敵かそれとも……
豚――モンスターが人間の言葉を喋っている。
その有り得ない事態に、海斗たちは困惑してしまう。
「猿人族よ特別に我が名を知ることを許す! 我はブヒート、偉大なるオークの王ぶひー!」
どう反応していいかわからず、固まっている三人に向かって、オークは自身の名を告げてきた。
玉座に腰掛けるオークの王。確かに敬称に恥じぬ実力を備えているのだろう。
距離が離れているにもかかわらず、海斗は身の竦むような威圧感を感じていた。
整列しているオークの精鋭だけでもかなり厳しい戦いが予想される。
それだけでも厄介なのにオークの王――ブヒートは確かな知性まで備えていた。
ヤツがなぜ人の言葉を喋ることができるのか。
こちらを差すであろう猿人族とはなんなのか。
疑問は尽きないが、海斗はそれ以上に気になって仕方ないことがあった。
「どうした猿人族の勇士よ。我の威光に恐れおののいているのかぶひ?」
わざとなのだろうか?
もしそうなのだとすれば、かなりの策士なのかもしれない。
ヤツの語尾を聞いているだけで、身体から力が抜けそうになる。
「…………」
「特別に言葉を交わすことを許すぶひー」
この語尾はデフォルトで設定されているようだ。
これ以上気にしても話が前に進まない。
言葉が通じるのであれば意思疎通を図ることができるはず。
そう考えてはみたものの、モンスターなんの話をすればいいのだろう。
話題を探そうとして、海斗はふと気付く。
むしろこれはチャンスなのではないだろうか?
そう考えた海斗は、ティセに視線で合図を送る。
こちらの意図を汲み取ってくれたのだろう、彼女の差し出したモノを海斗は手に取り――
「ふむー言語はこれで問題ないはずな……」
「……ふんっ!!」
全力でブヒートに向かって投擲する。
「……ぶひっ!?」
風切り音と共にブヒートへと迫る黒い影。
突然の事態に驚きながらも、オークの王は即座に玉座から飛び退き――
その直後、轟音を響かせながら、『魔鉄の戦斧』が玉座に突き刺さる。
「ちょっ、お前!! 突然なにするぶひーーーー!!」
もし直撃していれば、自身の頭部に突き刺さっていたのだ。
怒るのは自然なことだろう。
状況が理解できず、ざわめくオークの精鋭たち。
仲間の鵜坂まで口をぽかんと開いたまま固まっている。
「……なぁティセ、俺なんか変なこと、やったっけ?」
「う~ん、アタシにもわかんないかな」
「お、おま……会話中に武器を投げてくるとか頭がおかしいじゃないぶひか!」
こちらを指差しながらブヒートは怒鳴り声を上げた。
取り巻きであるオークの精鋭も、彼の言葉に深く頷く。
なぜか海斗の背後で、味方であるはずの鵜坂まで頷いている。
――解せぬ。
「いやー、もしかして先制攻撃可能なボーナスタイムかと思って……」
当たり前のように答える海斗。
ブヒートの目には理解できぬ存在への恐怖が浮かんでいる。
「そんなわけないぶひ!! お前には戦士の矜持というものがないのかぶひーー!?」
だが流石はオークの王。
すぐに気を取り直し、更なる抗議を重ねてきた。
取り巻きのオークはいうに及ばず、なぜか鵜坂もブヒートの言葉に再び頷く。
彼女にいたってはぼそりと『センパイの方が……悪っぽい』と呟く始末だ。
――本当に解せぬ。
全くもって納得できない状況。
しかし周囲では海斗が悪いという空気ができあがっていた。
「あーなんかすまん……」
ティセは味方してくれているが、多勢に無勢。
圧倒的なアウェイ感に気圧され、仕方なく海斗は素直に謝ってみることに。
「……わかればいいぶひ。オークの王たるブヒート様は広い心で許してやるぶひ」
想像以上に簡単に許してくれた。
周囲のオークたちは、王を称えるように拍手を送る。
手を振り応えるブヒート。
それはコミカルだが、確かなカリスマ性を感じさせる光景。
出会ったら即座に襲いかかってくる他のモンスターとは明らかに違う。
オークたちから感じ取ることのできる人間味のある行動。
モンスターとは倒すモノ。
培ってきた常識が覆されてしまいそうだ。
海斗は目の前のオークたちと戦わなければならない。
しかしその様子を知るほどに憎めなくなっていく。
このオークたちは意外と気のいいヤツらなのかもしれない。
そんな不思議な感情が海斗の中に芽生え始めていた。




