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最奥にて待つモノは……

「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 気合い一閃。

 全力で放った袈裟懸け斬撃が、オークの身体を一刀両断する。


 臓物を撒き散らしながら、回転して飛んで行く上半身。

 まさに敵対者の戦意を挫く一撃だ。


「鵜坂の方は……」

「大丈夫だよマスター、もう終わるみたい」


 鵜坂へと視線を向けると、彼女の拳を受け、陥没する緑色の頭部が目に入る。

 ティセの言葉の通り、心配する必要はなさそうだ。


「ああ、問題なさそうだけど……エグいな」

「えっと、それ……マスターだけは、言っちゃダメだと思うよ……」


 撲殺という討伐方法は中々にエグイ。

 しかし海斗の戦い方と比べれば、全然まともに見えてしまう。


「むぅ……」


 少し不服そうに口を尖らせていると、戦闘を終えた鵜坂が歩いてきた。


「なんとか片付きましたね……ってセンパイ、なんでそんな変な顔してるんですか?」

「おま……変な顔って先輩に向かって酷くないか?」


 後輩のあんまりな言葉に苦情を入れる。


「あっ、センパイの顔の話じゃなくて表情の話ですよ。むしろ顔は私のこ……」

「……ん? 最後の方が聞き取れなかったんだけど」

「な、なんでもないです! ほら、先に進みましょう!」


 鵜坂の言葉の続き。

 それが少し気にはなるが、彼女の様子から察するに聞いても答えてはくれなそうだ。


「そだね。ラ○ダーの言う通りかな。マスターはやく行こうよ!」

「おま……ラ○ダーって、それはさすがに……」


 海斗も内心では散々、仮○ラ○ダー扱いしている。

 しかし、面と向かってラ○ダー扱いするのはどうなのだろう。

 そう考え注意を促したのだが――


「でもさマスター。ほら……あんな感じだしいいんじゃない?」

「……ラ○ダー、それは正義の象徴。うん、悪くないかも」


 ティセの指差す先でテレテレと喜んでいる鵜坂を見て、どうでもいい気がしてきた。


「……あー、道はこっちであってるのか?」

「うん! 間違いないと思う……これだけ離れてても感じるから」


 話題を変えるためティセに問うてみると、明確な答えが返ってくる。


「でもそこには……あのオークみたいなのがうじゃうじゃいるんですよね?」


 気を取り直した鵜坂が会話に加わる。


「うーん、正確な数はわかんないけど、かなりいると思う。それにこの気配……多分前にマスターが戦った騎士クラスのヤツもいそうな気がする……」


 彼女の言葉を聞き、あの日の戦いを思い出す。

 あらゆる手段を用いてなんとか討伐した強敵のことを。


「騎士って……前にセンパイ達がダンジョンで戦ったボスなんでしたっけ?」

「ああ、多分もう一度戦ったら勝てるかどうかわからない……そういうレベルの相手だったよ」

「センパイでも勝てるかわからない……」


 驚いている鵜坂には悪いが、正直なところ気が重い。

 オーククラス以上となると、鵜坂を戦力に数えることはできない。


 更にはあの漆黒の騎士と同レベルの敵が存在する可能性。

 できることなら、今からでも地上に逃げ帰りたい。

 しかし放置すれば大変なことになるのは目に見えている。


「ああ、でも無視するって訳にもいかないだろ。やれるだけやるしかないさ」


 自身の心を奮い立たせるように、海斗は言葉紡ぐ。

 不安そうな鵜坂の肩を軽く叩き、再び三人で通路を進み始めた。



「マスター! この先……もう近いよ!!」


 ティセの言葉を聞き、海斗は立ち止まる。


「思ってたよりも時間がかかっちゃいましたね」


 鵜坂の言葉に頷きを返す。


 ここまで何組かのオークとゴブリンと戦ってきた

 戦闘を伴えば、自ずと時間はかかるもの。

 しかしそれを加味したとしても、あまりにも海斗たちの歩みは遅かった。


 その理由はなぜなのか。

 原因は対峙したモンスターたちにある。


 以前このダンジョンで戦った時。

 そしてダンジョン外でのゴブリン狩り。

 常にヤツらは好戦的だった。


 しかしこの二階層にいるモンスターは違う。

 ゆっくりとこちらの様子を窺うように行動しているのだ。


 それはまるで、なにか別の思惑があるような気さえする。

 はっきりとした理由は説明できない。

 しかし海斗は、強烈に嫌な予感を感じていた。



「この先、みたいだな」


 少し進んだ先で立ち止まる海斗たち。


 目の前には巨大な見覚えのある扉が存在している。

 それは一階層の闘技場の入り口と同じもの。

 どうやらダンジョンのボス部屋とこの扉はセットのようだ。


 この先になにが待ち受けているのか。

 不安は尽きないが、開いてみないことには答えはでない。


「二人とも……行くぞ!」


 ティセと鵜坂。

 二人が頷いたのを確認し、海斗は扉に手をかける。


 音もなく開かれたその先には――


「「「……ッ」」」」


 三人同時に息を飲む。

 思わず頭を抱えたくなるような光景が待っていた。


 そこは一階層の闘技場とは違う、厳かな雰囲気を放っている。

 例えるならファンタジー世界の王城にある、謁見の間のような場所だった。


 室内には無数のオークたち。

 鎧を身に付け、手には武器を装備。

 斧に剣に槍、変わったところだと弓や杖を持っている個体もいる。


 だが驚くべきはその装備ではない。

 ヤツらは統率され、整列しているのだ。

 まるで室内の最奥に座する者を守るように――


 玉座に腰かける存在に視線を向ける。

 明らかに他のオークとは違う王者の気配。

 それはあの日戦った、漆黒の騎士と同質のもの。


 両者の視線が交わり――


「ぶっぶっぶっ……よくぞここまできたぶひー」


 オークの王は口を開いた。

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