なにかが違う……
小脇にヘルメットを抱えながら先導する鵜坂。
彼女に案内されながらゲートを潜り、階段を降りていく。
目の前に広がるのは、どこか見慣れた風景。
あの日、ダンジョンから脱出した際に通った場所だ。
薄暗い通路に淡い光を放つ壁面。
階段を下りきり、ダンジョンへと続く通路の前で立ち止まった鵜坂は――
「センパイあの時は本当にありがとうございました」
お礼の言葉を口にし、律儀にお辞儀する。
「別に気にしなくてもいいさ。まあ流石に鵜坂が仮○ラ○ダーだったとは思わなかったけどな」
わざわざ礼を言う必要はない。
そう伝えるため、手を振りながら軽く応える。
「仮○、ラ○ダーですか? あー確かにそう言われて見れば、昭和最後のラ○ダーって黒っぽい格好してましたっけ」
なぜ昭和ラ○ダーの話題が通じるのだろう。
彼女は平成生まれ。普通に考えれば、知らないはずの情報だ。
先日共闘した際うっすらと感じていたのだが、彼女は特撮好きなのかもしれない。
「あー取りあえず、歩きながらでいいから、鵜坂がどうしてそんな格好してるのかって聞いても良いか?」
海斗達は村本の条件を了承し、ダンジョンを探索することになった。
鵜坂は監視役兼、道案内と言った名目で同行している。
今回の探索が完了するまで彼女とはコンビを組むのだ。
疑問は早めに解消しておいた方がいい。
相変わらず例のボディースーツを着込んだ後輩に、当然の疑問を投げかける。
「あー確かに驚きますよねー、コレ。えっと……センパイも受けたと思うんですけど、四月の頭に一斉健康診断があったじゃないですか?」
歩きながら問いを返してくる後輩。
海斗は彼女の言葉に少し考える仕草を見せる。
うっすらとした記憶を手繰り思い出す。
確か健康増進なんたらで、国が費用を負担する。
そんな感じの話があったような。
どうしてすぐに出てこなかったのか。
それは仕事が忙しすぎてスルーしていたからだ。
ブラック企業に勤める人間からしてみれば、費用云々の話は関係ない。
そもそも受ける時間自体が存在しないのだから。
だが話の腰を折りたくない。
そう考えた海斗は、素知らぬ顔で頷きを返す。
「そこで私に……適正、って言うんですかね? それがあったみたいで、スカウトされたんですよ~」
国家主導でそんな怪しげな検査をしていたとは。
なんとも言えない気分になるが、海斗は一つの事実に気付く。
それはつまり、国がダンジョンのことを把握していると言うことだ。
「なるほど? でも鵜坂が戦う必要なんてないんじゃないか?」
国の思惑はわからない。
だがもし海斗が同じ立場だったなら、恐らくスカウトを拒絶するだろう。
なぜ戦うことを選んだのか。
彼女の考えを知りたいと思い問うてみる。
「確かにそうなんですけど、ほらヒーローって何か格好よくないですか?」
返ってきた答えは何とも彼女らしいもの。
しかし格好いいと言うだけで戦うのはどうなのだろう。
「まあ、気持ちは分からんでもないけど……」
「でしょ~。それに結構貰えるんですよ?」
右手の人差し指と親指で輪を作る鵜坂。
なるほど。
現金な話だが、誰かがやらなくてはいけないことだ。
彼女にもメリットがあるのなら悪くないのかもしれない。
鵜坂ととりとめのない会話をしながら通路を進んで行く。
周囲に視線を巡らせると、地震で崩れたと思っていたダンジョンは健在。
ほぼ変わらぬ姿を残している。
しかし以前と明らかに違う部分がある。
それは言葉では言い表しにくい。
だがあえて言うのであれば『空気が違う』のだ。
海斗は確かめるように『気配察知』を発動する。
やはり周囲にモンスターの気配はない。
「あっ、別に警戒しなくても大丈夫ですよ~」
鵜坂はあっけらかんと言い放つ。
「……それってどう言うことなんだ?」
「えっとですね~、これ結構奥にある闘技場みたいな部屋までは何も出ないんですよ」
疑問に思い問い返してみると、期せずして海斗の考えが肯定される。
確信を持った口調。
彼女の様子からして、きっとこの場所には何度も来ているのだろう。
「この場所……ダンジョン、でいいんですかね?」
海斗は返事を返しながら、こくりと頷く。
「なんか村本さんが言うには、更に下の階層があるっぽいんですよね」
鵜坂の話に驚きを覚える。
以前この場所を探索した際、地下に降りる階段など見当たらなかった。
物理的に塞がれている場所以外は全て探索したはず。
それでも目にした覚えがないと言うことは――
海斗の中で一つの仮定が生まれる。
さきほど彼女は『闘技場みたいな場所』と言っていた。
つまりこれから向かう場所は――
詳しく調べることのできなかった、あの場所と言うことだ。
「下層でモンスターが溢れて、それが地上に……って感じみたいです」
モンスターは魔素によって産まれてくる。
そんな存在がダンジョンと言う枠を超え、外界にまで溢れ出る状況。
海斗の口元に僅かな笑みが浮かぶ。
脳裏に浮かぶのはスマホに表示されていた緑のバー。
今週狩ったゴブリンの総数は三〇〇匹近い。
割合で考えれば既にゲージが貯まっていてもおかしくないはずだろう。
しかし表示されているインジケーターは、九割程度を境に全く動かなくなった。
ここから先はゴブリン程度ではダメなのかもしれない。
もっと大物を狩らなければ――そう考えたからこそ、海斗はこの場所を訪れたのだ。
「まあ直接見たわけじゃないから本当のところは分かんないんですけどね」
一通り話し終え、鵜坂はお手上げポーズを取る。
この先に待つモノを考えると、期待に胸が膨らむ。
海斗はワクワクとした気持ちを抑えながら、彼女の案内に従いダンジョンを進んで行った。




