僕の事を無理に好きになってほしい訳じゃない!
僕と君は、親同士が決めたお見合いで結婚した。
元々、彼女には僕と結婚する前から彼がいて
その男性と結婚したいとまで想っていたらしい。
でも? 彼女のお父さんの会社が赤字を出し会社は傾きだ
したため、僕の父親の会社に助けてもらう代わりに僕と結婚
する条件を出したんだ。
彼女は、父親の会社の為に僕と結婚をさせられる。
僕は、世間知らずで親から大事に過保護に育てられた37歳
の何の取り柄のない小太りの男だ。
親が金持ちじゃなかったら? 誰も僕の事を相手にしてくれ
る人はいないだろう。
僕だって、ちゃんと知っている。
彼女が、僕の事を好きじゃない事も...。
いつも、“うわの空で”僕が彼女に話しかけてもただ【えぇ!】
と返事を返すだけ。
僕は、過保護に育ったけど、、、?
相手が嫌がる事は、したくない。
だから、初めっから寝室は別々だし、彼女の好きなようにさせている。
ゆっくりでいいから、彼女が僕の方を少しでも見てくれるといいなと
想っているんだ。
彼女は、料理上手で何でも作ってくれるものは美味しいよ。
彼女の為に気分転換になると思い、たまに夜のドライブに誘うんだ!
何処に行きたい訳でもなく、ただただ車を走らせる。
助手席に乗っている彼女は、少しだけ嬉しそうにしてくれる。
普段は、どんなに僕が彼女を笑わそうとしても少しも笑ってくれない。
ただ、僕と夜ドライブに行く時だけは? 彼女が喜んでくれる。
彼女は、たまに一点を見つめて何かを考えている。
きっと、元彼との想い出を思い浮かべているのだろう。
楽しかった想い出。
僕と彼女の楽しい想いでは? 作れているのだろうか?
・・・彼女と結婚してから1年が過ぎた。
相変わらず、僕と彼女の関係は埋まらない。
ただ、彼女の耳に元彼が他の女性と結婚したという話を聞いたらしい。
その日は、彼女は僕も見た事がないぐらいに取り乱していた。
家のモノを片っ端から投げつけて壊し暴れ出す。
長い髪を振り乱して、まるで鬼のような形相で狂い始める。
あんな、彼女の姿は初めてだ。
僕には、どうする事もできなかった。
散々、彼女が部屋の中で暴れた後少し落ち着いたのか?
僕にこう言った。
『・・・ごめんね、やり過ぎた、』
そう言って、涙を流しながらニコッと笑った。
僕は、彼女のあんな顔を見て! 胸が張り裂けそうになる。
ずっと、僕と彼女が一緒に居ても癒せない事もあるのかなと。
・・・彼女は、次の日。
いつも通りの彼女に戻っていた。
散らかした部屋を一人で片付け、何事もなかったように振舞った。
『今日の晩ごはんは、何がいいですか?』
『別れよう。』
『えぇ!?』
『君は、僕によく尽くしてくれた! もう十分だ! 僕の父親には
僕から君に嫌気をさして別れたとでも言うよ! それなら、君の
お父さんの会社にも迷惑をかけなくて済むだろう! だから別れよう。』
『・・・そんな、昶彦さんは、私の事が好きじゃなかったんですか?』
『好きだったよ。』
『・・・じゃあ、どうして、別れたいって言うんですか?』
『君が、僕の事を好きじゃないと分かったからだ!』
『・・・・・・わ、私は、』
『そう! 本当に好きだったのは? “元彼”だったんだろう?』
『・・・知ってたんですか?』
『あぁ! その元彼が結婚した事も知ってたよ。』
『・・・・・・』
『あんなに取り乱した君を見るのは、初めてだった。』
『私達! やり直せませんか? 一からもう一度!』
『・・・無理だよ。僕は君が立ち直れるのをずっと待っていた!
それでも、君は何も変わらかった。』
『今度こそ! 立ち直ります! お願いです昶彦さん! 最後にもう一度
だけ! 私にチャンスをください!』
『・・・離婚届は、書いているよ。君も書いて出しておいてくれ!』
『お願い! もう一度、私にチャンスをちょうだい!』
『この家は、君が好きなように使っていいよ。僕が出て行く! 荷物は
また日を改めて取りに来るから、それでいいかな?』
『昶彦さん! 出て行かないで!』
『今度こそは、幸せになるんだよ。』
『・・・・・・い、行かないで、私を一人にしないで!』
・・・僕は、泣きながら引き留める彼女を一人置いて、家を出た。
今悲しくても、いつか? 彼女には、また好きな男性を見つけて
幸せになってほしい。
*
・・・僕があの家を出てから半年後。
僕は、街でバッタリ彼女と会った。
落ち着いた大人の女性が着るような服を着ていた。
『これで! もう一度、出会いから始められますね。』
『えぇ!?』
『一から、【恋】を始めましょう、私達!』
『・・・あぁ、ううん。』
僕と彼女の、時計の針がまた一から動き出した。
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