反抗期お姫様の時間旅行
最終回です!
「どうやら、赤子のアリシア様の容態が非常に悪いそうです」
「え……!」
それはつまり、過去の自分が危険な状態ということだ。
「――行くわよ! アンジェ!」
居ても立っても居られなくなったアリシアは、直ぐに医務室へ向かって歩き出した。
☆☆☆
医務室へ向かうと、部屋の扉の前に、父モーリスが立っていた。
「モーリス様! アリシア様の容態は!?」
昨日少し話していたアリシアは、主とメイドの関係にあるにも関わらず、一方的に質問をしてしまう。
しかし、そんなことをいちいち注意する余裕もないモーリスは、アリシアに状況を説明した。
「夜、突然唸り出したと思ったら、高熱を出して、倒れたんだ。そのまま意識を失って、ここに運ばれた」
「え……!」
アリシアは絶句する。それは、アリシアの想像を遥かに超えていたからだ。
もし重大な病気にかかっていたとしたら、15年後のアリシアである自分が、知らないはずがないからだ。
(なんで教えてくれなかったの!)
そして、もし知っていたら、治療した方法も分かったはずであった。
アリシアは目の前のモーリスに恨ましい目を向けるが、それで状況が変わる訳ではないので、アリシアは何か治す方法がないかと考える。
「医者によると、体内の魔力が著しく減少しているらしい。これは多分――」
「魔力枯渇症……!」
アンジェラがモーリスの言葉に続いた。
魔力枯渇症。何かが原因で、体内の魔力が著しく減少する症状。
ある程度、体が丈夫になった大人なら、多少気持ち悪くなったりする程度で済む。
しかし、まだ体が丈夫でない子供、特に生まれて間もない赤子の場合、体が耐えきれず死に至ることもある恐ろしい病気だ。
つまり、現在赤子のアリシアは、死に瀕しているということだ。
「どうすれば……」
この病気は、現在においても何が原因で魔力が減少するのかは判定していない。
そのため、この病気の治療法は確立していなかった。
「魔力枯渇症は約一週間で治る。それまで耐えることを祈るしかない……」
魔力の減少は、一週間程度で収まることが分かっている。
それまで耐えることが出来れば、魔力は徐々に回復し、症状も収まるだろう。
だが、アリシアはまだ生まれたばかりの赤子だ。耐えられる可能性は低い。そのことはモーリスも分かっていた。
「どうにか、アリシアに魔力を供給することが出来れば……」
(魔力を供給する、どうすれば……)
アリシアも考える。
もし魔力を供給することが出来れば、魔力枯渇による症状が抑えられ、耐えられる確率が格段に上がるだろう。
しかし、魔力は人それぞれ異なる。他人の魔力を無理矢理押し込むと、そちらのほうが危険だった。
(魔力を供給するもの…………魔道具……? ……そうだ! 魔道具! 魔道具に魔力を供給するには――)
「……魔力、変換機」
(魔力変換機! それだ!)
それを聞いたモーリスは突然走りだし、やがて姿が見えなくなる。
しばらくしてモーリスが戻って来ると、手には大きな機械を持っていた。
「これは?」
「これは魔力変換機だ」
魔法とは、人間しか使うことが出来ない力だ。それを道具が使えるようになれば、暮らしは更に豊かになる。
そう考えられて作られたのが魔道具だ。
しかし、魔法を使うために必要な魔力とは、人それぞれ違っていて、魔道具に供給するのは難しい。
そこで開発されたのが、この魔力変換機だった。
魔力変換機で、それぞれ異なる魔力を均一にすることで、魔道具を使うことができると考えられた。
「魔力変換機で変換する魔力を、アリシアの魔力にすれば、僕たちの魔力をアリシアに魔力を供給することが出来るはずだ」
モーリスはアリシアに背を向け、医務室の扉に手をかけた。
「お待ち下さい!」
アリシアが、医務室に入ろうとするモーリスを止めた。
「それはまだ試作段階の物なのではないですか?」
「そうだね」
「なら、魔力の変換効率はかなり悪いはずです!」
アリシアが懸念しているのは、変換効率のことだ。
アリシアの記憶が正しければ、魔道具が実用化されたのは、ここから五年後のはずだ。
つまり、モーリスの手にある魔力変換器はまだまだ試作段階の代物。
アリシアのいた時代の魔力変換器と違って、変換効率はかなり低いことが予想できた。
「確かに、この魔力変換器の変換効率は低いよ」
アリシアの予想通り、この魔力変換器の変換効率はかなり低かった。
それこそ、ほぼ百%変換できる現在の魔力変換器の百分の一にも満たないだろう。
「危険すぎます!」
そんな変換効率では、モーリスの魔力量ですら、赤子のアリシアの回復にすら十分な量ではない。
アリシアは、魔力供給によって、父が危険になると考えたのだ。
しかし、モーリスはそんなアリシアに向けてニコりと笑った。
「昨日も言ったでしょ」
