異変
「……おぉ」
海斗は驚き目を見開く。
身の丈ほどもあろうかという、巨大な戦斧が一瞬で目の前から消える。
それはなんともファンタジーな出来事だった。
「先輩センパイせんぱい! 今のって……今のって!?」
目の前で起きたことが信じられないのだろう。
鵜坂は海斗の胸元を掴み、ガクガクを身体を揺さぶってくる。
「えへへー凄いでしょ~、これからはアタシがいれば荷物のことなんて気にしなくて良くなるんだよ!!」
嬉しそうに胸を反らすティセ。
確かに彼女の言うとおり、荷物を気にしなくてよいと言うのは物凄いアドバンテージだ。
「…………」
ティセの身に着けた新たな能力。
それは海斗にとって、非常に大きな助けとなるもの。
本来であれば彼女を褒め称えるべきだろう。
しかし、今の海斗にはそんな余裕などない。
なぜ余裕がないのか?
それは、ティセが喋っている間も、鵜坂は海斗を揺さぶり続けていたからだ。
視界の揺れは次第に激しさを増し――
今や酔ってしまいそうなほどに激しくなってる。
――非常にマズイ。
徐々に白く染まっていく海斗の意識。
「ちょっ! マスター!? あ、アンタ、なにやってんのさ!? 早くマスターから手を離しなさいよ!!」
ガクガクと揺さぶられている海斗を救うため、ティセはペシペシと鵜坂の腕を叩く。
「あっ……す、すいません。つい……」
「ついじゃないってば! マスターになんかあったらどうするつもりなのさ!!」
目を吊り上げたティセの必死の訴えを受け、鵜坂はパッと手を離す。
本当に危ないところだった。
もしあと少し助けが遅れていれば、海斗は意識を失っていただろう。
責め立てるティセ。
しょんぼりとする鵜坂。
そんな二人を視界の隅に捉えながら、海斗は地に手を突き呼吸を整えた。
「マスター、本当に大丈夫?」
こちらの顔を覗き込みながら、ティセは心配そうに声をかけてくる。
「センパイ……本当にすいませんでした……」
海斗は自身の状況を確認する。
少し頭がふらつくものの、行動に支障はなさそうだ。
「マスター、ホントに大丈夫? 無理してない?」
海斗は問題ないと手を振る。
すると二人はほっと息を吐いた。
先程まで言い争っていたにも関わらずそのタイミングはピッタリと一致している。
意外と相性は悪くないのかも知れない。
「ねえねえマスター、さっきから気になってたんだけど……」
「……ん? どうしたティセ?」
きょろきょろと周囲に視線を向けながらティセが口を開く。
落ち着いたことで、なにか気になることでも出て来たのだろうか?
そう思い気軽に口にした言葉――
「歌恋ちゃんはどこにいるの?」
しかし返ってきたのは、あえて避けていた話題。
海斗にとって一番触れられたくない部分だった。
「あーそれは……」
明確な答えを返すことが出来ず、海斗は思わず口ごもる。
あの日以来、歌恋とは話をしていない。
自業自得とはいえ、それをはっきりと口にするのは、どこかバツが悪かった。
ティセはじと~っとした目をこちらに向けてくる。
彼女から視線を逸らしながら、海斗はなんとか返す言葉を探す。
「……もしかしてマスター」
「うっ……」
こちらの内面を見透かすような、どこか呆れを含んだ声音。
ティセは腰に手を当て、上半身をずいっと前に出すようにして、こちらを指差してきた。
これは説教コースだろうか。
海斗が恐る恐る彼女の様子をうかがっていると――
「はぁ……本当にマスターは仕方ないんだから……」
ティセはガックリと肩を落とした。
態度は時として言葉よりも雄弁に物事を語る。
流石はパートナー。どうやらこのやり取りだけで、すべてを察したようだ。
「えっと……歌恋さんって……」
これまで黙って話を聞いていた鵜坂。
しかし流石に知らない人物の名前が気になったのだろう。
確認するために、質問を投げてくる。
「あーそれは……と、とりあえず一度もど……うおっ!?」
帰還を切り出そうとした海斗を、突然発生した強い光が襲う。
それはダンジョンの壁面が発したもの。
海斗は、驚きながらも、周囲に変化がないか慎重に辺りを確認する。
「これって……もしかして!?」
ティセは声を上げると、探るように目を瞑り――
一瞬ののち、顔色を変え慌てた様子を見せる。
周囲に目に見えるような変化はない。
しかし彼女はなにかを感じ取っているようだ。
「マスター、マズイよ! 早く行かないと!!」
ティセは焦りを隠すことなく、海斗へと近づき服を引っ張る。
「このままじゃ大変なことになっちゃう!?」




