どうして?」
「精霊は普通、声を出したりしませんよ」
「だけど僕には、ずっとスズランの声が聞こえてたんだけど……」
なんたって、きれいな鈴の音みたいな声に、何度も勇気づけられている。だから僕はそれが普通だって、ずっと思ってた。
「契約石なしに私を呼び出してくださったマスターと、特別な繋がりがあったんだと思います」
「じゃあ特級精霊になれたのは、その影響かもしれないね」
「二人を繋ぐ愛の力ですね!」
スズランはこうしてストレートに言うから、聞いてるこっちが恥ずかしくなってしまう。今まで言葉で伝えられなかったことを、全部口にしてるんじゃないだろうか。こんな美人に言われて喜ばない男なんていないし、スズランの幸せそうな顔が見られるから、僕の方からとやかく言うのはやめておくか……
それよりサクラの持ってるスキルを見せてもらわないと。いったいどんな力があるのか、ちょっとワクワクする。
「ねぇサクラ、君のスキルを見せてもらっていいかな」
近くに飛んできたサクラが空中に表示してくれたスキルは、かなり特殊なものばかりだった。
強堅:☆☆☆☆☆
魔滅:☆☆☆☆☆
遮断:★★★★★
隠密:☆☆☆☆☆
[進化]
【強堅】は青い精霊が持つ物理耐性の上位スキル、同じく【魔滅】も魔法耐性の上位スキル。【隠密】はその名の通り、気配や音を他者に気づかれにくくする。そして星が五つ埋まっている【遮断】は、青い精霊が持つ身体異常耐性と精神異常耐性を合わせた、複合スキルらしい。これがオルテンシアさんを救う鍵か……
「一番下にある【進化】って、どんな効果があるのかな」
「【遮断】は私の力で全振りしてしまったので変化しませんが、残り三つを育てていけば更に上位のスキルへ進化します」
「それって凄いね! まさにチート能力だよ」
僕は何もスキルを持ってない無片だけど、頼もしい味方が増えれば異世界で出来ることが増えていく。ここにオルテンシアさんも加わってくれると嬉しいんだけど、まずは本人の意志を確かめないと。
「そういえばマスターには、まだ私のスキルをお見せしていませんでしたね」
「あっ、そうだった。再会してすぐあんな事があったから、すっかり忘れてたよ!」
「ではこちらをどうぞ」
なにせスズランから衝撃的すぎる提案をされたせいで、特級精霊に進化したことしか知らない。昨夜の出来事はなるべく思い出さないようにしながら、スキル一覧を見せてもらう。僕へしなだれかかるように座ってるスズランの前で、絶対にスリープモードを解除するわけにはいかないのです。
忠義:★★★★★
鼓舞:★★★★★
分配:☆☆☆☆☆
新生:★☆☆☆☆
[成長]
【忠義】は白い精霊が持っていた奉仕と献身の複合スキル、そして【鼓舞】が応援と安定の複合スキルになる。【分配】がさっき言ってた、サクラの遮断を育てるために力を分け与えたスキル。今は星を使い果たした状態だけど、ここを育てていけば他の精霊が成長するってことか。
星が一つだけ埋まってる【新生】は、もちろんサクラを生み出した力だ。つまりあと四人、特殊な精霊が生まれる余地を残している。だけど僕とスズランで生み出せるのは一人だけ。これ以上は別の力を取り込む必要があるらしい。その条件はスズラン自身にもわからないので、これからゆっくり探していこう。
それから特殊スキルの【成長】が、他の精霊を育成する技能になる。なんだか精霊のお母さんって感じ。見た目は二十歳くらいだけど、凄い包容力があるし。息ができなくなった時は、本気で苦しかったよ……
そして特級という進化レベルへ昇華したスズランは愛護精霊になり、サクラという守護精霊を生み出してくれた。
「なんだか思いもよらないことばかり起きて、ちょっと一杯一杯かな」
「私とサクラちゃんからお伝えすることはこれくらいですし、気分転換に街へ行ってみませんか?」
「そうだね。その姿になったスズランともデートしたいし、ついでに服とか靴も買ってこよう」
空を飛べるからだろうけど、スズランは靴を履いてない。それに服もワンピース一着なんて可哀想だ。仕事もそれなりにこなしてるし、ここは男の甲斐性ってやつを見せてあげよう。
昨夜は慌てたり緊張したりで、スズランの想いを全部受け止めてあげられたかわからない。その汚名を返上するためにも、今日のデートを目一杯楽しんでもらわないと。今回のミッションは、男のプライドをかけた負けられない戦いなのだ!
髪の毛の色も某三姉妹の次女に似てますからw(原作版)