モーリスはアリシアの頭に手をポンと置く。
「命をかけてでも、娘は助けるって」
そう言ってモーリスは、医務室へ入っていく。
「お父様……」
そう呟き、流した涙を見た者は、誰もいなかった。
☆☆☆
それから一週間。
両親の活躍により、赤子のアリシアの容態は安定していた。
そのため、最初は落ち着きがなかった王城も、だんだんと落ち着きを取り戻していった。
アリシアも、自分が父親のことで取り乱してしまったことが恥ずかしすぎて、眠れない日々を送っていた。
しかし、一週間もすれば、ある程度落ち着くことが出来た。
そして、いつも通り朝の集会に向かい、メイド長の話を聞く。
「本日、アリシア様がご快復なさりました」
「っ!」
「ちょっ! アーシャ!?」
メイド長の言葉を聞いたアリシアは、後ろを向き、集会を抜け出して走り去っていく。アンジェラも慌ててアリシアに付いていった。
アリシアが向かう先は、もちろん医務室である。
「姫様! どちらへ!?」
追い付いたアンジェラがアリシアに聞く。
「決まってるでしょう! 医務室よ!」
「あ、へえ。そうですか、なるほど」
その答えを聞いたアンジェラは、ニヤニヤとした顔を作った。
その顔にアリシアがムッとする。
「なによ! 何か変?」
「いえ。姫様はモーリス陛下のことが大好きなんだな~と思いまして」
「な、なに言ってるの! そんなわけないじゃない!」
アリシアが顔を赤くして否定する。
「はいはいそうですね。私は分かってますよ」
「あなた絶対分かってないでしょ!」
アリシアとアンジェラはそう言い合いながら、駆け足で医務室へ向かう。
「あ! 見えた! 医務室よ!」
医務室を捉えたアリシアとアンジェラは、駆け足の速度を上げていく。
医務室の前に着くと、アリシアはバタンと扉を開けた。
「モーリス様! アリシア様のようだいは……? ……え?」
「これは……」
しかし、そこに両親や赤子アリシアの姿はなかった。
それどころか、簡素なベッドの代わりに豪華なベッドが、医療器具の代わりに魔道具が置かれていた。
(これはまさか……私の部屋?)
そう。扉の先に広がっていたのは、両親や赤子の姿ではなく、自分が十五年間使ってきた自分の部屋だった。
「ここは、姫様の部屋? 戻ってきたのですか? これは一体どういう……」
アンジェラも戸惑いの表情をする。
それもそうだ。なんの前触れもなく突然戻ってきたのだから。喜ぶ前に戸惑いが来て当然だ。
「ははっ。もしかしたら、私、部屋を間違えたのかも」
アリシアもあまりの同様に、事実を受け止められずにいた。
すると、声が聞こえてくる。
「姫様!? 何ですかその服は!?」
「――え?」
後ろを振り返ると、そこにはロモーラ・モズレーの姿があった。
しかしその姿は、二週間苦楽を共にした友人ではなく、新人メイドを地獄へ叩き落とす鬼教官だった。
「あなた、モズレーよね?」
「? どうしましたか? 私はロモーラ・モズレーですが」
その様子を見て、アリシアは自分達が帰ってきたのだと理解した。
「モズレーさん?」
「『モズレーさん』ですって? 上司に対して、さん付けとは何事ですか! アンジェラ! そこに正座しなさい!」
「は、はい!」
「確かに、若すぎるあなたを専属に任命したのは私ですが、まさかこんなに――」
モズレーはアンジェラを正座させ、説教タイムに移った。
アリシアはその様子を見て「帰ってきたんだな」と実感する。
「ん? この紙は?」
アリシアは足元に紙が落ちていることに気づいた。
その紙を拾うと、表には『アリシアへ』と書かれており、これがアリシア宛の手紙なのだと分かった。
アリシアは手紙を開き、中身を読む。
「ええと、どれどれ」
『アリシアへ
この手紙を読んでいるということは、無事に帰って来れたようだね。おめでとう。
私がアリシアを過去に送った理由は、あなたがどれだけ両親に愛されているかを、知って欲しかったからなんだよ。
本当は私の口から言って聞かせたかったのだけど、あなたに私の想いが響くとは思わなかったからね。
まことに勝手ながら、あなたの過去を使わせて貰ったよ。
両親は、あなたに心配をかけまいと、秘密にしていたそうだけど、まあ自分自身で知っちゃったんだし許してよね。
話を戻すけど、私があなたに言いたいことは三つ。
一つ目は、今回の旅であなたは、親のあなたに対する愛を知ったよね。そのことを忘れないで欲しい。
別に、今すぐ親と仲良くなれとは言わないわ。いづれあなたが素直になったとき
「ありがとう」
と言えるようになって欲しい。
最後に、あなたに愛すべき人が出来て、子供ができて、本当の意味で親への感謝を知って
「反抗期だった頃の自分にこの想いを伝えたい」
と思ったとき、行動を起こして欲しい。
私の願いはそれだけだ。
これからも頑張れ! 過去の私!
