海斗の選択
二人はどのように考えているのか。
それを知るため、順番に視線を向けて問うてみる。
「……マスター」
まずはティセ。
彼女は多くを語らず一度頷くと、こちらをじっと見つめてきた。
海斗の選んだものであれば、どんな選択肢でも受け入れる。
そんな確たる想い、強い信頼が伝わってきた。
次に鵜坂。
彼女の表情には迷いが見える。
「えっと……私は……」
ヒーローに憧れる彼女は、人々のためにも戦うことを選びたいのだろう。
しかし彼女は一人でオークを相手取ることができない。
自分が足手まといになってしまうとことに対する歯がゆい気持ち。
上手く言葉を紡ぐことができない彼女の様子から、現実の理想の狭間で揺れ動く葛藤が見て取れた。
「…………」
考えをまとめるため、腕を組み目を瞑る。
普通のオークであれば問題ない。
しかし目の前にいるのは武装したオークに、それを統べる王。
正直ブヒートだけでも手一杯だ。
もしもこの数を相手にした場合、奇跡でも起きない限り、全滅は免れないだろう。
奇跡とは起きないから奇跡なのだ。
そんな不確かなものに期待して策もなく挑むほど、海斗は愚かではない。
ではもしここから逃げる選択肢を選んだ場合どうなるのか。
これほどの数のオークが街に解き放たれたなら、その被害は甚大だろう。
なんの解決にもならないだけでなく、先送りにすることで、より大きな問題が発生する可能性が高い。
どうするべきか。
頭を悩ませていると、ふと浮かんでくるものがあった。
『ぶっちゃけ俺、なんの責任もなくないか?』と言う思いだ。
ふと頭に浮かんだ考え。
時間が経てば経つほどそれが正しいと思えてしまう。
だがなにもせずに見捨てるのは後味が悪い。
どちらを選んでも問題があるのなら、出来る限りのことをやればそれでいいだろう。
可能な限り勝率を高めて戦闘を行い、無理そうなら即撤退。
ティセと鵜坂を抱えて逃げるくらいなら、恐らくなんとかなるだろう。
方向性が決まれば後は行動するだけだ。
目を開いた海斗は、ブヒートに視線を向ける。
「……決まったぶひか?」
「ああ、これって俺に対する褒美なんだよな?」
「そうだぶひ。今回だけの特別サービスなんだぶひ」
「それなら……」
これから提案すること、それを受け入れるメリットなど一ミリもない。
同じ人間相手であっても一笑に付されてしまうだろう。
しかしこの目の前のオークキング――ブヒートであれば、受け入れる可能性がある。
高い知性を持ち、戦士の矜持を口にする相手なのだから――
「……ブヒート、お前との一騎討ちをを希望する!」
海斗の発した言葉に周囲がざわめく。
オークたちは言わずもがな、ティセと鵜坂も戸惑っているようだ。
「落ち着くぶひー!!」
ブヒートが一喝すると、一瞬でオークたちのざわめきがおさまる。
さすがはオークを統べるもの。
こう言った部分からもカリスマ性を感じることができた。
「面白い……さすがはあのアレゼルが認めた男ぶひー。いいぶひよ。受けてやるぶひー」
笑みを浮かべたブヒートが一歩前で出る。
しかし即座に彼へと動く影が一つ。
側近らしきオークが必死に首を振りながら、ブヒートの説得をはじめた。
「お前の言わんとすることは理解できるぶひ。しかし挑まれて逃げるようではオークの王を名乗ることはできんぶひー」
臣下の肩に手を乗せ、ゆっくりと語って聞かせる。
その姿は、正に名君といった雰囲気を醸し出していた。
部下に尊敬され、誰よりも前に立つ組織の長の姿。
それは海斗の決して短くない社会人生活において、一度も見たことのないものだ。
敵であるはずのオークたち。
少しだけ羨ましい。
彼らのことをそんな風に思ってしまうのも、ある意味では仕方のないことだろう。
「お前はこの戦いになにを望むぶひ? 我ら誇り高きオークの習わしに従い、一つ願いを言うぶひ! 敗者は勝者に従うのがオーク族の掟ぶひ」
可能であれば持って行きたかった流れ。
それがまさか相手から提案されるとは。
海斗は思わぬ展開で漏れそうになる笑みを抑える。
「俺が勝ったら……お前たちはこの場所から出ないで大人しくしていて欲しい」
「……ふむ。地上へ出るなと言うことぶひか……少し待つぶひ」
こちらの希望を検討するため、ブヒートは側近のオークたちと相談をはじめる。
『オーク族の掟は絶対』『確かに任務が』『オーク族だけなら』
断片的にではあるが、様々な情報が海斗の耳に届く。
暫く続いていた話し合いが終了し、ブヒートはこちらに向き直る。
「わかったぶひ。お前が我に勝てたなら、その願い叶えてやるぶひ。我の意思が及ぶ範囲……オーク族はここから出ないことを約束するぶひ」
「ああ、頼む。えっと……ブヒート、だったか? それでアンタは俺になにを望むんだ」
問いかけると、ブヒートは不敵な笑みを浮かべながら口を開き――
「我が勝利した場合……お前には我の配下になってもらうぶひ」
発せられた予想外の言葉に、一瞬海斗は固まってしまった。




