与えられた選択肢
「……ぶひぃ? なんの話をしようとしてたんだっけぶひか?」
「いや、それを俺に聞かれても、わからんけど……」
当たり前のように話しかけられてしまったからだろうか。
海斗は思わず、普通に返事を返してしまう。
返答を聞いたブヒータは、こちらへと助けを求めるように視線を向けてくる。
そんな目で見られたところで、なにもできることなどない。
海斗が視線を逸らすと、彼は絶望の表情を浮かべた。
こちらに頼ることができないと悟ったのだろう。
恐る恐る、臣下へと振り返り助けを求める。
「ぶひぶひーぶっぶひぶひ……」
即座にブヒータへと駆け寄る参謀らしきオーク。
海斗の耳にはただ鳴いているようにしか聞こえない。
しかし頷きながら聞いているブヒータの様子から、それがオークの言葉なのだと察することができた。
「そうだったぶひ! アイツの話をするんだったぶひ……助かったぞぶひー!!」
「ぶひぶひっ!」
感謝を伝えるオークの王。
そしてその言葉に照れた表情を浮かべる臣下のオーク。
そもそも、なぜ海斗にオークの表情が理解できるのか本人もわかっていない。
しかし彼らの仕草、ブヒータの言葉から、それはあながち間違いでもなさそうだ。
「ぶっふっふっふー! お前には礼を言わねばならんぶひ!!」
「……どう言うことだ?」
こちらへと向き直り、投げかけられた言葉。
それが理解出来ず、即座に問い返す。
普通にモンスターと会話が成立している。
今まで持っていた常識がことごとく破壊され、海斗は軽く頭痛を感じてしまう。
「その大剣を持ってるってことは、お前がアレゼルのヤツを倒したぶひ?」
大剣を地面に突き刺し、海斗は腕を組む。
敵を前にして武器を手放すなど本来は有り得ない行動。
しかし海斗にはブヒータが不意打ちを仕掛けてくる姿が想像できなかった。
「……アレゼル?」
オークの王から視線を外し、海斗はしばらく考える仕草を見せる。
しかし適切な答えを発することはできず、首を傾げながら問い返す。
それはブヒータの発した名称――アレゼル――に覚えがなかったからだ。
「……ぶひ? アイツ、名乗ってなかったのかぶひ? 全く……そう言うところが抜けてるんだぶひー……お前、真っ黒な鎧を着てる騎士に覚えがないぶひか?」
「ああ! アイツのことか!?」
特徴を聞き、すぐに海斗はアレゼルなる人物に思い至る。
圧倒的な実力を誇った猛者。今でも勝てたことが不思議なほどの相手。
それはかつて死闘を繰り広げた漆黒の騎士のことを指しているようだった。
目の前のオークキングだけでなく、漆黒の騎士にも名前があったとは。
他の個体とは違う特別な相手だとは思っていたが、名前に個性――まるで自分たち人間と同じ存在のようではないか。
海斗は自身の脳裏に浮かんだ、馬鹿らしい考えを掻き消すために心の中で頭を振る。
そして話の続きを聞くために、ブヒータへと視線を戻した。
「よかったぶひー。もし知らないって言われたらどうしようかと思ったぶひ……」
ブヒータは安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろす。
ここは『知らない』と答えるべきだっただろうか?
その仕草を見ていると、ムクムクと海斗の中に悪戯心が顔を出しそうになる。
――一体なにを考えているのだろう。
海斗がブヒータと会ったのは、今が初めてのはず。
正直なところ、この半年はティセのことで頭が一杯だったため、記憶が曖昧な部分もある。
しかし流石に、こんな特徴的な相手と会話をした記憶は忘れるはずもないだろう。
例え同じ人間であっても、初対面の相手と上手く話をするのは難しい。
それなのにブヒータとは、まるで旧来の知人であるかのように会話できてしまっている。
「アイツは頭の固いところがあったぶひ。でも、お前と戦ったことでマシになれたと思うぶひ。だから感謝してるんだぶひ!」
「そ、そうか……」
「そうなんだぶひ。だからお前には褒美をやるぶひ。本当は侵入者は倒さないといけないぶひが……今回は特別に見逃してやるぶひよ!」
「……えっ!?」
想像していなかった言葉に、海斗は思わず驚きの声を漏らす。
普通に考えれば、モンスターの言うことなど検討するに値しない。
しかし目の前のオークキングが発する言葉はなぜか信じられる気がした。
どうするのが正解なのか。
一人で答えを出すことは難しい。
海斗は意見を求めるため、仲間たちに視線を向けた。