アリシア・グレースより』
「……そういうこと、だったのね」
アリシアは全てを理解した。
アリシアを未来に送ったのは、未来の自分だった。
その理由は、簡単に言えば、反抗期を直す手助けをすること。
そして、両親の愛を理解し、また次の自分に繋げて欲しいということだった。
(他でもない、自分からの頼みなんだから、叶えてやろうじゃないの!)
アリシアは時間旅行をさせてくれた未来のアリシアに感謝していた。
そのため、未来のアリシアの頼みは、絶対にやろうと心に誓った。
(それに、私が生きている間に時間跳躍が出来るってことが分かったからね!)
未来のアリシアから手紙が来たということは、少なくともアリシアが生きている間に、時間跳躍が可能なほど技術が進化するということだ。
こんなワクワクすることを教えてくれただけでも、未来のアリシアに感謝できた。
「ん? まだ続きが……」
アリシアは手紙に続きがあることに気づいた。
『PS
ちなみに、未来で時間跳躍機を開発したのは私だから!
あなたも頑張ってね (≧∇≦)b 』
「なんですって~!!!」
それはつまり、時間跳躍をしたいなら、自分で頑張れということだった。
「姫様!? どうしたのですか?」
「あ、いえ、なんでもないですわ」
「そうですか。……それよりも、その服はなんですか! 前の服はどこにいったのですか!?」
「それはですね、その……」
「あの服は、先代の国王様が『絶対に似合うから』と、国王様自ら用意して下さった服ですのよ!」
「え!? おじい様が! そうだったのですか!?」
「ええ、そうですよ。そう、あれはまだ私が見習いのころ――」
☆☆☆
その後――
アリシアは学校を主席で卒業。
親からも国民からも『次の国王はアリシア』と確実視されていた。
しかし、アリシアは辞退を希望した。理由は「未来のための技術を造る技術者になりたい」というものだった。
皆に失望されるのを覚悟していたアリシアだったが、両親はアリシアを応援すると言い、アリシアの辞退を認めた。
それからというもの、アリシアは次々と新技術を開発し、その傍ら時間跳躍の研究を行った。
また、いつも自分の研究を支え、応援してくれた男性と結婚し、子供を身籠った。
そして――
「よし、出来た」
「おかあしゃま。それなに?」
「これ? これはお手紙よ」
「おてがみ?」
「そう。ある反抗期の子に向けてのね」
「はんこうき? はんこうきってなに?」
「うーん。お父様とお母様が嫌いになること、かな? あなたもいつかなるかもいれないわよ?」
「えー! わたしは、おかあしゃまキライにならないよ!」
「ふふっ。そう? ……でも、もしあなたがお母様が嫌いになったとして、お母様はあなたを嫌いにならないからね」
「?」
「あなたのことは、命をかけてでも、守るから」
「うん! わたしも、おかあしゃまをまもる~!」
「そう? ありがとう」
――――
「ええと、設定を王歴858年の8月6日にして……」
「おかあしゃま。それなに?」
「今からお手紙とバイバイするのよ」
「おてがみさん、どこかいくの?」
「そうよ。それじゃあ一緒にバイバイしようか」
「うん!」
「じゃあ、このボタンを『せーの』で押すよ」
「わかった!」
「「せーの!」」
――ポチッ
「行ってらっしゃい。反抗期お姫様の所へ」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
……PV見る限り、ここまで読んだ人がいるか微妙ですけどね(笑)
読んでくれた方がいらっしゃったら、もしよろしければポイント評価もお願いします!
……いやホント、1ptでも入るかどうかで、今後のモチベーションが超変わりますので、どうかお願いします! この文章見てる人がもしいれば!
そんな訳で! さらば!